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さよなら、ぼくのかめきち。  作者: おだなか しん
4/10

☆☆☆☆


 かめきちが実はメスだったことが分かったのは、かめきちが四歳になった春だった。

「ねえ、これ、なにかしら」

 朝、お母さんがエサやりのときにそれを見つけた。水の中に楕円形の白い石みたいなものが転がっている。二つ。

「コウスケ、石入れた?」

「入れてないよ、そんなの」

 ぼくが時々かめきちのオモチャにと磨いた石を入れたりするから、お母さんは石だと信じていたんだろう。でも、一番いけないのはお父さんだ。「カメのえさ」のパッケージ裏側に「オスとメスの見分け方」と言うのが書いてあって、それには、「肛門がコウラの内側に見えるのがメス、尻尾側に出ているのがオス」とあり、「賢い――」にも同じことが書いてあって、一歳の頃、嫌がるかめきちをひっくり返してじっくり調べて「やっぱりオス」だと断言するもんだから。ぼくら家族はすっかりオスだと信じていたんだ。

「なんだろうね」

「最近、あまり食べないから心配してたけど、これ、おおきなウンチかな」

「そんなことないでしょう?」

 ぼくらが悩んでいると、後ろから髭剃り中のお父さんが、

「ああ!タマゴじゃないか!」

 大きな声を出すから、飛び上がって驚いてしまった。

「え?これ、かめきちが産んだの?」

 お母さんも驚いて、

「じゃあ、かめきちってメスだったの?」

 ぼくは興奮してしまって、

「じゃあ、子供が生まれるの?タマゴから赤ちゃんが」

 でも、お父さんは苦笑いして否定する。

「残念だけど、それは無精卵というやつだよ。かめきちは一匹だけで暮らしていて、お婿さんがいないからね。ほら、ニワトリの卵、スーパーに売っているやつと同じで、中に子供はいないんだ」

「なあんだ」

「わるいことしたなあ、かめきちには。カメがタマゴを産むのはとても大変なんだって。テレビでウミガメが砂浜にタマゴを産むのを見たことがあるだろう?あれも大変そうだったよね。なるほど、エサを食べない訳だ」

 お父さんは一人納得していたけれど、ぼくは「かめきち」って男の子の名前だから、「かめこ」にしないといけないのかな、やだな、などと考えていた。


 その年。かめきちは合計十二個もタマゴを産んだ。タマゴは捨てるのがもったいなかったけれど、腐ってしまうから、とお母さんが庭に埋めた。なんだかかめきちがかわいそうだった。


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