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脱冥府しても、また冥府  作者: 一桃
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消せない匂い

こんばんは。


先週はドローンの講習会で、飛ばせる免許を取っていて、更新できませんでした。

人っていうのは、面白いマシンを開発しますね。そのうち人を乗せられるタクシー型ドローンが市場に出るとかなんとか。


うちの姉は、現在の魔法使いになりたいと言って、科学者の道に進みました。

そんな世の中ですね。

        ※


 頻発する地震と、不足する食糧、そしてジリジリと迫り来る疫病は、水月の宮に拠点を置くラーディア一族の近衛兵を含めた人達を日々精神的に追い詰めていった。


 人を不安に貶めていく進行具合はゆっくりとだが確実に迫ってきており、側で見ているリンフィーナはそんなこと気にも留めないサナレスとは違い、危機感を持ってしまう。


 兄様なら、絶対にこの状況を察知して、事前に何か策を講じてくれた。それなのに今のサナレスは、周囲とは違う着眼点で、おそらくは自分が脅威と感じていることは取るに足らないと判じている。


 サナレスは研究室に数日籠ったかと思うと、相変わらずふらっとどこかに出かけて行っては、数日間水月の宮を不在にすることが多かった。

 好奇心から、その後アセスに会ったのかと聞いてはみたが、サナレスは「いや」と否定だけして、崩れるように眠ってしまう。


「アセスには会っていない」

 だからあいつのことはわからないと言って謝罪するサナレスは、心底疲れているようにみえ、心配でしかない。アセスのことを聞きたくて呼び止めたわけではないのに、サナレスは常にアセスのことを自分に謝ってきた。


「一緒に寝てくれる?」

 夜中に帰ってきたサナレスをまるで介抱するように寝室に連れて行き、リンフィーナは傍で彼の手を握った。

「どうした? 大丈夫だ、お前こそ寝不足なんじゃないか?」

 逆に心配されたけれど、奥歯で気持ちを噛み殺した。


 いまにも睡魔に引き摺られそうになるサナレスに、リンフィーナは今朝方アセスから届いた手紙について話をした。サナレスに見せようと、アセスからの手紙を手元に握りしめる。

「アセスは今、国を任せていた方と一緒に、なんとかラーディオヌ一族の法律を変えようとしているって」

「そうか」

 サナレスは吐く息を少し和らげて満足そうだ。


「それでね、ラーディア一族とラーディオヌ一族を本当の兄弟氏族にできるようにしたいって」

 だから私たちまた三人で一緒にいる未来がある。

 リンフィーナはそのことを伝えたかった。


 けれどサナレスは違う解釈で、アセスからの手紙を開いて目を落とした。

「それだけお前に真剣だということだな」

「兄様?」

「最強の好敵手というわけだ」

 ライバルという割には、サナレスの目には競争心は宿らなかった。どちらかというと、ただ微かに目尻を細めただけだ。


 好敵手ということは、競ってくれる?

 即座には質問できないほど、その回答は恐ろしかった。


「兄様、ずっと出かけているけれど、どこに行っているの?」

 私も一緒に行ってもいい?


 一緒にいく可能性を問い掛ければ、食糧調達班の自分の仕事を放棄することになり、サナレスに問う事ができなかった。


 でも、この夜少しだけリンフィーナはサナレスが出かける先の検討をつける事ができた。どれだけ口を紡いでも、匂いというのは消すことができない。おそらくサナレスは匂いですら消そうと試みたであろうが、彼に染みついた衣服からは火薬の匂いがして、リンフィーナはある悪い噂を連想した。


 そんなわけない。

 兄様のわけがない。


 けれど兄の衣服の袖を握る手が、虫の知らせにぶるぶると震え、その腕に額をもたげる。


 このところアルス大陸では王族の血筋が何者かに襲われた。

 それはまるで何かの呪いを受けたかのように、王族の国が一刀で刎ねられ、乾いた土地にさらされる。


 そのせいで疫病が流行るのだと人々は噂した。

 王族の腐敗した死肉から、その恨みが芽生えて疫病が流行る。


 そんなことを取り沙汰されるようになった今、なぜか王族斬首の現場は煉獄の炎で燃やされているらしい。

 自然発火ではあり得ない、そして草木を燃やしたのではあり得ないほどの威力で、現場は一瞬で火の海になっているという。


 リンフィーナは思った。

 これを実行できるのは炎の魔道士か、もしくは摩訶不思議な現象を科学で現実にしてしまうサナレスか、二者くらいのものだろう。


 サナレスから微かに火薬の匂いがして、リンフィーナは不吉な思いつきを打ち消そうとサナレスの体にしがみついた。

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「脱冥府しても、また冥府」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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