選択肢、揺れる
さて、恋愛において選択肢がゆれるとき、決断を出せなくて迷う時。
それは選べるだけ贅沢な状態であると言われたことがある。
だいたい、選ぶシチュエーションなんて来ないのだから。
例え死ぬほど悩んでも、それは贅沢なんだそうだ。
筆者の経験からサナレスに伝えたいかもしれないが、
モテる人間というのは、
きっとその辺りの悩みって、
義務教育みたいに通らないといけないのかも。
成長するなら、それでいいけどね。
※
アルス大陸で今最も凶悪犯、ときの人になったサナレスは、この大陸で初めて開発された鉄道列車に乗り込んでいた。
大陸を移動するとき、愛馬を連れていないというシチュエーションは初めてだったので、新鮮でいて少し寂しい。
王都と王都を結ぶレーンを引くには、神子や人の子関係なく、アルス大陸での行き来を簡素化しなければならず、関所を設ける国が多い中、その一つひとつの許可を取ることが難しかったのだ。その点においてどうして近隣諸国が承諾したのか、深く考えればこの計画の黒幕に思い当たる節はあった。
正当な方法では、難しかった。
強硬手段に出なければ、おそらくはあと百年待っても、実現したかどうかわからない程、この世界は王族や貴族制度がまかり通っていた、
だからサナレスは、不本意ながらソフィアの思うままに行動するていをとって、この計画の後押しをしてきた。
リンフィーナを盾に取られ、自らの行動を操られたわけだが、サナレスはそう暇ではないし合理主義者だ。
どうせ意にそわず、貴族街を焼き払わなければならないのであれば、いっそのこと反対勢力であった王族貴族を焼き払って、この世界にとっての文化の発展をーー、いや利便性を追求し、大陸内の行き来を画期的に良くすればいい。
片手間で一石何鳥も考えるサナレスは、アルス大陸全土で謀反人になりながら、自らの算段で張り巡らされた鉄道に満足していた。
早馬を飛ばすほどではないが、列車という蒸気機関車なら、多くの人の行き来を可能にし、重荷の運搬もできそうだった。
サナレスからしてみれば、今であれば、おそらく馬の方が早い。
それは道が舗装されている箇所が少ないからだ。舗装できた道路は直線距離ではない。つまり迂回する経路になっている。
けれどきっと、この先の未来は車輪に勝る技術なし。いや、浮遊して移動する者の方が速いのだろうか。
この世界は中途半端だった。
もっとキシル大陸のように貪欲に文化を受け入れるべきだと思った。
蒸気機関車といった乗り物は、サナレスが考えたわけではない。
設計図の訂正や改良点について意見は述べたが、ラーディア一族で実施したタイホという技能試験で目覚ましい成績を残した者が発明した。
この世界は発展していく。
それにはやはり発明に寝食を注ぐ者がいて、斬新なことを発想する若手がいる。
彼らはサナレスがラーディア一族を離れ、好き勝手なことをしても、サナレスについてきており、サナレスがすることに寛容だった。
世間からこの団体を、革命軍と言われているとサナレスはそろそろ自覚しなければならなかった。
「何も革命なんて望んでいないんだけどなぁ……」
馬を走らさなくとも自動で大人数を運ぶ汽車に乗り、サナレスはぼんやりと外を眺めた。
「総長」
4人が向かい合って座るボックス席でのんびりくつろいでいると、目の前に自分を迎えにきた男が座る。
総長ーー全ての長という意味合いだと受け取っていた。
「私は、ラーディア一族第三皇妃の息子なのだがーー? いったい何の総長になったというのか……?」
文明開花したい思いで研究してきたことが、革命軍などと言われ始めたら、いよいよ自分はラーディアやラーディオヌの反対勢力になっていこうとしているではないか。
望まないことだったけれど、昔から何か中心的な役割を押し付けられる性質らしい。
おかしいな。
放浪したい気持ちが強いのに、とサナレスは汽笛の音をきく。
大きな音だ。
人が開発して動かして、そして動いて音を出すだなんて画期的な瞬間だった。
それには胸の中が何かワクワクしてしまう。
「サナレス殿下。こうお呼びした方がいいのであれば、呼び名など大したことではございません」
「ふん……」
そんなことだろうと思っていた。
目の前に来るはずの人物に当たりをつけていて、想像通りだったことに苦笑する。
「それでーー、ラーディア一族の神官長ロイ、どうしてお前が革命軍のリーダーなんだ?」
差出人不明だったが、ご丁寧にサナレス宛に列車が完成したから乗れというメッセージを送ってきた。
サナレスに容易に連絡を取れる立場にある人間は少なかった。王族である以上に、全ての責任者であったサナレスの行動を把握できた者など、五本の指に入る。
ラーディア一族、近衛兵副長ギロダイ。
大陸医局長ケンタオリウス。
リンフィーナ双見、タキ。
ラーディオヌ一族総帥、アセス。
そしてラーディア一族、神官長で今は事務次官を兼任してくれているロイだ。
ロイには、神官長としての責務以外に、自分がいなくともラーディア一族の全てがまわるように、産業技術試験「タイヨ」の総責任者を兼ねてもらっている。
ラーディア一族が鎖国した後も、列車が完成したことを知らせてもらったし、その乗り物に乗ってほしいとメッセージを受け取った時から、ロイからだとわかっていた。
「ご存知かと思いますが、私はラーディア一族が嫌いなのです」
「フェリシア公爵家を裏切る覚悟か?」
「ええ。殿下に神官長でありながら、サナレス殿下の仕事を手伝わせて頂いた後、私はこの革命軍を募ったのです」
サナレスは全てのキーになるカードに擦り(かすり)はしても、しっかりと握って予測できない自分に吐息をついた。
「それはーー、フェリシア公爵家の当主レイトリージェ様が自害なされたからか!?」
「ーーそれは、関係ございません。私は常に、ラーディア一族が呪術を疎んじ、魔力を宿す銀髪の民を迫害してきた、そんな体制のラーディア一族に絶望したのです。私にとってラーディア一族公爵家当主レイトリージェはその象徴でございます。同じ人間だというのに銀髪の父、そしてその子である私に踊らされ続けた。ーーサナレス殿下、あなただけが偏見を持たない。それがよくわかったのです」
真っ直ぐに自分を見つめてくるロイはかつての親友ルカの面差しと、幼馴染であったレイトリージェの血を感じさせ、サナレスは懐かしさに目尻に皺を寄せる。
ルカが他界し、彼の子種を宿したレイトリージェに、ロイの父親になってはくれないかと懇願された。けれど後見人役を引き受けたけれど、サナレスは病死したレイトリージェの姉ムーブルージェを愛していて、後見人としてロイを育てても、父親になることはできなかった。
その結果、レイトリージェは女人ではあったが公爵家の当主になり、その子であるロイは健やかだと思っていた。
そんなふうに思いたかった自分の甘さが招いたことだ。
「サナレス殿下、革命軍総長の座はあなた以外ございません。ラーディアもラーディオヌも、そして人の国ですら、文明開花のために焼き払って下さった貴方は、間違いなく革命軍総長なのです」
かつての親友、ルカの息子はあいつに似て実直で、少し思い込みが激しい。
ルカがここに居れば、「こいつには無理、無理」とサナレスの勝手気ままさを何時間でもかかって説得してくれたことだろうが、彼の息子ロイはラーディア神殿の皇子に甘んじていたサナレスを誤解していた。
「まあ……、いい」
これも成り行きかと、この展開を楽しもうという好奇心が湧いてしまった。
相手がルカの息子ロイでなければ、不機嫌さも相まってこの場で切り捨ててしまっていたかもしれない。
エコ贔屓。
好き嫌いがはっきりしているサナレスの悪い癖だった。
まず容姿の美しさ、次に思考力の速さ、そして個性があるかどうか。
審査の結果、瞬時に好き嫌い、そして関わるかどうかを判断してしまう冷たさがあることは、サナレスが改めなければならない点だったが、王族として認識してはいてもとりあえず、当面改める暇もない。
ロイはサナレスの審美眼に残る男だった。
「私はラーディア一族王族の身分を捨ててきた謀反人だ。自分が捨てたとはいえ、捨てる神あれば拾う神ありとかいう、キシル大陸から伝わった言葉があるように、ひとまずロイ、おまえと一緒に旅に出よう」
過去の自分は、一族ーー全ての身分を捨て、彼の父ルカと一緒に世界を旅して回りたかった。親友ルカを失い百年経って、彼の息子ロイに誘われたのだ。感情が動かないはずがない。
ただ、残していく気掛かりなこともあった。
妹の婚約者で、世間知らずなアセスは勝算があるとはいえないまま冥府に行こうとした。
それもリンフィーナから世界滅亡、つまり魔女再来の疑惑を払拭するため、アセス自らが処刑されることを選択した。
目指したのは闇の帝王となったヨアズの後継かーー。
「馬鹿なことを……」
確かにヨアズの後継として冥府の王になれば、死にはしないかもしれない。
アセスの記憶を残したまま、ずっと生き続けられるかもしれない。
けれどそれってーー。
千年以上ラーディア一族の神殿で神として奉られているジウスと同じになるってことではないか? 冥府の王として、死ぬことはなくとも、一千年以上もその役に縛られるなんてこと、あってはならないとサナレスは思った。
あの男の無鉄砲さは、リンフィーナの恋人としてふさわしくはなかったな。
サナレスは感情を平坦にするよう努めていた。
ムーブルージェ。
彼女を失ってから、サナレスの生活は色を失っていた。
リンフィーナ。
彼女の子育てを決意してから、なぜかまた世界が色ずく。
失ったムーブルージェに何の償いもできないが、リンフィーナが幸せでいられるようしたかった。彼女の気持ちが第一優先、自分は彼女の育ての親であり、後見人であり、兄であり、恋人なのだ。
リンフィーナを愛している。
そう思うたび、ムーブルージェを思い出した。
彼女を忘れたくはない。
彼女の歌声。
そして微笑みかける眩しい姿。
絡みついた生々しい身体。
そして、亡くなった記憶。
ムーブルージェ。
冥府というその先に生まれ変わる世界があるなら、彼女を探したい。
立場が違って、どんな魂に生まれ変わっても、自分はまた彼女を見つけ出す自信があった。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「脱冥府しても、また冥府」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




