素直さがもたらす最悪
こんばんは。
この章で出会っている方、おそらくシリーズ「星回りの夢」か「冥府への道を……」に戻ると、しっくりくるかも知れません。
長編、とっても長編です。
いつ寿命かな、と思いながら書いているので、書ける限りは(自己満足でも)書きます。
応援、反応、ブクマ、延命措置をよろしくお願いします。
※
アセスは何とか一命を取り留めた。
アセスが生きなければならなかった理由になったリンフィーナは、魔女ソフィアの意識を遠くに追いやり、献身的に看病する。
その姿は何かに取り憑かれたようで、それを見たラーディオヌ一族の民は彼女のことを魔女の再来だと疑がい、そして魔に落ちたラーディオヌ一族の王を同様に嫌悪してしまったことに、ただ自責の念を募らせた。
「黒幕はサナレス・アルス・ラーディア。ラーディア一族の次代の王だった彼が、一族を追放され、トチ狂ったに違いない」
「いっとき風の噂で死んだと聞いたが……」
「どうやら魔道士に落ちたことをラーディア一族が隠蔽しようとし、王族の身分を剥奪したんだ」
勝手な噂話が耳に入ってくるたび、リンフィーナの中で燻っている魔女ソフィアは面白くなさそうに舌打ちした。
『どこに行ったサナレス!? 私との約束が中途半端だ。お前はずっと私の望みを叶え続けると契約した』
思い通りにならなくて癇癪を起こしたいが、自分の体を支配しているのは、今アセスという男の命にしか目を向けていない、馬鹿娘リンフィーナだった。
『全く、この姫様はなんて優柔不断なんだ!! サナレスに決めていればいいというのに、またこんな、見た目も女みたいな男が死にそうになったら、トチ狂うとか! ーー絶対ない!!』
サナレスの方がいい男なのに、と言いそうになってソフィアは言葉を飲み込んだ。
これではまるで自分がサナレスを好きみたいではないか!
一生一緒にいる下僕にそのような過大な好意を持ってやるなど、性に合わない。
ジウスやヨアズに似ているから、単に昔のよしみで親しみを持っているだけだ。サナレスなど、ーー自分との契約を果たすならどうなってもいいはずだった。
『いい加減、目を覚ませ〜。お前がしがみついている男はもう死なないよ。止血されてるだろう。パニックばっかり起こしていないで、現状をよく見極めてくれない?』
ソフィアの愚痴を精神的脆弱者のリンフィーナは聞き分けなかったが、陶器のように整ったラーディオヌ一族の総帥が、瞬き一つと共に半身を起こした。
「リンフィーナ!?」
こちらをガン見してきたアセスという男は、感情のない白い顔で首を傾げる。
「貴方ですよねーー?」
『ええ? 聞こえました?』
ソフィアの声は、やはり彼に届かない。
「アセス!!」
案外鋭いじゃないかと褒めたくなった。
だが、「ちっ!」自分よりリンフィーナが音声の主導権を持っていて、ソフィアは皮肉げに舌打ちして毒ずいた。
「リンフィーナ、私は今ラーディオヌ一族で処刑される身なのですよ。こんなところにいるなんて……。サナレスは?」
『そうだよサナレスを探してほしい』
ソフィアの心の声と、アセスからサナレスの名前を出されたことで、リンフィーナは動揺した。
「サナレス兄様……」
わからない、とリンフィーナは首を振った。
「アセスが死ぬかもと思って、兄様に呼ばれてーー。それで私いったい……?」
『あああぁ、なるほど。多重人格に混乱をきたしてきているわけか』
ソフィアは吐息をついた。
確かリンフィーナの過去の記憶を辿ると、彼女自身がラバース能力を使い、一人の別人格の肉体を作り出した。レヴィーラ、その人格と肉体を持った女は過去に死に、その女の人格も吸収しているらしい。
精神が壊れる日は近いな。
好都合だとソフィアは思った。
「ここはどこです?」
アセスという男の方が正気だった。
「ヨースケ・ワキという人が用意した館なんだけれど……、アセスの処刑については今誤解があったと審議中で、私も……、多分捌かれてて……。でも私たち生きてる」
「ーーそうですか……」
アセスは吐息をつく。
「貴方とサナレスに無茶をさせてしまいました」
「ーー無茶は、する方がいいと思う」
リンフィーナは少し安心した顔になって、目の前で目を覚ました男の脈があるか、体温が戻っているか、医師みたいな真似事をして確認している。
「やめてくださいね。こんなところで前みたいに衣服を剥ぎ取られたら、私が理性をなくすかも知れない」
『何だとぉ!?』
リンフィーナの顔が赤くなり、同時にソフィアは叫んだ。
自分の驚愕とは別に、どうやらアセスは真剣だ。
ソフィアはこの二人はいったいどういう関係なんだと頭を抱えた。
恋愛経験において、10歳程度の成長で止まったままのソフィアは、動揺する。
サナレスは横恋慕をしていたのだろうか?
だがこの姫君は確かにサナレスのことも好きで……。
『結局この優柔不断な小娘が悪い!!』
私なら絶対にサナレスを裏切らない。
ソフィアはそう結論づけた。
「リンフィーナ、貴方はいつも私の面目ない……、いえ窮地に現れていただくのですが……、今回私はある考えがあって、あえて一度死のうかと思っていたのです」
「理解できません!」
リンフィーナとアセスは額がくっつくような距離で言い合いながら、見せつけてくる。
「いやです!! ーーいえ……、命をかけてまで、することじゃないでしょう? もしかしたらもう二度と目覚めなかったのかも知れない。もう二度と、私ーー。とにかく!!」
リンフィーナは一度言い淀んで、払拭するように言い切った。
「命を粗末にしないでください! ていうか、貴方は何度命を粗末にしたら気が済むんですか!?」
先ほどまで萎れ、アセスと一緒にしなだれていたというのに、リンフィーナは背筋を伸ばして小言を言っていた。
「でもーー、本気で死のうとしたんじゃないんですね?」
改めて確認する。
「私はただ、魔女として貴方にラーディオヌ一族の敵意が向かないようにしたかっただけです」
「そんな……馬鹿なことを、考えてたんですか!?」
アセスはソフィアから見ると本心を隠し、少し芝居がかった様子で、「すみません」とリンフィーナに微笑んだ。
「貴方が死んでしまったら私はーー!」
アセスはぐいとリンフィーナの腕を掴み引き寄せる。
「貴方はーー? あの時のように、私の後を追ってきてくださるのですか?」
『むかっ!!』
ソフィアは反発する。
まあ、なんていうかまぁ。
この姫様がサナレスと天秤にかけるだけあって策士ではあるが、どうしてこうもこの姫様は幼く、この男の言う事にいちいち心臓をうるさくしてくるのだろう?
同じ体だから、心臓の鼓動がそのまま伝わってくる。
いっそ今すぐ、この鼓動止めてやろうか。
と思うぐらい腹が立った。
何かもどかしい。
ジウスとヨアズ、二人と関わった時に感じたもどかしさが蘇って、過去の最悪の魔女裁判を思い出し、ソフィアはゲロを吐きそうになった。
十字架に吊るされ生きたまま焼かれたのを思い出し、ぐっと気分が悪くなる。
このままここにいる二人を始末してしまいたいほどの衝動を、何とかソフィアは押さえ込んだ。
『ああだから千年も眠っていたんだけど』
眠っていなければ、死にたい。
全てどうでもいい。
最悪の気分の道連れになってくれる人、見つかればいいのに。
『サナレス、お前どこにいる?』
ソフィアはここでなぜかリンフィーナの心と協奏した。
『サナレスがいないと退屈だ』
「ーーアセス、私兄様がいないとダメみたい。それにサナレス兄様も、私がいないとダメだと思う」
『私もそう思う』
優柔不断な姫様は、あろうことかアセスに対しても本心で喋っていた。
サナレスに対し、常にナチュラルな自分自身の言葉を紡ぎ、このアセスという男に対しても純粋だ。
魔女って……。
本当の魔女は、どっちかっていうと自分よりも彼女の方じゃないのか……?
ソフィアは一人愚痴た。
何もかもに素直で、まっすぐな反応ができるリンフィーナが眩しく、そしてその純朴さが逆に罪作りなことをソフィアは知っていた。
『サナレス……。この勝負やはり、お前が一番貧乏くじを引きそうだ』
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「脱冥府しても、また冥府」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




