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脱冥府しても、また冥府  作者: 一桃
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再会

こんにちは。

そろそろ終盤に差し掛かって、少しずつ前章たちを見直しパトロール中。

割とタラタラ進んできてしまったのは、細かな設定をせずに書き続けていたからです。この点は流石に反省するなぁ。日々気の向くまま描いていたので。


今後はデジタルデトックスも兼ねて、紙にでも起承転結ぐらいはしっかり書くべきだろう。

お付き合いいただいている方、ありがとうございます。

        ※


 目覚めた時、久しぶりに近くに温もりを感じた。

 知っている匂い、そしてその温もりにリンフィーナは腕を伸ばし、寝台の上で安らかに目を覚ました。


 宝箱を開けるようにワクワクした。

 すぐには目を開かず、手指を這わせ、じっくりとその存在を確認していく。


 鎖骨、その下の胸筋。横に指を滑らせると筋肉質な二の腕がある。手指では満足できなくなって、リンフィーナは寝台で上になっている右膝を動かした。


 うわっ!!

 自分の足が大きな、太ももなのか腰なのかわからない肉片に行き当たり、絡みつくその角度で、大好きな人の存在を確かめる。

 布団や枕を見立て、代わりに抱きしめていたのとは全然違う。


 リアル。

 ちょっと硬いし。


 兄様!


 そう思って全身全霊の四肢を使って抱きつこうとしたら、リンフィーナの体は空を掴んだ。

 捕まえたい獲物を逃し、跳ね上がるように立ち上がって、リンフィーナは寝台に半身を起こした。


「兄様! サナレス兄様!」

 やっぱり都合のいい夢の延長線上かもしれない。


 もし、そこにサナレスが居なかったらどうしよう。

 そう思いながら恐々片目から薄目を開け、リンフィーナは確認した。


 でも匂いと温もり、その感覚は偽物ではないから、期待に胸踊らせる。

 そして見た。悪戯っぽい笑みを浮かべ、久しぶりにこちらの様子を伺ってくる兄の姿が目に映る。


「兄様!!」

 サナレス!!

 自分以上に濃厚にサナレスに接触しようとする魔女ソフィアの意識を肌身に感じながら、リンフィーナは負けてなるまじと唇を噛み締める。


 久しぶりのサナレスとの再会なのだ。

 自分の体を乗っ取ろうとする魔女に、この再会の感動を取られてなるものか。

 リンフィーナは自我を高く保った。


 男女関係などわからない。

 この世に生きていていいのかですら、すでに自信がなくなっている。それでもリンフィーナはサナレスを縋り付くように求めている。


 ソフィアにこの体を自由にはさせない。

 サナレスに一番に飛びつくのは私なのだと、一歩も譲らない。


 けれど自分が動くより、サナレスの方が早かった。

 瞬く間の出来事だった。


 リンフィーナがソフィアに意志の力で勝利して飛びつこうと構える寝台の中で、不意をつかれ、反対にサナレスから抱きしめられた。布団をかぶせられるように自然に、けれど力強くサナレスが自分の四肢を窮屈だと思うほどの力で抱き締めている。


 まさかソフィアに対してじゃないよね?


「私、リンフィーナだよ」

 圧迫されるサナレスの胸の中で、リンフィーナはじわじわと顔をあげ、サナレスの胸に顎を乗せた。


 サナレスはふっと笑う。

「私がおまえを誰と間違う?」

 そう言われると、なぜか涙が堪えきれなくなった。


「リンフィーナ、私の愛しい女性だろ?」


 皇女だとか妹だとか、いっさい触れなかったサナレスに、リンフィーナはしがみつく。幼い頃からの自分の願望が叶ったことに、心の中で拍手喝采して歓喜する。


「殿下とか兄様とかじゃない。私、サナレスがいないと生きていけない」

 誓う言葉は、永遠だった。


 やっと帰ってきてくれたのだ。

 もう二度と、離れられない。


 結婚の誓いにある、死が2人を分つまでと言うなら、自分達を分つものは、「死」でしかない。


 それなのに兄は相変わらず意地悪だった。


 さっきだって寝台の横に寝そべっていたはずなのに、抱きしめようとしたらわざと躱して(かわして)きた。


「依存か? 感心しないな」

「そんなんじゃないから!!」


 不貞腐れると、サナレスは自分の頭にポンと手を置く。


「よく留守を守ったな」

「うん」

 頭頂部から、心底安心感が広がっていく。


 ギロダイがいて、そしてアセスが力を貸してくれたから、今まだここに王族として面目を保てる自分がいた。

「兄様、ギロダイが守ってくれたよ。それに、アセスが力を貸してくれた」

「そうか」

 全身全霊でサナレスにしがみつくと、サナレスはゆっくりと片手で自分の頭部をなでていた。


「よくやったな」

 そんなふうに言うサナレスに体重を預けて、ほっと息をついて何時間でもそうしていたかった。


「兄様……」

 違う。

 間違えた。


 これでは単にまたサナレスに絡みついている子供と一緒だ。


 異性として、サナレスと呼んで独占すればよかった。

「サナ……」

 そう言い直そうとして、リンフィーナは顔を上げて兄を見上げる。


 それなのに、今自分を抱きしめているサナレスの表情は、リンフィーナが期待した甘いモノではなかった。

 どこか遠くにいるように無表情で、感情に霞がかかっている。


 違和感を感じた。

 普通こんな時って、もっと……なんていうか、気持ちの昂揚感が続いているもんじゃないのかな?


 目はハートにならないの!?

 心拍数は?


 先刻ぎゅっと抱きしめてきた力が抜けると共に、今サナレスの感情の波は完全に静まってしまっている。


「兄様、私たち兄様がいない間にね、兄様ーー!」

 戻ってきてくれてはいたが、サナレスの存在をさらに遠くに感じて、リンフィーナは必死で兄を呼び、彼に抱きついている。


「相変わらず、甘えたがりだ」

 これほどちゃんと留守を任せていられるのに、と笑われた。

 また妹扱いか?

 今近くで体温を感じるサナレスは、とても遠かった。


「兄様!!」

「昔、チェスをよくしたな?」

 唐突にそう言われた。


「チェスって板はその板上にいるものは全員、立場をわかっているんだ。けれど、先読みして進めてきたコマ達が、急に自由にX軸Y軸に伸びて動き出したら、もっとややこしくなる。読めないな」

「もう!! そんなこと言う兄様は、どうせ絶対的な切りジョーカーを持ってるんでしょ!?」

 不意に譬え話をしてくるサナレスは、何かを暗示しているようだった。


「コマが勝手に動いたとしても、兄様はいつも先手を打って全てのコマを読むんだから、問題ないでしょう?」

 何をコマに喩えたのかはわからなくとも、その手のゲームで兄に勝てた試しはなく、抽象的な会話を続けることができる。それはずっとサナレスの妹であったからできることだ。


 けれど少し気になって確認した。

「それって、今後の兄様と私に関わること?」

 多分そうだとわかったが、念を推して聞いてみた。


 サナレスはあっさり肯定した。

 そして白状するよと肩をすくめる。

「今回ばかりは、ジョーカーを持っているのは私ではないかもしれない」


「まさか!?」

 十手も二十手も先回りするサナレスにあって、そんなことはあるはずがないとリンフィーナは破顔した。


「いや、リンフィーナ。私がラーディオヌ一族を我が氏族と再び統合することを考え、ラーディオヌ一族に攻め入った時、私はアセスが自害しようとしたことを想像すらしていなかった」


 そうかもしれないけれどーー。

 リンフィーナは唸る。

「ジョーカーを持っているのは、アセスなの?」


 サナレスは首を振った。

「ーー違う。それならば話せばいい。とことんアセスと話せばいい」


「だったら私の中の魔女が?」


 あっ。

 やばっ。


 サナレスに自分が彼女の同居を、致し方なく受け入れていることを言ってしまった。リンフィーナは隠し事のできない性格を恥じて、眉の上を指でかいた。

 もう誤魔化せない。


 サナレスは何も言わないが、自分がソフィアに気づいていることを察知した様子で、「ソフィアでもない、彼女も犠牲者だ」とさらっと伝えた。瞬間、ソフィアが「そうだ、そうだ!」としゃしゃり出てくるのをリンフィーナは意識で押さえ付ける。


 迂闊に意識を奪わせて、サナレスと2人だけになんてするものですか。

 油断も隙もない。


 兄サナレスに関しては、いかなる女にも手厳しいリンフィーナは、少しでも出ようとする杭を、即時反応で徹底的に打つ反射神経があった。


「キシル大陸に行っただろ?」

 サナレスは直近で体験した旅のことを口にした。


「キシル大陸とイドゥス大陸は、どうやら同じこの世界の赤道直下に位置していて、表裏一体の位置関係にある」

 丸くした地図を見せてくれたのはサナレスだったので、地球儀という球体には馴染みがあった。それを思い浮かべ、リンフィーナは納得した。


「確かに兄様! 球体を貫いたら同じ位置関係」

「そこにこの世界以外、つまり異世界の文明が開ける軸があると、私は仮定している」


 顔の真ん中が疑問符になる。

 いくら長年サナレスの妹であったとしても、理解しようとして自分のつむじを人差し指でぐりぐりする。


「その緯度中央に冥府があって、歪みが極秘にされるエリアだとしたら、リンフィーナ。私たちは、時空軸の世界と常に隣接し、影響しあっているだけのいち生命かもしれない」

 聞かされた内容は、サナレスが夢見た世界観ではないようだった。


 正直、言っていることがよくわからなかった。

「兄様、ーー兄様の夢って、世界を旅する剣士? 違うかな、吟遊詩人? そんな感じだったのに、それって範囲がもっと広がったってこと?」

「平たく言えばそうだな」


「そっか」

 何かリンフィーナはすんなりと納得した。


 キシル大陸に行ってからというもの、サナレスの浮世離れがひどい。

 元々そんなきらいはあったが、今だって側に帰ってきてくれているのに、自分と向き合う以外の時間、サナレスはどこかにトリップしてしまっている。


 兄が含ませることの内容は難しく、到底理解には及ばなかったけれど、サナレスが遠く感じるのはキシル大陸に行ったことの余韻だと思えば、複雑な心境ではあったが、なんだか折り合いをつけることができて安堵してしまった。


「オートミールのホットケーキ、食べる?」

「ああ、自慢の一品らしい。いただこうか」

 サナレスは自分の頭をサナレスの胸板に引き寄せた。


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「脱冥府しても、また冥府」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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