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脱冥府しても、また冥府  作者: 一桃
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減刑されるから

こんばんは。

彼岸ですね。見えないけれど、亡くなった魂がひしめき合っているんでしょうか?

私は秋休みですが、あるとしたら、そっちの世界は忙しそうです。

        ※


「どうするの? あんた不名誉な魔道士として明日処刑されるんだけど」

「アルス家には子々孫々罵倒されますね」

「それあんたの人生と関係ないけど。サナレスとの勝負、ーー私が楽しみにしていたワイドショーどうしてくれるんだ?」


 ヨースケは異世界の言葉を発した。

 ワイドショーなんて、あっちに転生した者でなければわからない言葉だ。


「まだ終わっていませんよ」

 アセスは鉄甲子に繋がれたまま、顎を上げて笑った。


「強がり言ってくれてもねぇ。私としてはこのままここで、あんたに死なれたら寝覚め悪いんで、救いに来たんだけど」

「ーーそれは、ありがとう」


 どんな時でも、救いに来てくれる人がいるのは喜ばしいことで、アセスは雲のように軽い自分の命の重みに、少しだけ重力を感じて微笑んだ。


「何をヘラヘラしてるんだか。犠牲的精神、笑えねーって言ったよな」

「いや。事をややこしくした張本人でも、少しは私のことを気にかけてくれているのだと、感心しただけです」

「痛烈な皮肉。棘があってもお前の美貌、殺すには惜しい。みすみす世界遺産、葬るようなもんだろ?」

 ヨースケが面白くなさそうに言って来て、アセスは「ああ」とうなづいた。


「確かに腐ってしまっては、この容姿、台無しですものね」

 貴族らしいレールから逸脱しなかった以前より、ずいぶん値下がりしてしまってはいたが、母が忘れ形見に残した美貌はまだ健在であるらしい。アセスは苦笑した。


「あんたを逃したなんて言ったら、私までラーディオヌ一族を追われかねないから、バレたくない。さっさと行こう。門番を買収するのに、一体いくら大金を積んだと思っている……?」

 呑気なもんだと愚痴られたが、アセスは以前涼やかに笑っていた。


 そして。

「そうですか。あなたほどの商人に、それでは無駄金を使わせてしまいましたね」と口の端を上げた。

 これにはヨースケも眉間に皺を寄せた。


「あん? あんた出ないつもり?」

 カビくさく劣悪なこの牢獄で最後を迎え、明日処刑されるっていうのかと、ヨースケは鼻じろんだ。

 アセスは重い腰を上げる気はいっさいなくて、その場で鎮座したまままた笑った。


「私が友だと思った人は、同じことを二度言うのは嫌いな人だったんですよ」

 それが心配からくる言葉でもね。

 忙しいあの人は一度答えたことを二度答えることを嫌った。つまりは即断即決を常にして、後ろを振り返ることはなかったと思う。


 ずいぶん影響を受けたな、と思う。

 そんなこと恋敵には口が裂けても言えないけれど、アセスは自分が決めたことを変えるつもりは毛頭なかった。


「まだ終わっていないと申し上げました。ですから私は、この状況で好機を待っているのです。ーーせっかくですが、あなたの救いの手をとるわけにはいきません」

 正直ヨースケが大金を積んでまでここに来てくれたことは有り難かった。精神的に、自分の意志を再確認できた。


 アセスは笑うほかない。

「算段なく、私はこうしているわけではないので」


「明日、処刑されるのに?」

 ヨースケは聞いた 。


「流石にラーディアの兄妹はここには来られない。大罪人を助けられるほど、ラーディオヌ一族は手抜かりではないこと、あんたわかってるよな?」

「ええ」

 しっかりとイメージできていた。

 明日日が昇ると共に、手のひらに杭を打たれ十字架に吊るされる。


 自分を支えるには手のひらだけの圧では難しいから、首と胴は縄で括られ、苦悶を表せないよう足も杭で止められるのだろう。

 切られるのはおそらく、手首と足首。頸動脈を切ってはすくに息たえるため、拷問には適さない。


 血抜きという極刑についてこと細やかに想像していた。


「けっこう痛そうだ……」

 だが体の痛みに鈍感になるほど、アセスは精神的に既にもう生きた心地を失くしていた。


 ふぅ、と吐息をつく。

「どうしてラーディオヌ一族の大罪に対する裁きは、こんなにも減刑されているのでしょうね?」

 昔の魔女狩りから。

 と呟いた。


 魔女は煉獄の炎に焼かれ、火だるまになり、処刑された。体の原型が残らないほど、その業火は人まえで炎柱を立ち上げたという。


「痛そうでも、減刑されたことに理由はある」

 アセスはヨースケから視線を外した。


「あんたほんとバカ。この世なんていかに楽して勝手して、望むものを手に入れたものがち何だからさ。総帥っていうアドバンテージを持っていながら、わざわざ魔道士なんて名乗り出て処刑されるなんて、全然理解できねーわ」


 アセスは牢獄に繋がれた楔の鍵を指が届く距離に投げられても、「そうでしょうね」と呟いていた。


「賞賛ってなに? あんたが気にしているラーディアの兄妹は絶対助けには来られない。それなのにあんたーー」

 心底ヨースケという人に気にかけてもらったこと、心の中で謝辞を述べながらではあるが、アセスはあっさりと十字架に吊るされることを甘んじた。


 そして誰にも聞かれないほど小声で、せっかく脱冥府しても、また冥府かーーと不平を言った。

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「脱冥府しても、また冥府」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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