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09 婚約者候補VS皇太子妃候補



 問題が起きた。


 積み木競争による審査のことが外部に漏れてしまった。


 そのせいで一部の貴族がアマリアのやり方に文句をつけ、もっと真面目な審査をするよう皇帝へ直訴した。


 皇帝はカインとアマリアを呼び出した。


「私の責任です!」


 カインはアマリアを庇った。


 積み木競争も、それを活用した審査を考えたのもカイン。


 そのことは奥の宮で働く者なら知っている。


 アマリアが婚約者候補に選ばれる前もそのようにしていた。


 多忙なカインに代わってアマリアが同じことをしているだけ。


 また同じ方法でいいとした自分に責任があるとカインは説明した。


「説明が事実であることは知っている。だが、積み木競争による審査が真面目な審査ではないという主張については理解できる」


 皇帝はそう言った後、アマリアの方に視線を移した。


「ところで、婚約者候補の審査は何をしている?」


 カインは返答に困った。


 審査はしていない。


 むしろ、婚約者になるか、皇太子妃の務めをこなせるか、カインを夫にするかを審査中なのはアマリアの方だった。


 それを正直に話せば、父親は良い顔をしないどころかアマリアを悪く思いそうだとカインは思った。


 その時、


「カイン様の期待に応え、皇太子妃候補をゼロにするお仕事をうまくやれるかどうかを試されております」


 アマリアの答えを聞いた皇帝は、笑わずにはいられなかった。


「なるほど。カインにとっては極めて重要な仕事を任せているようだ」

「そうです。私はアマリアを心から愛しています。アマリア以外の妃は必要ありません。アマリアにとっても、皇太子妃候補がいることを歓迎できるわけもありません」

「二人で対応しているわけか」

「そうです。二人で意見を出しながら考え、力を合わせています」


 カインは力強く答えた。


「夫婦になる以上、互いに深く理解し合うことが重要です。アマリアとであればそれができます」

「そうか。だが、貴族たちがうるさい。何か良い方法を考えろ」

「わかりました」


 そして、決定したのが、婚約者候補と皇太子妃候補が積み木競争で勝負することだった。


 アマリアを婚約者候補に相応しくないと思っている皇太子妃候補が嫌味で言い出したことだったが、アマリアが勝負を受けて立った。





「では、これより婚約者候補と皇太子妃候補による積み木競争を行います」


 やり方もルールも一緒。


 最下位の者が脱落する。


 故意の妨害は失格で、妨害された方は最下位を免除。


 皇太子妃候補と違って婚約者候補は一人しかいないため、最下位でも候補でなくなることはない。


 その代わり、アマリアが最下位になってしまった場合は、皇太子妃候補の審査担当者から外れることになった。


「開始!」


 皇帝と皇太子が見守る中、積み木競争が始まった。


 皇太子妃候補たちは長方形の積み木を縦に積んでいく。


 その方が短時間で高くすることができる。


 しかし、アマリアは違った。


 長方形の積み木を二個ずつ使い、正方形かつ縦横を入れ替えながら積み上げた。


 どのように積み木を重ねていくのかは自由。土台をしっかり作ることで、高く積み上げても崩れにくくする方法だと思われた。


「なるほど。婚約者候補は頭が良さそうだ」

「アマリアはとても賢い女性です」


 皇帝と皇太子はアマリアの方法を評価した。


 しかし、アマリアの方法には欠点がある。


 それは使用する積み木の数が多いため、積み重ねるのに時間がかかること。


 制限時間内に高く積み上げるのであれば、一個の積み木をひたすら縦にうまく積み上げた方が速くなると考えるのが普通。


 途中で積むのに失敗しなければ、一番になりやすかった。


 アマリアの方法は堅実に積み上げることができるかもしれないが、トップになるのは難しいと誰もが思った。


 実際、うまく積み続けている皇太子妃候補の方が断然高く積み上げていた。


 ところが。


 後半になると、皇太子妃候補の積み上げるペースが一気に落ちた。


 崩れてしまうのを恐れ、慎重に積み上げるようになったせいだった。


 グラグラするのもあって、積み上げるのをためらう皇太子妃候補もいた。


 脱落するのは最下位の者だけ。つまり、最下位を回避すればいい。


 無理に一番になる必要はないと考え、周囲がどの程度高く積んでいるのかを見ながら調整するようになった。


 しかし、アマリアには関係ない。


 最下位でも婚約者候補から外されるわけではなく、審査の担当者から外れるだけ。


 そして、アマリアの方法は安定性を重視している。


 だんだんと皇太子妃候補が積んだ積み木に高さが迫っていった。


「アマリア、頑張れ!」


 カインは応援した。


 一番になる必要はないとわかっている。


 だが、追い越せそうだった。


 それほどまでに頑張っているアマリアの姿を見て、どうしてもカインは応援したくなった。


 すると、


「アマリア様、応援しています!」

「頑張れ!」

「いけるいける!」

「まだ時間はあります!」


 皇太子の側近や補佐たちも応援の言葉を発した。


 そして、


「アマリア様!」

「頑張って!」

「追い上げています!」

「一番になれそうです!」

「実力を見せつけてあげてください!」


 皇太子付きの侍女たちも声援を送り始めた。


 皇帝はアマリアを応援する者が多いことに驚いた。


「アマリアは人気者なのか?」

「実はかなりの人気です。私よりも人望がありそうだと感じることさえあります」


 アマリアは皇帝宮で働いていたからこそ、自分と同じように働いている人々への配慮を忘れなかった。


 丁寧な挨拶を欠かさず、自分だけでなく周囲の負担が少なくなるような工夫や方法を積極的に取り入れていた。


 その結果、皇帝宮で働く人々におけるアマリアの評判は非常によく、婚約者にも皇太子妃にも相応しいと思う者が増えていた。


 アマリアは声援に応えるように笑顔で手を振った。


「ありがとうございます! 最後まで頑張ります!」


 アマリアは有言実行した。


 制限時間のギリギリまで積み木を積み続けた。


 そして、


「最も高く積み木を積み上げたのは婚約者候補のアマリア様です!」


 トップになった。


「さすが皇太子殿下が見初めた方です」

「優秀だ!」

「全力を尽くしたね!」

「実力を示しました」

「おめでとうございます!」

「信じていました!」

「最高に素晴らしいです!」

「アマリア様こそ、婚約者に相応しい方です!」

「未来の皇太子妃に万歳!」


 盛大な拍手が鳴り響き、アマリアの偉業を褒め称える声が次々と上がった。


 これまでに行われた積み木競争で最も多くの積み木を使い、最も高く積み上げたことも発表され、より強く大きな拍手になった。


「目先や既存の方法に捉われず、最高の結果を出すための方法を選んだ。さすが皇太子が直々に選んだ婚約者候補だ」


 皇帝はアマリアの有能さと人望の高さを認めた。


「冷静に能力や人柄を見ても、アマリアは最高に素晴らしい女性です。立派な皇太子妃になると思います」


 カインは自信たっぷりに答えた。


「さっさと婚約者にしろ」

「鋭意努力中です」

「勅命が欲しいか?」


 カインは驚いた。


 父親の言葉はとても嬉しい。


 だが。


「大丈夫です。私の実力で了承させてみせます」

「そうか」


 息子の優秀さを知っている皇帝は満足そうに頷いた。


次で最後です。

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