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青の時代  作者: 近藤輝
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第七章:The Cinema of Dreams and Shadows


上智大学のキャンパスは、夏の訪れと共に少しずつ変化していた。太陽の光が新緑の葉を照らし、柔らかな風が心地よく吹き抜ける中、近藤はジャスミンと一緒に過ごす時間を大切に感じていた。カフェテリアや図書館、そしてキャンパス内のベンチで彼女との会話は続いていた。


ある日、カフェテリアの窓際の席で、ジャスミンと近藤は映画の話をしていた。ジャスミンの瞳は映画の話題になると一層輝きを増し、その美しさが一層際立った。


「映画『アメリ』、知ってる?私、大好きなんだ。」ジャスミンは微笑みながら語り始めた。「あの映像美や音楽、そしてアメリの純粋さがとても好きで、何度も見返してしまうの。」


「うん、聞いたことあるよ。観たことはないけど…」近藤は少し恥ずかしそうに答えた。


「他にも『ローマの休日』や『カサブランカ』も好き。古い映画だけど、何度見ても新しい発見があるの。」ジャスミンは続けた。「最近では『ラ・ラ・ランド』も素敵だった。ミュージカルの要素と現代的なラブストーリーがうまく融合していて、観ていると心が踊る。」


「へえ、ラ・ラ・ランドか。僕も見たことあるけど、あの映画の最後は切なかったな…」近藤は共感を示しながら言った。


ジャスミンの話を聞きながら、近藤は彼女の情熱に圧倒されていた。彼女の瞳には映画に対する愛情が溢れ、その青さは近藤の心に深く刻まれた。


「近藤くんは、どんな映画が好き?」ジャスミンが興味津々に尋ねた。


近藤は一瞬躊躇し、そして答えた。「『SEVEN』かな。ブラッド・ピットが主演のサスペンス映画なんだけど、ストーリーが深くて引き込まれるんだ。」


「そうなんだ。『SEVEN』は私も観たことがあるわ。とても重厚な映画だね。」ジャスミンは微笑んで答えた。


その瞬間、近藤はジャスミンが映画に出てくる女優にも負けないくらい美しいと思ったが、同時に自分とブラッド・ピットを比べて卑下してしまった。ブラッド・ピットのような魅力的な俳優と自分では比べ物にもならないと感じたのだ。


「せいぜい、似てるとすれば、スパイダーマンの普段は冴えない主人公ピーター・パーカーくらいだろうな…」近藤は心の中で自嘲気味に思った。「自分もある日蜘蛛に噛まれて、あんなふうに突然ヒーローになることができれば、ジャスミンと付き合えるのになぁ…」


ジャスミンの瞳には、再びあの青さが見えた。彼女の目はまるで翡翠のように輝き、その奥にある深い感情が近藤の心を揺さぶった。だが、その青さは近藤にとって希望ではなく、ジャスミンの純粋さと自分の無力さの象徴でしかなかった。彼はその青さに引き込まれ、言葉にできない感情が胸に広がっていった。


映画の話が終わった後も、近藤の心にはジャスミンへの思いが深く刻まれていた。彼女の瞳に映る青さ、その情熱、その美しさ…それらすべてが、近藤の心を虜にしていた。しかし、同時に自分の卑下した気持ちが彼の心を締め付けた。自分は決してブラッド・ピットのようなヒーローにはなれない。ただの冴えない大学生でしかない自分が、どうしてジャスミンのような輝く存在にふさわしいのだろうか。


「それにしても、映画が本当に好きなんだね。」近藤は何とか話題を続けようとした。


「そうなの。実は、映画館でアルバイトもしてるの。映画を見ながら働けるから、一石二鳥って感じで。」ジャスミンは笑顔で答えた。


「映画館でバイトしてるんだ…すごいね。どんな仕事をしてるの?」近藤は驚きと興味を持ちながら尋ねた。


「チケットの販売や、お客様の案内をしてるの。時々、上映前の準備とかも手伝ってる。映画の雰囲気に包まれて働くのが本当に楽しいよ。」ジャスミンは目を輝かせながら話した。


ジャスミンの言葉を聞きながら、近藤は彼女の映画への情熱と、自分の中で膨らむ彼女への思いの間で揺れていた。彼女の輝く瞳、その中に見える青さが、近藤の心を捕らえて離さなかった。彼はその青さに引き込まれ、ジャスミンの存在がますます特別なものに感じられた。


近藤はジャスミンとの時間を大切にし、彼女の笑顔や言葉に励まされながら、少しずつ自分を見つめ直す努力を続けていた。暗い青春の中で見つけた一筋の光、それがジャスミンだった。彼女との会話や笑顔が、近藤の心に希望を与えてくれたのだった。


しかし、その希望の裏には常に自己卑下と葛藤が付きまとっていた。自分は決してブラッド・ピットのようなヒーローにはなれない。ただの冴えない大学生でしかない自分が、どうしてジャスミンのような輝く存在にふさわしいのだろうかと。彼の心は暗い影に覆われながらも、ジャスミンへの思いを募らせ続けた。


ある日の午後、近藤とジャスミンはキャンパスのベンチに座り、映画の話を続けていた。初夏の柔らかな陽光が二人を包み込み、周囲の学生たちの賑わいが遠くに感じられた。


「映画館で働くのって、やっぱり楽しい?」近藤が興味津々に尋ねた。


「うん、本当に楽しいよ。特に夜のシフトが好きかも。映画の音響が響く中で働くのは、まるで映画の一部になったような気分になる。」ジャスミンは嬉しそうに答えた。


「夜のシフトか…なんだかロマンチックだね。」近藤は微笑みながら言った。


「そう。時々、映画が終わった後に一人でスクリーンを見つめるのが好き。その瞬間、映画の魔法がまだ残っている感じがして…」ジャスミンの瞳はその時、一層輝きを増した。


その瞳に映る青さが、近藤の心に強く響いた。彼はジャスミンの言葉に感動し、彼女の映画への愛情がどれほど深いかを改めて実感した。


「僕も映画館で働いてみたいな…」近藤はつぶやくように言った。「でも、映画のことはあまり詳しくないし、ジャスミンみたいに情熱を持って働けるかな。」


「近藤くんならきっと大丈夫よ。映画への情熱は、少しずつでも育てられるから。」ジャスミンは励ますように言った。


「ありがとう、ジャスミン。でも、やっぱり僕には君のような情熱はないかもしれない。」近藤は自嘲気味に笑った。


その笑顔の裏には、自己卑下と不安が隠されていた。彼はブラッド・ピットのような魅力的な俳優にはなれないし、映画の主人公のような存在にはなれない。ただの冴えない大学生でしかない自分が、どうしてジャスミンのような輝く存在にふさわしいのだろうかという思いが、彼の心を締め付けた。


ジャスミンと一緒に映画を観に行きたいという思いが近藤の心に浮かんだが、それを口に出す勇気はなかった。彼は、ジャスミンに誘われることはないだろうと分かっていた。彼女は彼をただの友人として見ているだけで、特別な感情を持っているわけではない。それでも、彼女との時間をもっと共有したいという思いが強く、心の中で葛藤していた。


「自分から誘いたいけど、断られたらどうしよう…その時のダメージは大きすぎる…」近藤は内心でつぶやいた。彼は、ジャスミンが映画を愛するように、自分も彼女を愛していることに気づいていたが、それをどう表現すればいいのか分からなかった。


ジャスミンが語る映画の話に耳を傾けながら、近藤は彼女の瞳に再び青さを見出した。その青さは、彼の心を静かに包み込み、希望と絶望の間で揺れ動く感情を映し出していた。しかし、その青さは彼にとって希望ではなく、彼女の純粋さと自分の無力さの象徴でしかなかった。彼はジャスミンとの会話を通じて、自分がどれほど彼女を大切に思っているかを再認識し、その思いが彼の心に深く刻まれていった。


「ねえ、ジャスミン…」近藤はついに勇気を振り絞って言った。


「何?」ジャスミンは微笑みながら答えた。


「…いや、なんでもない。ごめん、ちょっと考え事をしてただけ。」近藤は結局、自分の気持ちを伝えることができなかった。


「そう。何かあったらいつでも話してね。」ジャスミンは優しく言った。


近藤はその言葉に救われる一方で、自分の弱さに対する苛立ちを感じていた。彼はジャスミンに対する思いを胸に秘めながら、自分自身と戦い続けることを決意した。その暗い青春の中で、彼は少しずつ自分を見つめ直し、成長していくことを誓った。


ジャスミンとの時間は、近藤にとって宝物だった。彼女の笑顔や言葉が、彼の心に希望を与えてくれたからだ。しかし、その希望の裏には常に自己卑下と葛藤が付きまとっていた。自分は決してブラッド・ピットのようなヒーローにはなれない。ただの冴えない大学生でしかない自分が、どうしてジャスミンのような輝く存在にふさわしいのだろうかという思いが、彼の心を締め付けた。


それでも、近藤はジャスミンとの時間を大切にし続けた。彼女の瞳に映る青さ、その情熱、その美しさ…それらすべてが、近藤の心を虜にしていた。しかし、その青さは希望ではなく、彼の無力さと彼女の純粋さの象徴でしかなかった。

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