サナレスの怒り
こんばんは。
長い物語にお付き合いいただき、ありがとうございます。
ほぼキャラクターが動くまま、書いている長編です。
ですので定期的にパトロールして、皆様が楽しめるように改訂しております。
お付き合い、よろしくお願いします。
※
大罪人、アセス・アルス・ラーディオヌの処刑が行われる当日。
人々の沈鬱な気持ちを移すような曇天、アセスは大勢の貴族や民の視線に晒されながら、平民街の広場の中央高い位置で、十字架に吊るされた。
「ねぇ母さん、あの人なんであんなところに吊るされてるの?」
入ってこられないよう駐屯兵で壁が造られ、物々しい雰囲気が恐ろしいのか、不思議がる子供や泣き出す者がいる。
「悪いことをしたのよ。一族の王だというのに、私達を裏切ったの」
説明する母親らしき女の声を聞きながら、そう、自分はラーディオヌ一族の民を、そしてアルス家と呪術師会の信頼を踏み躙った。
アセスは自分の罪を認めている。
このところ痩せてきており、吊るされた四肢が重いと感じることはない。けれど両手両足に打たれた杭は想像通り熱を持ち、じくじくと痛んだ後神経が断絶され痺れてくる。
処刑の演目は見せしめを兼ねた血抜きだったので、両手両足の頸動脈を吊るされたまま切られることになった。
広場に集まった民衆はその瞬間目を覆った。
貴族の多くもおそらくは物見遊山だろう。日頃この界隈に見られることは珍しい高貴な馬車が何台も広場を取り囲んでいた。
歴史上の魔女裁判では油をかぶせられ、火がついた矢を射られたというが、さらされるのは同じだとしても、演出的にずいぶん地味になっている。
それでも体内から血が流れ出ていくにつれ、意識が朦朧とし始めていた。
けれど。
「アセス!!」
耳をつんざくような声で、名前を呼ばれた。
うっすら目を開けると、自分の死を看取る集団の中に、銀髪の少女がいる。
リンフィーナ!
こんな姿を彼女に見せたくはない。
けれど来てはいけない場所に来てくれたことが嬉しく、アセスは胸が潰れそうだった。心の奥が熱くて堪えなければ迂闊にも人前で感情を溢れさせそうになる。
暴走しそうになる彼女の身体を、必死で抑えているのは、彼女の兄サナレスだ。
だから、ーーそれでなくともみっともない姿を晒しているというのに、これ以上情けない姿なんて絶対に見せられない。
リンフィーナの側にいるのが自分ではないことに多少の嫉妬心を覚えながら、アセスは全ての感情を押し殺して二人の顔を眺めていた。
血を抜かれ意識が混濁してしまうので、「こんなところに来てはいけない」と苦言を述べたくとも口を開くこともできなかった。
「いやだっ!!」
自分の身体がグロテスクな状態になっていることに耐えかねたのか、リンフィーナが肩を震わせて叫ぶ横で、サナレスは少しだけ目を細め、冷静にこっちを眺めてきた。
その視線は厳しく、何かを問い詰められていて、アセスは痛みを忘れ笑ってしまう。
サナレスはリンフィーナの暴走を防ぐためか、彼女の口をハンカチで覆い、彼女の意識を奪ってしまった。
「それでいい……」
アセスは呟いた。
するとこちらを真っ直ぐに見つめているサナレスは、ゆっくりと唇を動かし、自分に読唇術をしろと言わんばかりに話しかけてきた。
「ば・か・か?」
痛烈なメッセージだった。
「しょ・う・ぶ・す・る・や・く・そ・く・だ」
「……諦めてなんて、いませんよ」
悔しくて唇を噛み締める。
そうするとサナレスはふっと笑った。
何を納得したのか、少し満足そうにうなづいた後、そうしてサナレスは顎を上げ、斜めにこちらを見つめてくる。その傲慢な態度に、アセスは呆れかえる。
「な・か・す・な」
誰を?
もちろんリンフィーナを、ですね。
「ーー全く、この状態じゃ手も足も出せないのに、勝手な人だ……」
乾いた言葉はほとんど声にならなくて、サナレスに届いたとは思えなかった。
それなのにサナレスは、
「大声で、勝手なのはお前の方だよ」
と民衆の前で叫んだかと思うと、駐屯兵が作る壁に向かってツカツカと歩いてきた。
「もっと上手くやれなかったものかなぁ?」
漆黒の衣装に身を包んだサナレスは、金色の髪を風ではないモノの存在に不自然に揺らしながら、ゆっくりと近寄ってくる。
静止する兵士を、サナレスの細い剣が次々に切り倒していく。
今こんなところに貴方がくれば、ラーディアとラーディオヌ一族の全面戦争が確定してしまうではないか。
「サナレスーー。私は……、諦めていない。私は冥府の後継者に……」
そう言うよりも早く、サナレスは風のような軽やかさで自分の目の高さに登ってきており、自分の両手両足を解放した。不意に自由になった四肢を、サナレスは肩に担ぎあげたかと思うと、思い切り地面に叩きつける。
「うるさい。泣かしておいて」
ごほっ。
驚いて受け身を取り切れておらず、アセスはその場で七転八倒する。
それを目掛けて、サナレスは自分を容赦なく蹴り上げた。
自分の胸ぐらをつかみあげ、そして耳元で言う。
「馬鹿を言うなよ……。 そんなこと私が許すと思うか!? リンフィーナがそれで納得すると思うか!」
サナレスの言いようのない怒りを初めて知った。
ぎゅっと食いしばった歯に震えるように絞り出した声は、感情に震えている。
この人でも、これほど感情をたかぶらせ怒るのだと思うと、驚きを通り越して新鮮だ。
「すみま……」
謝ろうとしてもサナレスはぶっきらぼうにそれを制した。
「ーー自分で止血しろ。これ以上リンフィーナを泣かしたら私はお前を許さない」
崩れ落ちる自分の体を背中に隠し、サナレスは集まった貴族と民衆に向き直った。
「ラーディオヌ一族の正式な儀式、邪魔してすまない。けれどお前たちがあまりにも愚かなので笑いに出て来てやった」
何をするつもりか、想像がついても、アセスはサナレスによって痛めつけられ、喉元を抑えながら顔をしかめ、彼の所動を見上げるばかりだ。
「天道士級の魔道士の誕生、お前たちは自らの王を疑い、処刑台に送った。それこそが私の策略だったと気付かぬままに」
この人は何を言っているんだ!?
アセスは必死でサナレスの足首に自分の手を伸ばして掴もうとした。
自分が望んだことで、貴方の策略であるはずはない。
サナレスの言葉を訂正したくとも、サナレスに肋骨を折られたか、声が出ない。
「本物の魔道士の力というモノを見せてやろう。ラーディオヌ一族貴族街、次に狙ったのはこの街で、この地を守る邪魔な総帥が片付いた今、造作もない」
何を……?
「古の魔女の力を受け継いだのは、ラーディアを破門された私なんだよ。これから私はラーディアとラーディオヌを、いやアルス大陸を手中に治める」
サナレスは民衆の前で高々に笑っていた。
そして彼が手を翳した瞬間、広場を取り囲むようにあった貴族の馬車に火が放たれた。
また同時に、とてつもない爆発音が身体中に振動をもたらして、人々はその場にへたり込んだ。
「今から貴族街はもちろんタロの街を焼き尽くす。総帥を失い、弱りきったラーディオヌ一族を落とすことなど、造作もないことだな。愚民よ。だからお前たちはラーディア一族と血を分けた兄弟だというのに追放されたのだ」
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「脱冥府しても、また冥府」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




