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第4話

 私が意識を取り戻したと聞いて、エルウィンとナランがすぐにお見舞いに来てくれた。

 今はナランのバルナバル領へ遊びに来ていて、私は両親と。エルウィンは何人かの使用人とバルナバル伯爵家へ滞在している。

 なので、お見舞いも要は私の部屋へと来てくれただけなのだが。

 私は二人をソファに座って出迎えると、二人に人払いを頼んだ。


「ひみつで、はなしたいことがあるの」

「ええ……? ひみつで?」

「ひみつか、いいな!」


 私の言葉に栗毛のふわふわの髪のナランが困ったように眉根を寄せる。エルウィンは逆にうれしそうに笑った。


「うん。ふたりにおねがいがあるの」

「……わかった。レディアがそういうなら」

「おれはレディアのねがいなら、いつでもきく」


 二人の呼ぶ『レディア』とは私の愛称だ。仲のいい人物は私をそう呼んでいる。

 じっと二人を見つめれば、エルウィンは二つ返事で頷き、ナランはしぶしぶと言う感じで頷いた。

 二人は近くに待機していた使用人や警備の騎士に話をし、部屋から出てもらう。……といっても、そこは全員貴族のこどもだ。部屋からは出てくれたが、扉は開いており、すぐそこに全員待機しているだろう。みな、私たちの仲の良さを知っているから、ここまでは譲歩してくれているのだ。

 とりあえずはこれで十分。

 私は二人を手招きし、三人でそっと頭を寄せ合った。こうすれば小さい声でもお互いに聞こえ、廊下までは響かないだろう。

 そこで、私はそっと自分の考えを伝えた。


「エルウィンには、こうていになってもらいたいの」

「は……?」

「ナランはさいしょうね」

「え……?」


 二人にはたしかに私の声は届いたはず。だが、理解できなかったようでぽかんと口を開けて二人で目配せをしていた。

 仕方がない。もう一度、伝えよう。


「エルウィンはこうていになる。ナランはさいしょうになる」


 エルウィンは皇帝に。ナランは宰相に。

 これが私が二度目の人生で思い描いた未来。

 私がふふっと笑うと、エルウィンが驚いたように目を丸くした。


「おれがぁ!? こうて――っ」

「だめだめ、おおきいこえは!」


 大きな声を上げたエルウィンの口を両手で塞ぐ。エルウィンはむぐっとなったあと、そっと私の手に自分の手を添えた。そして、一つ頷いてから、私の手を口から外す。


「わりぃ。おどろいた」

「ううん。おどろくよね」

「ねえ、レディアはどしちゃったの? このくににはアルフレッドがいるでしょう?」


 ナランはすぐに私の言葉の真意がわかったらしい。……つまり、アルフレッドを廃嫡にしたいのだ、という。


「わたしね、みらいをみたの」


 そして、私は二人にすべてを話した。二人は私より二つ年上であり、まだ七歳だ。凄惨なことのすべてを伝えられるわけではない。

 だが、小国との小競り合いが長引くこと、砦が落とされること、大雨による飢饉と災害が起こること、……ナランがその責任を取ること、そして、アルフレッドから婚約破棄をされた私が死んでしまうこと。

 すべてを伝えたあとに残ったのは沈黙と――


「おしえてくれて、ありがとう。レディア」

「ぼくもしることができてよかった」

「いまのままじゃ……だめだな」

「うん。ぼく、もっとべんきょうする」


 ――二人の決意。


「ふたりとも、ありがとう」


 私にとっては一度起こってしまったことだから、現実として捉えられる。だが、二人が私の話を信じる根拠はなにもないはずだ。けれど、二人はまっすぐに信じてくれて……。

 二人がいてくれてよかった。ともに新しい未来を描く人たちがいて。


「……みらいのおれ、すごくこうかいしただろうな。ふたりがしぬのを、とめられなかったなんて」


 エルウィンはそう言うと、ぐっと奥歯を噛みしめた。


「きっとこのくやしさが……ほんとうだっておもう」


 エルウィンはそう言うと、胸のあたりの服をぎゅっと掴んだ。

 今のエルウィンは一度目のエルウィンの記憶があるわけではない。けれど、なにか感じるものはあったのかもしれない。


「かならず、みらいをかえる。……かならず」

「うん」

「みんなでがんばろうね」


 これから三人で目指すのは――簒奪さんだつ

 本来ならば皇帝の第一子であるアルフレッドが手に入れるはずの地位。それを公爵家の次男であるエルウィンが奪い取る。

 エルウィンの父は現皇帝の弟に当たる。血筋としては問題ないが、アルフレッドに比べれば継承順位はかなり低いのだ。

 それでも、やってみせる。

 私が悪女となり、最初にしたことは、エルウィンへの簒奪の示唆。そして、ナランをそれに引き込むこと。

 それは見事に成功し、ここから三人はアルフレッドの地位を狙う仲間となった。

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