脱冥府して、その先ーー。
なんか週の中途半ばで、終了を迎えます。
そろそろ終わるーーってやってたんですが、なかなか終わらなくて。
でもシリーズの一部はこれで終了。
自分の中で計画的ではなく、今日というか、今終わった。
続きます。
次回また、違う展開でお会いできればと思います。
お付き合いいただいている方、長編ですが、勝手気ままに更新しております。ありがとうございます!
評価反応が、今後の励みになりますので、何か足跡残していただけると嬉しいです。
※
過去の因縁があって、かつて自分が後見人を引き受けた赤子が、ラーディア一族の神官長にまで成長し、ーー成長しすぎて大きくなり、革命軍を動かすまでの存在になっているとは思いもしなかったことだ。だがルカの息子ーー、理解はできた。
彼は革命軍総長になるのは、サナレスだと迫ってくる。
赤子だったレイトリージェが母、そして親友ルカの忘れ形見が、思い出の塊となって目の前にいたが、サナレスは百年分の永い長い吐息をつく。
「百年前だったら一笑して、即座に断ったところだ」
「だからこそです、サナレス。自由な貴方は私の指針です。貴方には、革命軍総長として王族貴族のせいでがんじがらめになったこの世界を救っていただきたい」
ロイは真面目な男だと思った。
さすがはラーディア一族国立シリウスの特待生であったルカ、サナレスが認めた親友の血を引いている。
サナレスは懐かしさに目を細めた。
「私に革命軍を背負えとーー?」
サナレスは皮肉げにそう言って、後を続ける。
「お断りだな」
「どうして!?」
ロイは感情を泡立たせる。
「失礼ながら貴方のここ数ヶ月の動向、私はつかんでおります。貴方は王族貴族を憎み、ただ文化のーーいえ世界の発展のみに寄与するような行動に出ていらっしゃった。ーー至福をこらす傍若な王族貴族のみを処刑してきたのではないですか? ラーディア一族皇太子の立場を度外視され、貴方は世界を変えようとしてくれている」
まさか秘密裏に進めたことにまで注目され、暴露されているとはーー。
ため息をついた。
まさかルカの息子であるロイが、これほど自分に興味を持って、一挙主一同を探ってきているなんて思いもしなかった。
ルカが、過去の人だったから。そして彼の母であるレイトリージェも、サナレスにとって過去に置き去りにしてしまった存在だったからだ。
貴族の寿命は長すぎる。
レイトリージェが自害した葬儀に参列した自分は、すまないとは思ったけれど、自分の心はもうとっくに埋葬されてしまっていて、彼女はロイが成人するまで責任を持ったのだと、むしろそれを立派に果たした彼女の行動を讃えたかった。
「まず、おまえに謝ろう。私は正直、ラーディア一族の皇太子という身分について、ひとはらいして散らしてしまってもいいぐらいに軽んじている。おまえの父である私の親友が生きている時代から、その考えは変わっていない。」
だからーー、と三段論法で説明しようとする自分は、人として何かを欠如している気がしていた。
「おまえが言うように、世界を変革したいとかいう革命軍からは、ほど遠い人格だ」
期待するなと一刀両断するほど強い言葉だった。
「だったらどうして……、今のいままで貴方はラーディア一族を導いてこられたのです? それから近隣諸国に対し、豊かであるよう貢献されてきたのです!?」
「私が貢献した? 私はそうは思っていない。ただーールカとレイトリージェ、おまえの両親は私の大切な旧友だったし、おまえの後見人になった。ーーそれから私は、妹を得た。ーーすまないが私は利己的な人間で、私の側にいる大切な者を守るためだけに行動している。世界に貢献しているなんて気は毛頭ない」
言葉の身勝手さが強かったのか、ロイは黙ってしまった。
「だから断る。革命軍なんてのは、まっぴらごめんだ」
意志を伝える言葉の強さに、歯に絹は着せない。
「でもおまえと束の間、旅に出ると言うのであれば、それは了承する。おまえの父、ルカと約束した。果たせなかった約束だったが、私は覚えているから」
その時間に限りがあったとしても、実現できることならそうしたかった。
「だから私は、この列車に乗ったのだ」
サナレスは言った。
「ーー私は……、あなたがこの狂った世界を正してくださると信じて……」
「勝手な人物像を私に当てはめたか? おまえの父であればあり得ないと噴き出すところだ。私たちは親友だった」
今もたった1人、自分を理解した親友。
サナレスは居なくなってしまった存在の重さを痛感している。ルカとムーブルージェ、そして先日他界したレイトリージェ。彼らは冥府を越えたのか?
そう思うとなぜか自分の意識は冥府に向いていく。
キシル大陸で自分の研究をはるかに凌駕する文明を知って、その誘惑は大きくなるばかりだ。
死の向こうに何がある?
『兄様!!』
不意にリンフィーナに呼び戻された気がしたが、目の前にいたのは列車で向かい合わせに座っているロイだった。
「私は貴方を尊敬し、父上とお呼びしたかった。そして一緒にこの世界を変えたいのです」
サナレスはふっと笑う。
「おまえのような聡明な子にそう思われるのは嬉しいよ、ロイ。でも、おまえの尊敬に足る人物は、私ではない。たぶん本当の父、ルカだと私は思う。私はね、ラーディア一族のうつけ者として有名なガキだったんだよ。ーールカがいなければ、ルカと出会わなければ、たぶんずっとそのままだったと思う」
「だったら私は……、何のために革命軍を……? 私は貴方とーー」
サナレスはロイの肩に手を置く。
「おまえは何をしたいの?」
「私は不条理なこの世界をーー」
「変えたいんだったら、それはおまえの意志だ」
ロイはラーディア一族に生まれた銀髪の貴族として、その虐げられた境遇で悔しさをバネに成長してきた。
そしてこんな不条理な貴族が君臨する世界を変えたいと思っている。彼の意志なのだ。
「革命軍総長はおまえでいいんじゃない?」
サナレスは言った。
「けれどこの世界の極悪人になった私でも、少しは協力することはできるかもな。それが束の間一緒に旅に出てみることはどうかという提案だ」
ロイはじっと俯いていた。
「母の望みは、一縷にサナレスと添い遂げることでした。ーーそして私自身も、貴方を父と呼べることが、いつしか夢になっておりました……」
「違うな」
サナレスは断言した。
「私は全てにおいて、おまえの父ルカに劣る。レイトリージェは彼を亡くした悲しみに暮れ、おまえはその気持ちを聞いて、救いを求めた」
ただそれだけだ。
出なければ浮かばれない。
誰も浮かばれない。
「もしーー、それが違ったとしても、私が愛したのはムーブルージェ。おまえの叔母にあたる女性だ」
はっきり言わなければ、この場での決着がつかなかった。
けれどムーブルージェ。
今にも彼女の歌声が聞こえてきて、封じ込めてきた感情が蘇ってくるようだ。
この世は修羅。
生きているだけで、つらい。
生きているだけで、失う。
1人生き残った自分は、どこへ向かう?
危険な思考がよぎったけれど、リンフィーナを思い出した。
『兄様、私兄様が居ないとダメみたい』
ダメなのは、もしかすると自分の方かもしれないと自らを顧みる。
「お心はわかりました」
ロイは言った。
「それでも私は、ーーいえ革命軍は貴方が必要です」
必要。
人というのはその言葉に弱い。
必要としてくれる吸引力は、冥府から上に上がる階段の一歩だった。
「わかりました。サナレス殿下。ーーいえ、サナレスと呼ばせていただいても?」
「構わない」
「おっしゃるように私は、不遇なこの世界を変えたいのです。お知恵を拝借できますか?」
「喜んで」
サナレスは半分冥府に意識を取られながら、かろうじてロイの誘いを受ける。
サナレスにとって、かつての愛する人や親友を失い、さらにリンフィーナとアセスがいないこの世界こそ冥府だ。
生きていく上での脱冥府とは、たぶんそう、明確な希望もないのに生き続けること。
そしてまた冥府とは、そこからも続きがあって無理矢理生きていくという、とんでもない難関なのだ。
笑えてくる。
「サナレスーー?」
ルカの面影を残した、今の自分にはルカにしか見えない彼の息子ロイが様子を伺ってくる。
「百年生きてもなお、新鮮に感じることがあって、私は嬉しい」
絶望の底でも喜びがあった。幾つになっても感情が泡立つことがあるのだから。
馬ではない列車での移動。
親友の息子からの申し出。
貴族の、そして王族の寿命は想像できないほど長く、自らの意思で絶ってしまえばそれまでだ。
絶望してレイトリージェのように自害する貴族はいる。
けれど失うばかりではないのかもしれない。
サナレスは思った。
「おまえの話は聞かせてもらった。私の話をしてもいいか?」
誤解されないようにしていこう。それが後見人としてルカから預かった息子への誠意だった。
「私は今、たった一つだけ大事にしているものがある。それが我が妹リンフィーナ・アルス・ラーディアだ。ラーディア一族とのしがらみもどうでもいいが、彼女はどうやらラーディオヌ一族の総帥に思い入れが強くてね。2人が幸せであればと、それだけを願っているんだ。ーー革命軍では、その願いを聞き入れてもらえるのか?」
ロイは少し目を丸くして沈黙した。
「貴方……、それだけのために世界を敵にしたのですか?」
「敵とは物騒だな。私に敵はいない。ライバルという好敵手はいても、ーー望みはそれだけだ」
「ーー思っていたよりバカですね」
「だからそう自己申告しただろ?」
ロイはサナレスに手を差し出した。
「握手なんて文化、どこで覚えたんだか……」
「私は勉強熱心なんで!」
ロイはサナレスを前にして遠慮なく手を差し出してくる。
口の端を少し歪め、サナレスは彼の手を握り返した。
脱冥府しても、また冥府ーーなのかな?
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「炎上舞台」
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「脱冥府しても、また冥府」
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