10 一番の理解者
婚約者候補のアマリアと皇太子妃候補たちが参加した積み木競争のことは社交界の話題になった。
そして、アマリアが婚約者候補に相応しい実力を示し、皇太子妃候補たちを見事に蹴散らしたという評価になった。
また、アマリアが婚約者候補になったことで、皇太子だけでなく宮殿中に良い変化が訪れていることも広まり、アマリアの評価は高く積み上がっていった。
日曜日。
カインはアマリアとデートするために休みを取った。
「気持ちがいいですね」
「そうだな」
カインはアマリアと遠乗りに出かけた。
そして、草むらの上に敷物を敷き、その上で寝転がっている。
のんびりと二人で過ごす休日を味わっていた。
「このように過ごしたのは……いつだったか」
「毎週すれば、思い出しやすくなります。健康的な気もします」
「そうだな。だが、このような過ごし方でいいのか?」
カインは聞きたかった。
「貴族の女性は着飾って外出するのが好きだ。アマリアは裕福ではなかっただけに難しかっただろう? 今なら贅沢ができる。最新の流行のドレスと豪華な宝飾品を身につけ、外出することも可能だ」
「そのような楽しみ方も経験したいとは思います。でも、美しい景色の中で自由な時間を過ごせるのも贅沢です。正直に言いますと、このままお昼寝をしたい気分です。これも贅沢になってしまうでしょうか?」
「普段の忙しさを思えば、贅沢だろうな」
カインは隣に横たわるアマリアの方を見た。
「遠慮なく昼寝していい。私も昼寝する」
「では、遠慮なく」
アマリアが目を閉じると、カインは片手を伸ばし、アマリアの手とつないだ。
嬉しいけれど、恥ずかしい……。
そう思いながらも、アマリアは心地良さに負けて眠りについた。
それはカインに心を許していることの証明でもあった。
皇太子と婚約者候補の仲睦まじさは広く知られるようになり、皇太子妃候補になりたがる女性はいなくなった。
皇太子妃候補になっても皇太子妃になれる望みはまったくない。
皇太子の純愛を邪魔するばかりか、有能な婚約者候補によって候補から外されてしまう。
それが社交界で話題になると、本人も実家も肩身が狭い。
その上、皇太子妃候補らしい高額な生活費を負担しなければならない。
馬鹿馬鹿しいと思うに決まっていた。
「皇太子妃候補は必要ない。受け入れる必要もない。無駄だ。私にとってもアマリアにとっても、皇太子妃候補になりそうな女性にとってもだ」
皇太子の判断に皇帝も同意した。
そして、その判断に異を唱える貴族もいなかった。
「皇太子妃候補はゼロだ。アマリア、次の仕事をするのはどうだろうか?」
「婚約者の仕事ですか?」
「そうだ」
二人の関係は変化している。
以前よりもずっと近く、遠慮なく意見を言い合えるようになった。
一緒に過ごす時間をくつろぎながら過ごせてもいる。
そろそろ了承してもらえないだろうかとカインは願っていた。
「仕事とは言っても、給与が出るような仕事ではない。婚約者になってくれればいいだけだ。一緒に外出したり、ゆっくりくつろぐ時間を過ごしたい」
「たぶんですが、婚約者ならこうすべきという人々の期待や理想があると思います。でも、私は私です。理想の婚約者になるよりも、自分らしさを活かした婚約者になりたいです。それでもいいでしょうか?」
「構わない。私が求めているのは理想の婚約者ではない。アマリアだ。これからもアマリアらしくいてくれればいい。私がアマリアにとって一番の理解者であるよう努めることを約束する」
「では、了承ということで」
カインは歓喜した。
ようやく愛する女性と婚姻できる。
すぐに父親である皇帝の元へアマリアを連れていき、婚約を了承してもらったことを伝えた。
「さすが皇太子だ! 実力を示した!」
「今度こそ、皇太子としての力を使ってはいないと思いたいが」
「大丈夫です」
アマリアは答えた。
「カイン様の心からの気持ちに私も心から応えたいと思いました。婚約者の立場や皇太子妃の身分が目当てだと思われたくありません。カイン様と夫婦になり、支え合いたいと思ったからです」
「わかっている。とても嬉しい。心から愛している」
「私もカイン様のことを心から愛しています。一番の理解者であるよう努めることをお約束します」
アマリアとカインは婚約した。
そして、ついに結婚。
盛大な結婚式と披露宴が行われ、皇太子夫妻は国民から祝福された。
優秀な皇太子妃アマリアは、皇太子の重責を担うカインをしっかり支え、皇太子妃候補をゼロにする役目を立派に務めた。
終わり
お読みいただきありがとうございました!




