逆戻り
こんばんは。
本日夕食後ずっと書いています。
悲しいかな。ちょっと予定も狂い、狂ったのをいいことに楽しんでしまっています。
お付き合いよろしくお願いします。
※
ラーディオヌ一族アルス家地下にある地下牢。
それは白磁の塔とアルス家を結ぶ通路の延長線上にあり、強大な術師を捕らえておくために何百年も前から自然にできた鍾乳洞が改造され、古くから存在する。
そこに両手両足を鎖で繋がれ、囚人となってしまったアセスは、奇妙なことに懐かしさを感じていた。
妙にしっくりして、手足を身体の中心部に引き寄せ、アセスは吐息をついた。
「脱冥府してこの世に戻ってきたのに、また冥府か……。そしてこの牢獄……」
微妙に懐かしい。
王族として力のないアセスは小さい頃から悲惨な人生を歩んできた。
投獄、強姦と言う陵辱、そして血縁から殺戮されるなど、今となっては笑えてくるほど数奇な人生を歩んできている。
いつぞやも自分を失墜させようと、従兄弟殿にはめられて、この地下室に閉じ込められた。
アセスは馴染みがあるその場所にいる自分が滑稽だった。
「あれは驚いたな……」
無鉄砲な姫君リンフィーナが、自分を助けようとこんな汚らしい地下牢に忍び込んできてくれた。
勢いだけはすごかった。彼女の声は敵の前に震えてしまっていて、自分を守ると背に庇ってくれていたけれど、魂以外はとんでもなく弱かった。
「私は一刻も早く、こんな汚い、不浄の場所から彼女を連れ出したくて……。そしてこの場所にいる自分がとてつもなく恥ずかしくなって……」
少し暴走してしまった。
馬鹿みたいに彼女の前で格好つけようとした時に、アセスは彼女への恋心を知った。
格好つけたい。
彼女の前では男でいたい。
今なら、多分自分のそんな淡い気持ちを、素直に認めることができる。
母親との因縁も、誘拐され弄ばれた幼い自分も、こじれてしまった過去の一切合切に振り回され、一生人を愛することなどないと思っていた。
あまりに多くの魔物と体を重ね、生殖本能でさえ狂って感情を殺してきたアセスは、彼女に出会って変わることが出来たのだ。
地下牢にいて願うのは、ただ彼女が無事でいること。
幸せであること。
ーーと言えないのは、アセスはまだ幸せという感情が今ひとつ理解できてはいなかった。
幸せがわからなくとも。
生きていること。無事でいること。健やかでいること。
そしてできれば、彼女には笑っていて欲しいかな、と思う。
一度彼女の膝枕で眠りこけてしまった日の事を思い出した。
あれが幸せという記憶だろうか。
運悪くその日襲撃され、魔道と契約するという最悪の上書きがなければ、もっと幸せというものを胸に刻んでおけたのかもしれない。
ぼんやりとそう思った。
だが所詮、ここは自分にお似合いで、しっくりくる。
幸せという方向に背伸びしてきたけれど、また地下牢に逆戻り、そして冥府に足を運ぶのだ。
「馬鹿にも程がある」
アセスの側に来たのはリンフィーナではなく、長身の男だった。
アセスは彼を見るとき、なぜか絡め取られそうになり、ゆっくりと動く蜘蛛を連想する。
初めて彼に会った時の着物の柄が、こうも印象深いとは。
アセスは苦手な人だ、と自らの感情を動かしていた。
「あのさ、あんたそこで何してるの? 望んでいる人、待ってたって来ないでしょ?」
鋭く切り込まれて、アセスはしばし答えに窮した。
彼女はサナレスを選び、ここには来ないとわかっている。
けれど少しじくりと心臓が痛む。
「ーーわざわざ、笑いに来られたんですか?」
「ふん……」
ヨースケ・ワギは鼻じろんだ。
「ここまで世間知らずのボンボンの犠牲的精神、笑えるほど趣味悪くはねーわ」
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「脱冥府しても、また冥府」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




