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悩める高校生「勇人君」シリーズ

祖父(じいじ)が教えてくれた夢

作者: 西条基樹

前作「阪神淡路大震災」で大人気だった(…この前振りはもういらないでしょうか(^^;))悩める高校1年生「勇人君」のその後第3弾です!(やっぱり、連載にした方がいいかな(--;))

「昨日の交通事故死者0…よしっ!」


勇人はやとは、派出所にいつも掲げてある黒板を見て言った。


「なによりなにより…」


勇人はそう年寄のように言うと、駅に向かって歩き出した。


……


勇人が学校に向かっていると、公道から少し奥まった路地で、クラスメートの「横井」が不良らしい男子学生に囲まれているのが見えた。


(まいったなぁ…)


勇人は立ち止まって頭を掻いた。正直、関わりたくない。だが、横井は仲がいいというほどではないにせよ、同じクラスの生徒だ。

勇人はいったん通り過ぎたが、ふと気づいたようにバックで戻り「あれ、横井?どうした?」と声を掛けた。不良たちは何かぎくりとしたように勇人を見た。そして皆、走り去って行った。


「????」


からまれる…と思っていた勇人は不思議に思いながらも、横井に駆け寄った。


「大丈夫か?」

「ありがとう、沢原君…助かった…。」


横井は涙目になっている。勇人は「どないしたんや?」と学校の方を指差して歩き出した。

横井は慌てて勇人と並んで歩きながら言った。


「他の学校の人やったみたいなんやけど…彼女が俺のこと好きになったとかで…いちゃもんつけられて…」


横井は確かにイケメンだ。よく学校の校舎の前で、どこかの学校の女子生徒たちが横井を待っていることもあった。

勇人が「とばっちりやな。気の毒に。」と言うと、横井はうなずいて、ぐいっと手の甲で目を拭った。


ちなみに、近所では「ウェンツ君」とあだ名されている勇人でも、女子に校門で待たれることはない。それだけ、横井がイケメンだという事だ。それに勇人と違って、横井は愛想がいい。他校の女子たちがどこまで知っているのかどうかはわからないが、横井は学年でもほとんどトップ成績の秀才でもあった。


……


学校が終わり、勇人は校門を出た。そして駅に向かって歩いていると、急に路地から腕が伸び、引き込まれた。


「!」


勇人を引きこんだのは、朝、横井を囲んでいた不良たちだった。


「お前」


独りのボスらしい男子生徒が言った。


「あの横井ってやつの友達か?」

「そうですけど?」


勇人は不良たちを見渡しながら言った。


「それがなんでしょう?」

「あいつな、俺の彼女を横取りしよったんや。」

「横井が横取りって、しゃれにはおもろいけど…」


勇人がそう言うと、傍の男子がぷっと笑った。そしてすぐに隣の男子に叩かれている。

勇人は少し気が楽になって言った。


「…横井は何も知らん言ってましたが。」

「知らんわけない!俺の女、横井って奴と付き合ってる言うたんや!」

「へぇー…。それで?」


不良達はおびえもしない勇人に少し驚いているようである。ボスらしい男子が言った。


「それで…横井の代わりにお前が弁償せえや。」

「弁償せえって何をです?」

「金出せ。10万や。」

「なんで俺が?」

「朝、邪魔したからじゃ!」

「なんや、金欲しいだけやないですか。」

「…うるさいなぁ!今日は1万で許したる!金だせや!」


ここで、勇人のスイッチが入った。


「じゃぁ聞きますけど?」

「?…なんや?」

「俺がここで金を出したら、彼女は戻ってくるんですかね??」

「!」


不良たちが面食らったような顔になった。


「そんなことで帰ってくる女子なんて、本当に彼女と言えるんでしょうか?」


不良たちは、顔を見合わせている。ボスらしい男子は何か言いたそうだが、言葉がでないようだ。


「そんな女子とは手を切るべきですよ、これを機会に別れたらどうです?」


勇人がそう言った時「先生っ!こっち!」という声がした。不良たちが驚いて、顔を見合わせた。


「こっちです!早く来てっ!!」


その声と共に、ばたばたと足音が近寄ってくる。不良たちは慌てて反対側へと逃げて行った。


(へたれな奴らで助かったな)


勇人がそう思った時「沢原君!」と言う声がして、横井が路地に顔を出した。独りだ。「先生」はいなかった。横井のとっさの思い付きだろう。


「大丈夫?」

「うん。ありがとう。」

「ううん、先に助けてもらったの僕やもん。ごめんね。沢原君。」


横井がまた涙ぐんでいる。勇人は路地から出ながら言った。


「ええよ。それにあいつらが言ってる「彼女」ってのは存在せえへんわ。」

「え?」

「金が欲しいだけやったみたいやで。もうお前に言いがかりつける事はないやろ。」

「…ありがとう…」


横井がまたそう言って、勇人に頭を下げた。


……


翌朝、勇人は少し警戒していたが、何ごともなく校門についた。そして校門に横井が立っているのを見て、ほっとした。横井は勇人を待っていてくれたようだ。


「沢原君!」


横井が嬉しそうな表情で勇人に駆け寄ってきた。


「よかった!駅まで行こうと思ったんやけど、入れ違いになったらって思って…」


勇人は笑って「そんなことまでせんでええよ。」と言った。横井が勇人と並んで歩きながら言った。


「ほんま、ありがとう。…なんかお礼したいんやけど…」

「何言うてんねん。俺も助けてもらったんや。これでおあいこやろ?」

「そやけど…もとはと言えば、僕が…」

「あ!!ほんなら、2つ甘えるわ!」

「2つ?」


横井は笑って「ええよ。何?」と言った。


「1つは「君」つけんのやめて。」


横井は目を見張ってから、笑った。


「わかった。これからは「君」つけないよ。もう1つは?」

「うん…」


勇人は頭を掻きながら言った。


「勉強教えてや。」

「!!勉強?」

「うん。俺、今授業についていけへんねん。…数学なんて特にちんぷんかんぷんや。」

「ええよ!僕がわかる範囲でよかったら教える!」

「ありがとう!助かるわ!」


勇人がそう言うと、横井は嬉しそうな顔をした。


……


(こいつ、どこまでイケメンやねん。)


放課後、校庭のベンチに座った勇人は、グランドを走る横井を見ていた。

横井は「サッカー部」だ。それもオフェンスのエースである。…ちなみに勇人は帰宅部だ。


…勇人は、ぼんやりと横井がサッカーボールを操る姿を見ていた。


(こいつの夢はサッカー選手なんかな…ええなぁ…夢あって…)


勇人がそう思った時、横井がシュートを決めた。


「やった!」


勇人は思わず立ち上がって、拍手をした。横井が驚いて勇人の方を見た。そしてうれしそうに走り寄ってきた。


「帰ったんかと思た。」

「勉強、教えてもらおうと思ってたんやけど、お前サッカー部やったって、さっき気づいてな。」

「ごめんな。もうすぐ試合やから、放課後は無理やわ。」

「かまへん。また昼休みでも教えてや。」

「うん。」

「横井、サッカー選手になるん?」


勇人がそう言うと、横井は驚いた目で勇人を見た。…が、すぐに視線を勇人の胸の辺りに落とした。


「…なりたいけどな…。僕、もう先決まってんねや。」

「?…決まってる?」

「うん。親の家業継がなあかんねん。」

「!!横井んとこ、社長さん?」

「社長言うと聞こえはええけどな。中小企業の経営者なんや。」

「…そうなんや…。」

「僕な…結婚相手まで決められてるんや。」

「!?えっ!?」


勇人は驚いた。今の時代でもそんな事があるのかと思った。


「…だから、女の子を好きになることも許されへん。相手の子も悪い子やないんや。…でもな…なんやむなしいわ。…生きてんの…」

「!…横井…」


勇人はぞっとして、横井の肩を掴んだ。横井は、はっとして顔を上げて言った。


「死ぬ言う意味ちゃうで!…そんなことしたってしゃあないとはわかってるんや。」

「…良かった…びっくりしたわ…」

「ごめんな。でも…ほんまむなしいわ。なんか…。」

「……」


勇人はまつ毛を伏せる横井の顔を、心配げに見つめていた。しばらくしてから、横井は顔を上げて言った。


「沢原は何になりたいの?」

「え?俺?」


勇人は焦った。そして、頭を掻きながら言った。


「なんも思いつかんねん。」


横井は「そう」と言ってから、微笑んで言った。


「それも…なんかうらやましいわ。」


勇人は驚いて顔を上げた。


……


(どんなに才能あっても…頭良うても…夢を持てん奴もおるんやな…)


夜、勇人はベッドの中で寝返りを打ちながらそう思った。


(そんな奴から比べたら…俺って、結構贅沢なんかもしれへん。)


勇人はそう思いながら、眠りに落ちた。


……


勇人は夢を見た。祖父じいじが、勇人の背中から覆いかぶさるようにして、ゴルフを教えてくれている。


「そや…左手だけでクラブを持ち上げるつもりでな。右手は添えるだけでええんや。」

「うん。」

「そう…上げて、弧を描くように下ろす。そやっ!…独りでやってみぃ…。」


勇人は背中から祖父が離れたのを感じ、ゴルフクラブを握った。ゆっくりとクラブを上げて、一瞬止める。


「そのまま下ろして…打てっ!」


勇人は、勢いをつけてクラブを振り下ろした。手ごたえを感じた。


「すごいぞ!お前は天才やっ!」


祖父が嬉しそうに言った。


……


勇人は、はっと目を覚ました。まだ外は暗い。勇人は思わず辺りを見渡しながら「じいじ?」と呟いた。

…祖父はいない。


(夢か…そうやんな…)


勇人はそう思うと、布団の中で寝返りを打った。


(…じいじ…生きてたら、ほんまに俺にゴルフやらせたやろか…?…俺の成績が悪いのを知ったら…もしかすると…呆れてなんも教えてくれへんかったかも…)


勇人はそう思い、少し寂しさを感じた。


(…やっぱり、それなりの人間やないと期待されることもないんやろな…。俺に夢がないのは…俺自身が俺に何も期待してないからや。)


勇人は、横井がシュートする姿を思い出した。


(あいつがカッコいいのは…どんなことでも、自信を持ってるからや。…俺も、なんか自信持てるようなこと…見つけなあかん…)


勇人はそこでまた眠りに落ちた。


……


「勇人は悪くないんやで。」


祖父が、体を震わせながら泣いている小さな勇人を抱き上げながら言った。勇人は祖父の首にしがみついて泣いた。…何をしたのかは覚えていない。だが、涙が止まらなかった。


「よしよし…お前はなんも悪くない。」


祖父は勇人の頭を撫でながら言った。


「悪いのはこのじいじの頭や!ほら叩いてみ!このやろっこのやろっ!」


祖父はそう言いながら、勇人の手を掴み、自分の禿げた頭を叩かせた。

勇人はされるがままになりながら、思わず笑った。


「あーやっと笑った。」


祖父がそう言ってほっとした顔を見せた。


「お前の笑顔は、誰にも負けへん。世界一や。」


勇人は今度は笑って、祖父の首に抱きついた。


……


「先生!「なおや」君がテレビの前から離れへん!」


保育所で年長組の「勇人」は、その声に絵本から顔を上げた。

先生は「なおや君!みんなが見えないでしょ!?」と言って、1歳のなおやにかけよった。でもなおやは離れない。好きなヒーローが出ると、なおやはいつもこうなのだ。

勇人は、ふと思いついて絵本を置いた。


「なおやー!」


勇人が立ち上がって、傍にあった大きなトラックのおもちゃを持ち上げて言った。


「これ、なおや好きやろー?勇人と遊ぼうや!」


なおやは、その勇人の言葉に振り返り、目を輝かせた。

小さななおやは、車が好きだった。だが、いつも年長組の園児に取られてしまい、その大きなトラックのおもちゃで遊べなかった。それを、勇人は気に掛けていたのだった。


「ぶっぶー…ぶっぶー…」


なおやはそう言いながら、危ない足つきで勇人の方へ向かってきた。

先生はほっとした顔で、なおやが一生懸命勇人に向かって歩いているのを見ている。


「よーし!…ほら!ぶっぶーや!」


勇人がそう言って、やっとたどり着いたなおやにトラックを持たせると、なおやはうれしそうに笑った。


…しばらくして、先生がなおやと遊んでいる勇人の傍に来て言った。


「勇人君って、小さな子の面倒を見るのが上手やね。先生、勇人君のことすごいと思う。」


勇人は、そう褒められて顔を赤くした。


……


勇人はまた、はっと目を覚ました。太陽の光が差し込んでいるのが見えた。


(保育所…懐かしいなぁ…)


勇人はそう思った。小学生になっても、勇人はよく保育所に遊びに行った。自転車に乗って保育所まで行き、園庭を一周回ってまた出て行く。その間「勇人や!勇人が帰ってきた!」と、まるでヒーローが来たかのように、園児たちが騒いでいたのを思い出す。勇人はそれがうれしくて、毎日のように自転車で保育所に行った…。


『お前の笑顔は世界一や!』

『勇人君って、小さな子の面倒を見るのが上手やね。』


なおやが嬉しそうに、両手を差し出して自分に向かって歩いてくる姿が、勇人の脳裏によみがえった。

勇人は、はっと目を開いた。そして飛び起きた。


(!…そうや!決まった!)


勇人の夢が決まった瞬間だった。


……


「横井!」


勇人は教室に入ると、すぐに横井の傍に駆け寄った。


「おはよう、沢原!」

「おはよう!…あのな、俺、やっと夢が決まったんや!」

「!…そうなんや…」


横井が表情を暗くした。勇人は、はっとして言った。


「あ…ごめん…」

「ううん。うらやましいなと思っただけ。」

「俺かってお前がうらやましいで。」

「?」


横井が目を見張って、勇人を見た。勇人が微笑みながら言った。


「お前、親に期待されてるやん!」

「…え?」

「俺なんかさ、頭も悪いし、スポーツもでけへんし、親からなんとも思われてないんや。ああなれ、こうなれ…なんて言われたことあらへん。」(※注:祐子さんは「決してそんなことはない!」と断言していますが(^^;))

「!…」

「社長の後継ぐんかって、親がお前に期待してへんかったら、言わんと思うねん。」

「…そう…やな…」

「それってさ、ほんま幸せなことやと俺は思うんや。親に期待されんようになったら、おしまいやと思えへん?」

「…ん…」


横井の表情が柔らかくなった。そして勇人に言った。


「…で、沢原の夢って何?」


勇人は微笑んで答えた。それを聞いた横井は目を見張ったが「似合ってるかも!」と言ってくれた。


(終)


……


で、肝心の勇人君の夢ですが…何故か親には言わないそうです。…でも、わかりますよね?(^^)祐子さんもわかったそうです。とても期待しているようですよ。(俺も期待しています。)


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― 新着の感想 ―
[一言] 勇人くんの夢、わかりましたよ(笑)。地に足の付いた選択をされるお子さんだなと、感心しています。 冒頭の交通事故死者の数に掛け声をかける彼が、「神様の救済」を願っていた当時と全然変わっていな…
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