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脱冥府しても、また冥府  作者: 一桃
82/84

素直さがもたらす最悪

こんばんは。

この章で出会っている方、おそらくシリーズ「星回りの夢」か「冥府への道を……」に戻ると、しっくりくるかも知れません。


長編、とっても長編です。

いつ寿命かな、と思いながら書いているので、書ける限りは(自己満足でも)書きます。


応援、反応、ブクマ、延命措置をよろしくお願いします。

        ※


 アセスは何とか一命を取り留めた。

 アセスが生きなければならなかった理由になったリンフィーナは、魔女ソフィアの意識を遠くに追いやり、献身的に看病する。


 その姿は何かに取り憑かれたようで、それを見たラーディオヌ一族の民は彼女のことを魔女の再来だと疑がい、そして魔に落ちたラーディオヌ一族の王を同様に嫌悪してしまったことに、ただ自責の念を募らせた。


「黒幕はサナレス・アルス・ラーディア。ラーディア一族の次代の王だった彼が、一族を追放され、トチ狂ったに違いない」

「いっとき風の噂で死んだと聞いたが……」

「どうやら魔道士に落ちたことをラーディア一族が隠蔽しようとし、王族の身分を剥奪したんだ」


 勝手な噂話が耳に入ってくるたび、リンフィーナの中で燻っている魔女ソフィアは面白くなさそうに舌打ちした。


『どこに行ったサナレス!? 私との約束が中途半端だ。お前はずっと私の望みを叶え続けると契約した』

 思い通りにならなくて癇癪を起こしたいが、自分の体を支配しているのは、今アセスという男の命にしか目を向けていない、馬鹿娘リンフィーナだった。


『全く、この姫様はなんて優柔不断なんだ!! サナレスに決めていればいいというのに、またこんな、見た目も女みたいな男が死にそうになったら、トチ狂うとか! ーー絶対ない!!』

 サナレスの方がいい男なのに、と言いそうになってソフィアは言葉を飲み込んだ。


 これではまるで自分がサナレスを好きみたいではないか!


 一生一緒にいる下僕にそのような過大な好意を持ってやるなど、性に合わない。

 ジウスやヨアズに似ているから、単に昔のよしみで親しみを持っているだけだ。サナレスなど、ーー自分との契約を果たすならどうなってもいいはずだった。


『いい加減、目を覚ませ〜。お前がしがみついている男はもう死なないよ。止血されてるだろう。パニックばっかり起こしていないで、現状をよく見極めてくれない?』

 ソフィアの愚痴を精神的脆弱者のリンフィーナは聞き分けなかったが、陶器のように整ったラーディオヌ一族の総帥が、瞬き一つと共に半身を起こした。


「リンフィーナ!?」

 こちらをガン見してきたアセスという男は、感情のない白い顔で首を傾げる。

「貴方ですよねーー?」

『ええ? 聞こえました?』

 ソフィアの声は、やはり彼に届かない。


「アセス!!」

 案外鋭いじゃないかと褒めたくなった。

 

 だが、「ちっ!」自分よりリンフィーナが音声の主導権を持っていて、ソフィアは皮肉げに舌打ちして毒ずいた。


「リンフィーナ、私は今ラーディオヌ一族で処刑される身なのですよ。こんなところにいるなんて……。サナレスは?」


『そうだよサナレスを探してほしい』

 ソフィアの心の声と、アセスからサナレスの名前を出されたことで、リンフィーナは動揺した。


「サナレス兄様……」

 わからない、とリンフィーナは首を振った。

「アセスが死ぬかもと思って、兄様に呼ばれてーー。それで私いったい……?」

『あああぁ、なるほど。多重人格に混乱をきたしてきているわけか』

 ソフィアは吐息をついた。


 確かリンフィーナの過去の記憶を辿ると、彼女自身がラバース能力を使い、一人の別人格の肉体を作り出した。レヴィーラ、その人格と肉体を持った女は過去に死に、その女の人格も吸収しているらしい。


 精神が壊れる日は近いな。

 好都合だとソフィアは思った。


「ここはどこです?」

 アセスという男の方が正気だった。

「ヨースケ・ワキという人が用意した館なんだけれど……、アセスの処刑については今誤解があったと審議中で、私も……、多分捌かれてて……。でも私たち生きてる」

「ーーそうですか……」


 アセスは吐息をつく。

「貴方とサナレスに無茶をさせてしまいました」

「ーー無茶は、する方がいいと思う」


 リンフィーナは少し安心した顔になって、目の前で目を覚ました男の脈があるか、体温が戻っているか、医師みたいな真似事をして確認している。


「やめてくださいね。こんなところで前みたいに衣服を剥ぎ取られたら、私が理性をなくすかも知れない」

『何だとぉ!?』

 リンフィーナの顔が赤くなり、同時にソフィアは叫んだ。


 自分の驚愕とは別に、どうやらアセスは真剣だ。

 ソフィアはこの二人はいったいどういう関係なんだと頭を抱えた。


 恋愛経験において、10歳程度の成長で止まったままのソフィアは、動揺する。

 サナレスは横恋慕をしていたのだろうか?


 だがこの姫君は確かにサナレスのことも好きで……。


『結局この優柔不断な小娘が悪い!!』

 私なら絶対にサナレスを裏切らない。

 ソフィアはそう結論づけた。


「リンフィーナ、貴方はいつも私の面目ない……、いえ窮地に現れていただくのですが……、今回私はある考えがあって、あえて一度死のうかと思っていたのです」

「理解できません!」

 リンフィーナとアセスはひたいがくっつくような距離で言い合いながら、見せつけてくる。


「いやです!! ーーいえ……、命をかけてまで、することじゃないでしょう? もしかしたらもう二度と目覚めなかったのかも知れない。もう二度と、私ーー。とにかく!!」

 リンフィーナは一度言い淀んで、払拭するように言い切った。

「命を粗末にしないでください! ていうか、貴方は何度命を粗末にしたら気が済むんですか!?」

 先ほどまで萎れ、アセスと一緒にしなだれていたというのに、リンフィーナは背筋を伸ばして小言を言っていた。


「でもーー、本気で死のうとしたんじゃないんですね?」

 改めて確認する。

「私はただ、魔女として貴方にラーディオヌ一族の敵意が向かないようにしたかっただけです」


「そんな……馬鹿なことを、考えてたんですか!?」

 アセスはソフィアから見ると本心を隠し、少し芝居がかった様子で、「すみません」とリンフィーナに微笑んだ。


「貴方が死んでしまったら私はーー!」

 アセスはぐいとリンフィーナの腕を掴み引き寄せる。

「貴方はーー? あの時のように、私の後を追ってきてくださるのですか?」


『むかっ!!』

 ソフィアは反発する。


 まあ、なんていうかまぁ。

 この姫様がサナレスと天秤にかけるだけあって策士ではあるが、どうしてこうもこの姫様は幼く、この男の言う事にいちいち心臓をうるさくしてくるのだろう?


 同じ体だから、心臓の鼓動がそのまま伝わってくる。


 いっそ今すぐ、この鼓動止めてやろうか。

 と思うぐらい腹が立った。


 何かもどかしい。

 ジウスとヨアズ、二人と関わった時に感じたもどかしさが蘇って、過去の最悪の魔女裁判を思い出し、ソフィアはゲロを吐きそうになった。


 十字架に吊るされ生きたまま焼かれたのを思い出し、ぐっと気分が悪くなる。

 このままここにいる二人を始末してしまいたいほどの衝動を、何とかソフィアは押さえ込んだ。


『ああだから千年も眠っていたんだけど』

 眠っていなければ、死にたい。

 全てどうでもいい。

 最悪の気分の道連れになってくれる人、見つかればいいのに。


『サナレス、お前どこにいる?』

 ソフィアはここでなぜかリンフィーナの心と協奏した。


『サナレスがいないと退屈だ』

「ーーアセス、私兄様がいないとダメみたい。それにサナレス兄様も、私がいないとダメだと思う」

『私もそう思う』


 優柔不断な姫様は、あろうことかアセスに対しても本心で喋っていた。

 サナレスに対し、常にナチュラルな自分自身の言葉を紡ぎ、このアセスという男に対しても純粋だ。


 魔女って……。

 本当の魔女は、どっちかっていうと自分よりも彼女の方じゃないのか……?


 ソフィアは一人愚痴た。


 何もかもに素直で、まっすぐな反応ができるリンフィーナが眩しく、そしてその純朴さが逆に罪作りなことをソフィアは知っていた。

『サナレス……。この勝負やはり、お前が一番貧乏くじを引きそうだ』

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「脱冥府しても、また冥府」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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