我が家で一番強いのは
僕の名前はセナ。
ニガワータ商会の嫡男で、得意な事は将棋。尊敬する人物は、100年ほど前に世界を救ったという英雄『聖棋士ヒフミン』様だ。
当時、『蟻鬼の魔王』っていう魔族が現れていて、戯れに人類にこう喧嘩を売ってきたらしい。
『三日やる、どの分野でもいいから勝負事で俺に勝ってみろ。無理ならお前らは皆殺しだ』
馬鹿げた要求と思うじゃん?でも、『蟻鬼の魔王』は知力も武力も並の人類ではとても太刀打ちできないとんでもない魔族で、国一番の戦士も学者も魔導士もギャンブラーもそれぞれの得意分野で完敗。
それで、すわ人類滅亡かとなった窮地を救って下さったのが異世界からやってきたヒフミン様だった。
『あれ、あれれ?おかしいですね、ここは天国じゃないのかな?わたし、死んだんじゃなかったっけ。ひゃー』
初め、『異世界の聖騎士を召喚したつもりが、何故かちょっと天然な丸っこいおじいちゃんが来ちゃった、もうだめだ……』ってなったらしいんだけど、ヒフミン様は異世界の『将棋』というボードゲームで『蟻鬼の魔王』を打ち破り世界を救ってくれた。
ちなみに当時の棋譜も残っている。お互いが秘術と超絶技巧を尽くした本当に芸術的な内容で、実物は国宝として美術館に展示されているらしい。
それから、この国一番の人気ゲームは将棋になった。人気すぎてプロ競技になったほどだ。ちなみに、どんな競技でもプロになるには努力と才能の両方が必要だけど、将棋は才能が占める割合がかなり大きいみたい。
だって、二十年以上割と真剣にやってる大人相手にに覚えて二年たらずの子供が勝てるなんて、他の競技では中々考えられないもんね。
最近、父様よりも強くなったんだよ僕。つまり我が家で一番強いのは僕なの、まだ10歳なのに!ちなみに、母様には覚えてすぐに勝てた。近所のこども将棋大会でも何回か優勝している。
だから、将棋が得意な僕は将来プロになりたい。多分、それだけの才能があるし将棋好きの父様も夢を応援してくれている。
「というわけで棋士ギルドに依頼してCランクのプロにレッスンにきてもらうことにした」
「あら、そうなの」
一方で母様はそこまで興味がない様だ。まあ、弱いもんね母様。父様といい勝負ができる様になるまでは一緒に切磋琢磨した仲だけど、多少の実力差ならよく番狂せが起こるこのゲームで一度も僕に勝てたことないし。
***
「セナくんだったね、うーんと……じゃあ二枚落ちで指してみようか」
やってきたプロ棋士の先生はそう言った。
いやいや、冗談でしょ?二枚落ちって最強の駒である『角』と『飛車』を抜いて戦うハンデ戦だよ?いくらプロでも流石に勝負にならないでしょ。
しかもこの先生ってトーナメントの賞金だけでは食べていけないからレッスンもしているC級棋士だし……と思ってたんだけどーー
「負けました。いやー、上手に指したねえ」
先生は予想よりも遥かに強かった。こちらがいつも以上にいい手を連続で見つけて、それでもなんとか一手差勝ち。本当にギリギリの勝負だった。なんか久しぶりだ、こんな風に自分の能力を出し尽くして勝ったときの高揚感。
先生が帰ったあと、父様は喜びを爆発させていた。
「凄いじゃないか。二枚落ちでプロに勝つなんて!やっぱりお前才能あるんだなぁ」
「ありがとう、父様。でもプロって本当に凄いよ、指す前から僕の棋力を見抜いちゃうんだもの」
何で二枚落ちにしたのかきいたら『将棋が強くなったら人のオーラが見える様になる。それで大体の強さがわかる』って言われたんだ。
魔術師が纏っている魔力を見れる様になるのと同じで、意図的に隠したりでもしてしない限りは一目で大体の強さがわかるんだって。そんな事をする人いるのか疑問だったけど、嫉妬や不要なトラブルを避けるためにあえてしている人もいるらしい。
スゴイ!カッコイイ!
ぼくも早くそうなりたいな。
「良かったわねぇ。でも、学校の勉強もしっかりね。将棋のプロになれるのは一握りというし、将来の選択肢は広い方がいいわ」
「えー、いらないよそんなの。」
今日まで知らなかったんだけど、二枚落ちでもプロに勝てる子供って殆どいないらしいよ。だから進路は一本に絞っても大丈夫なはず。
「今日はあくまでも『指導対局』だし、あの先生は上手に手を抜いて下さったのかもよ?ほら、昔貴方が小さい頃、父様がかけっこや腕相撲でわざと負けて下さったことがあるでしょう。」
そんなわけないじゃん。母さんは将棋弱いから今日のギリギリの勝負が理解できてないんだよ。
「何でそう思うのさ」
「うーん……女の勘、かな。でもよく当たるのよ」
そこまでいうなら、今度先生に真剣勝負を挑んでみるよ。今日はいつも以上にいい手がたくさん見えた事もあり、気が大きくなる。
***
「ま、負けました……」
「はい、ありがとうございました」
翌週、二枚落ちで真剣勝負を挑んでみたら完膚なきまでに負けた。こちらの狙いが尽く潰されて、良い手なんて一手もみえず無理攻めした所にカウンターをくらい撃沈。
母様の言う通りだった。前回は『指導対局』ということで、こちらの力を引き出しつつギリギリ一手差で負ける様に先生が上手に調整していたらしい。信じられない神業だ。
「自惚れていました。僕は才能があるって」
「いや、スジは非常にいいよ。独学だというのに、まるで昔からいい師匠がついていたみたいなセンスの良い手を指せている。お陰でこちらも指しやすかったよ、実は初心者相手の方が上手く負けてあげるのって難しいんだ」
「それはお世辞じゃなくてですか?」
「ああ、本当だよ。君は頑張れば、プロになれるかもしれないくらいの才能はある。」
かも……か。
母さんの言う通り、学校の勉強も頑張っておこう。夢破れても人生って続くし、上手くいなかったときの備えが大切だって父様もよく言ってるし。
でも、それはそれとして先生への敬意はさらに増した。第一目標がプロ棋士なのも変わらない。もっと強くなりたい。
***
先生に鍛えてもらいはじめてから五年。
俺は、十回に一回くらいの割合で真剣モードの先生にも勝てる様になり、オーラも見えるようになった。
最近は名門校の将棋クラブに入り、学生寮でもクラブメイトと切磋琢磨する日々だ。いつかプロになりたいという気持ちは未だ衰えない。
「あれ?対局してたんだ、珍しいね」
夏季休暇で久しぶりに家に帰ると、将棋盤がでていた。どうやら、ついさっきまで両親が将棋を指していたらしい。
父さんはそれなりに強い人のオーラがでている。母さんは……全く見えないな。
「あら、おかえりなさい」
「おお、ちょうど良かった。さっき母さんと対局してみたら、自分としては凄くいい将棋が指せたんだ。棋譜並べするから、ちょっと添削してくれ。」
えー、母さんの強さって素人に毛が生えた程度だよ?もしかして一方的にボコボコにしたのかな、父さんってそんな小さい男だったっけ……
と思って並べてみたら、なかなか面白い棋譜だった。狙って作った様な局面から逆転の大技が決まり、一手差で父さんの勝ち。
ああ、確かにこれは気持ちいいね。昔、初めて先生に指導対局してもらった時の事を思い出す……
「って言うか、これ……んん!?」
「どうした?」
「い、いや、なんでもないよ」
笑顔の母さんにこっそり横腹をつつかれたんだけど、たぶん何も言わない方がいいんだろうね。




