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皇太子妃候補をゼロにするお仕事  作者: 美雪
番外編(二)

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15/15

15 活用は計画的に➂



 夕食時間。


 皇帝付き侍女になったマリーシャは心身共にボロボロの状態で食堂へ向かった。


 てっきり皇太子付き侍女になれたと思ったが、皇帝宮で働く侍女はとても多い。


 配属先が細かく分かれているということについて、わかっていなかった。


 皇太子宛に手紙を書いたため、皇太子付きの侍女になれると勘違いしてしまったことを反省するしかない。


 皇帝付きの侍女は帝国で最も優秀な侍女であることを誇るため、新人教育については非常に厳しかった。


 採用とはいっても試用期間で、見込みがないと判断されると解雇されてしまう。


 マリーシャの身分に配慮するこということで即日解雇は免れたものの、下級貴族であれば即解雇だと皇帝付き侍女たちに言われてしまった。


「最悪だわ……」


 中途採用だけに同じような新人がいない。


 昼食の時は説明のために先輩の侍女が一緒だったが、夕食時間は一人ぼっちだった。


 これからのことを考えると不安でしかない。


 さっさと辞めたい気分だが、公爵家の名誉と忠誠心の証明がかかっているだけにできない。


「こんなことになるなんて……」


 社交界でライバルを蹴散らすのに飽きた。だったら、皇太子妃候補になってライバルを蹴散らせばいい。


 その機会がないなら侍女になってライバルを蹴散らせばいい。自分の実力なら瞬く間に出世でき、皇太子の目にも留まる。


 その方がずっと楽しい人生を送れると思っていた自分を呪いたくなるほど、マリーシャは落ち込んでいた。


 しばらくすると、食堂へ明るく楽し気な侍女の一団が来た。


 その中心にいるのはアマリアで、所属や階級に関係なく会った人々と親し気に言葉を交わしていた。


 奥の宮で会った時とは印象が違う……?


 マリーシャがそう思っていると、アマリアたちの一団がマリーシャの方へ来た。


「こんばんは」


 アマリアはマリーシャに声をかけると、向かい合う席に食事のトレーを置いて座った。


 その周囲を皇太子付き侍女たちが取り囲むように占拠する。


「皇帝付きはいかがですか?」


 つらい。もう辞めたい。


 マリーシャはそう思ったが、正直に言えるわけもなかった。


「大変ですけれど、勉強になりますわ」


 社交界で磨きに磨いた嘘の仮面を被り、マリーシャはにっこりと微笑んだ。


「では、問題はないと?」

「ええ、特には」


 皇帝陛下に気に入られて、皇太子妃になれるチャンスがあるかもしれないもの。


 マリーシャは一筋の望みを捨ててはいなかった。


「今日の午後、皇太子付き侍女長と一緒に皇帝付き侍女長のところへいきました。侍女長たちは新人の侍女について話していたのですが、公爵家の令嬢では難しいという内容でした。さすがに一日では不名誉極まりないということで配慮したものの、本音としてはすぐに辞めていただきたいそうです」

「皇帝付き侍女長に確認いたします」


 恐らくは辞職させるための策略、嘘だろうとマリーシャは思った。


「ぜひそうしてください。つらい思いを重ねれば、皇帝家への忠義が揺らいでしまうかもしれません。そうならないためにも、できるだけ早く侍女長に相談すべきだと思います」


 アマリアはマリーシャを気遣うようにそう言った。


「通常は侍女見習いとしてさまざまなことを学んでから侍女になります。いきなり侍女として採用されるのは名誉かもしれませんが、仕事に慣れてから侍女になった者と比較されると不利になってしまい、解雇されてしまう場合もあるようです」

「そうですのね」

「短期間で辞めることになると、公爵家の名誉に関わってしまいそうです。もしよろしければ、私の方にもご相談ください。今ならレーファ公爵令嬢にぴったりな仕事があります」

「私にぴったりな仕事?」


 マリーシャは眉をひそめた。


「どのような仕事ですの?」

「奥の宮の仕事です。元皇太子妃候補ですので、特別な審査があるのをご存知ですよね? 私は何かと忙しいので、審査長という役職を作ろうと思っています。適性のある者を探しているところなのです」


 特別な審査のための練習を監督し、ルール違反や不正行為を注意する。


 皇帝付きの侍女から奥の宮の侍女になってしまうが、仕事はずっと簡単で役職者。


 見方によっては出世だけに、公爵家の名誉は傷つかない。


 求められるのは特別な審査のルールをしっかりと頭に入れ、皇太子妃候補を審査したり監督したり注意すること。


 奥の宮の侍女として、貴族の令嬢ごときに軽視されるわけにはいかないというプライドの高さも大事であることをアマリアは説明した。


「レーファ公爵令嬢の仕事は明日と明後日だけだと皇帝付き侍女長が言っていました。そのあとは決める必要がないそうです」


 私は三日間で見切りをつけられ、解雇されてしまう……。


 マリーシャは頭が良いからこそすぐに察した。


「審査長になりたいです」


 解雇という不名誉を防止するためには奥の宮へ異動するしかないとマリーシャは思った。


「では、皇帝付き侍女長に奥の宮へ異動したいと伝えてください。私の方に話が来たら審査長にするということで話をまとめます」


 アマリアはにっこりと微笑んだ。


「話が早くて良かったです。カイン様のおかげですね!」

「それはどういう意味ですの?」

「カイン様にお手紙を書きましたよね? その時に、頭が良くて高圧的で皇太子妃候補を蹴落すことにやりがいを感じてくれそうなレーファ公爵令嬢を審査長にしたいとお願いしたのです。皇太子付き侍女にして即日解雇するよりも、皇帝家のために優秀な人材を活用した方がいいと思ったので」


 すると、カインはマリーシャを皇帝付きの侍女にしようと言い出した。


 マリーシャは公爵令嬢として高い教育を受けたかもしれないが、働くことの大変さをわかっていない。


 そこで新人教育がとても厳しいことで有名な皇帝付きの侍女にすることで、現実の厳しさを教える。


 皇族付きの侍女がいかに大変かを知れば、マリーシャは奥の宮への異動を喜ぶ。


 アマリアにとってもマリーシャにとっても良い結果になるだろうと言われたことをアマリアは説明した。


「最初から奥の宮で採用するよりも経験になりますし、見栄えも良くなります。カイン様は私のこともきちんと褒めてくださいました。皇太子妃候補は減らすもので、優秀な人材として活用することについては考えていなかったそうです」


 カインは自分とは違う視点から物事を考え、良い案を出したアマリアをより高く評価した。


「これからも一緒に良い案を考えて、皇太子妃候補をゼロにしていこうと言われました。カイン様は私との絆を強めるために、邪魔な皇太子妃候補を活用する気のようです。そういうところも噂通り優秀で冷徹で容赦ない皇太子らしいです」


 ダメだわ!!! どう考えても敵わない!!!


 マリーシャは敗北を悟った。


「審査長の件、ぜひともお任せください。アマリア様にご満足いただけるよう努めます」

「よろしくお願いいたします。レーファ公爵令嬢は頭が良いので、すぐに切り替えることができると思っていました」


 アマリアが微笑むと、それに合わせて侍女たちが拍手した。


 会話を聞いていた人々も安心して拍手をする。


 それが次々と広がり食堂中に響き渡った。


「では、私たちと一緒に夕食を楽しみませんか? 一人で食べるのは寂しいですから」

「皇帝宮のお食事はとても美味しいけれど、会話を楽しむことでも疲れを発散できるわ」

「公爵家の食事と比べてどうなのか教えてくれない?」

「良い案を出すと、皇太子殿下に伝えてもらえるわよ」

「アクセサリーがとてもお洒落だわ」

「素敵ね!」

「さすが公爵令嬢って感じよ!」


 一緒に夕食を食べる相手ができ、お気に入りのアクセサリーを褒められた。


 マリーシャは嬉しくなった。


「アマリア様のイヤリングも大変素晴らしいものではないかと。間違いなく最高級品です」

「これはカイン様からいただいたものなのです」


 アマリアがそう言うと、すかさず侍女たちが口を開ける。


「皇妃様の形見の品だそうよ」

「皇太子殿下の本気度がわかるわ!」

「仕事中は必ずつけるように言われているのよ。なぜかわかる?」

「虫除けでは?」


 マリーシャが答えた。


「えっ、虫除け?」


 アマリアは驚いた。


「防虫効果があるイヤリングなのですか? もしかして青い色が効くとか?」


 わかってないわ……。


 虫というのは邪魔な相手の比喩。それが常識。


 そんな雰囲気が漂った。


「私、今のお言葉を聞いて、アマリア様のことをお側で見守りたくなりました」


 皇太子殿下との恋の行方が気になってしまうわ!!!


 マリーシャは心の中で叫んだ。


「わかってくれたようね」

「私たちがしっかりしないと大変なのよ」

「一緒に楽しく頑張りましょう!」


 マリーシャは皇太子付き侍女の一団に加わり、楽しい夕食時間を過ごした。





 後日。


 マリーシャ・レーファは奥の宮に異動になり、アマリアによって審査長に任命された。


「マリーシャの活躍を期待します」

「お任せください!」


 皇太子妃候補をゼロにするための新たな人材活用案によって、優秀な審査長が誕生した。


 奥の宮に積み木が崩れる音と、容赦なく駄目出しをする審査長の声が響き渡るようになった。


 人材活用は計画的に。


 アマリアとカインの考えは見事にマッチした。


 お読みいただきありがとうございました!

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