02 手紙係
積み木を効率よく片付けていたという理由で異動になったアマリアは驚いた。
一応の出世だが、皇太子付きの侍女としては新人。
どんな仕事をするのかと思えば、手紙の仕分けだと言われた。
皇太子宛の手紙の中には皇太子妃候補から届くものもある。
それをアマリアが仕分けることになった。
「まずはどの候補からの手紙かで仕分けなさい。それから同じ皇太子妃候補の手紙が入っている箱に入れなさい。これは重要書類と同じです。間違えないように。あとで別の者が様子を見にきます」
皇太子の側近を務めているノアからアマリアは説明を受けた。
「わかりました」
皇太子妃候補の数は八人。
積み木の審査で二人落ちたため、追加されるまでは六人だった。
手紙はかなり多かった。
ずっと仕分けされることなく、皇太子妃候補の手紙としてまとめられていただけだったのがわかるともいう。
アマリアは皇太子妃候補ごとの手紙に仕分けると箱の中にしまった。
簡単な作業だったため、それほど時間はかからない。
あとで別の者が様子を見にくるということだったが、それまで暇だった。
アマリアは暇つぶしに箱を開け、手書きされている日付順に手紙を並び変えることにした。
やがて、部屋にカインが来た。
「終わっていないのか?」
「終わりました」
アマリアはカインの上着についている側近用のバッジを見ながら答えた。
「箱に入れ終わったあとにすることがないため、手紙を日付順に並び変えていました」
「必要ない」
カインはそう言うと、審査に落ちた皇太子妃候補の手紙が入った箱を手に取った。
「極秘の仕事を与える。審査に落ちた皇太子妃候補の手紙を開封して中身を調べろ。便箋に書かれた内容も読め。おかしなことが書かれていないか確認しろ」
「おかしなことというのは、どのようなものでしょうか?」
「お前がおかしいと思ったかどうかで決まる」
「わかりました」
「特に問題なければ、すべて廃棄処分だ。箱は再利用する。手紙は二度と読めないようしっかりと破き、そこの暖炉で完全に燃やせ。質問はあるか?」
「完全に燃やすのであれば、わざわざ破く必要はないと思います。そのまま燃やせばいいのではないでしょうか?」
カインはアマリアをじっと見つめた。
「やはりお前は優秀そうだ。破かなくても完全に燃えて読めなくなればいい。終わったら侍女長に聞いて別の仕事をすればいい」
「わかりました」
カインは他の箱を全て積み上げ、持って行ってしまった。
アマリアは残された二つの箱を開け、手紙を開封した。
おかしいものは何も入っていない。そもそも奥の宮で皇太子妃候補用に用意されている封筒と便箋だ。
アマリアは皇太子妃候補の部屋に持って行ったことや補充したことがあった。
特に問題はない。
皇太子への恋文。女性らしい文章だった。
アマリアにはまったく縁がない内容でもある。
宮殿で働いている間に、良縁があるといいけれど……。
そう思いながら、アマリアは暖炉で手紙を燃やした。
「終わりね」
アマリアの仕事はここまで。だが、アマリアは気になった。
二つの箱が残っている。
「この箱をどうするか言われていないわね?」
アマリアはテーブルの上に置きっぱなしでいいのかどうかが気になった。
箱の中身はすべて燃やしている。何もない。空箱だ。
だが、箱は再利用するということだった。
何も言われていない以上このままでいい気もするが、最初から箱を渡しておけばよかったのではないかとアマリアは思った。
必要なのは手紙だけ。箱は関係ない。なくてもいい。
とはいえ、箱を沢山積み重ねすぎると運びにくい。
むしろ、六つもよく重ねていったわよね。
アマリアはそう思った。
八箱も積み重ねるとバランスを取りにくいし、わざと置いていったのかも?
とにかく、この箱をどうするかが問題だった。
「届けないと……かも」
何が入っていたのか、他の者は知らない。
箱が空ということで、何かがなくなったと勘違いされたら大変だった。
掃除の侍女などが来て、箱を片付けてしまうのもよくない。再利用できなくなる。
アマリアは皇太子の側近たちが使用する部屋に、箱を持って行くことにした。
ドアをノックすると、すぐに見知らぬ男性が顔を出した。
上着には側近に与えられる特別なバッジをつけていない。
皇太子の側近ではないということだった。
「何?」
「お忙しいところ、大変申し訳ございません。皇太子付きの侍女になったばかりのアマリアと申します。先ほど、側近の方に仕事を言いつけられました。その仕事が終わりましたので、空になった箱を届けに参りました。再利用すると聞きしましたので」
「わかった。受け取るよ」
「ちなみに……貴方様は側近の方でしょうか?」
アマリアは誰に渡したのかを確認しておこうと思った。
「僕は側近補佐だよ。特別なバッジをつけている者が側近だね」
やはりそうかとアマリアは思った。
「わかりました。一応、側近の方から受け取った箱でしたので。箱をどうしたのか聞かれた場合は、側近補佐の方に渡したと答えておきます」
「それでいいけれど、空箱なら確認されることはないかなあ」
側近補佐が空箱を受け取った。
「では、失礼いたします」
アマリアは侍女長の所へ向かった。
「あの侍女は気が利くね」
空箱を受け取った側近補佐はそう思った。
皇太子妃候補の手紙を仕分ける仕事をする侍女は、部屋に箱を置きっぱなしにするのが常だった。
側近も側近補佐も多忙だというのに、誰かが箱を取りに行かないといけない。
箱を届けてくれる侍女が担当で良かったと思った。
「箱ですか」
「助かる」
毎回、誰かが作業の進み具合を確認したり、空箱を取りに行かなければならないのが手間だった。
あの侍女が手紙を仕分ける仕事をずっとすれば、終わった後に箱を届けてくれるだろうという意見で一致した。
ノアはカインにそのことを伝えた。
「あの侍女を手紙の専任に?」
「仕事が終わると、すぐに空箱を届けに来ました。気が利きます。これまでの侍女は空箱を部屋に置きっぱなしにしていました。そのせいで箱が処分され、再利用ができないこともありました」
「空箱を再利用するのは経費削減になる。些細なことではあるが、日々の心がけが大切だ」
「わかっています。だからこそ、あの侍女に任せればいいということになりました」
カインは考えた。
新任の侍女は積み木を拾う作業を見て、優秀そうだということで引き抜いた。
手紙のことについても同じ。効率よく作業した。
側近や補佐たちの負担が少なくなるようにも行動した。
カインは優秀だと判断した。
「わかった。あの侍女の名前は?」
「アマリアです」
「アマリアか」
カインはアマリアの名前を覚えた。