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脱冥府しても、また冥府  作者: 一桃
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血はつながっていなくても

こんばんは。

また、書く日常が戻ってきました。


今年も多分、日記未満の徒然なるままに書くのかと自覚。


終わり、今少し見えていますが、

終わりまで書くという意気込みしか確認できず。


お付き合いいただいている方、ありがとうございます。

ラストまで書くというのは決定事項ですが、長編です。

        ※


 このところ地震という現象が頻発ひんぱつしていた。

 サナレスとリトウはある程度地層変動を予想していたらしいのだが、この現象はアルス大陸屈強の戦士であるラーディアの近衛兵達をも震撼とさせた。自然という人外の力の偉大さは、大の大人を震え上がらせるのには十分だ。


 加えて、身体を異形に変える疫病が、人の国から流行しつつあり、いち早く鎖国したラーディア一族は、この二つの天災を早くも察知し、それを遠ざけたのだろうと噂された。


「我々はダイナグラムの外に出されてしまったが、大神ジウスが健在であられるのであれば、ラーディア一族は安泰だ」

「それにしても世継ぎのサナレス殿下が、ダイナグラムに戻れないというのは、やはり寂しいことだ」

 兵士たちは休憩時間に、自分達の置かれた状況を嘆く代わりに、ラーディア一族の王族であるジウスとサナレスのことを話していた。


「あぁ猿姫」

「こっちで休憩するか?」

 サナレスと同じ王族だったが自分が横にいても大して緊張もしないらしく、彼らは日常の顔を見せてくれる。気を許した兵士たちは、彼等の日常生活の中にリンフィーナの居場所を作ってくれ、親切に手招きする。


 それは嬉しくもあり、ーー少し悲しくもある。


「殿下は今日は何をしている?」

「兄様は研究、お忙しいの」

「そうか。だったらせめて殿下に栄養あるものを届けないとなぁ」


 彼らがサナレスと自分を別個に考えるのは間違いじゃない。

 でもサナレスとの格の違いを感じる瞬間であって、リンフィーナはコンプレックスを感じて地面を見る。

 けれどサナレスは、そんな自分の気持ちを知れば一笑するに違いないから、リンフィーナは苦笑して前を向いた。

 

「あのね、地震になる前にね、少し動物達の生態系が乱れることがわかってきたでしょう? だから今度はその瞬間を狙って狩りをしてみない?」


「それいいね。たしかに地震を予兆するかのように鳥も魚も一様に同じ動きをした。それを利用するって?」

 食糧調達班隊長となぜか認められるようになってしまった自分の役割は、鎖国されたラーディア一族の外に出された民達の、文字通り食糧調達だ。


 王族とはいえ、自分は離れの水月の宮で自給自足の生活を、恩師であり養育係のラディから教わった。だから大地から食糧を調達する術について、文明社会で育った王族貴族、そして近衛兵の誰よりも熟知していた。


「それいいじゃないですか姫様! 最近肉不足が深刻化していますよ。それに魚はちょっと怖いでしょう?」

 双見という養育係の片割れであるタキは、彼女らしい神経質さで眉根を寄せた。

 魚を食べれば奇病になるという噂はアルス大陸にふれまわり、水月の宮の、つまりラギアージャの森に住まう人民は、今魚を食べることを嫌厭していた。


 皮膚が変貌し、いずれ鱗が生えて、地上では生活できなくなるらしい。


 噂話というのは、火のない所に煙は立たない。

 そういった姿の異形を、彼らが目にしたからどんどん広まっていく。

 タキはよくない可能性に敏感で、いっさいの魚を食卓から退けた。


 リンフィーナは自分とサナレスで引き取ってきた少年の姿を思い出しては、ジクリと胸を痛ませた。


 ハウデス。

 海で別れてそのままになってしまった半人半魚の少年は、今どうしていることだろう?

 タキは彼を不浄の者として差別していたが、自分は本心で可愛がっていた。


 まるで親のような気持ちになって、ハウデスを育てていたというのに、海で別れた。

 子供なのに寂しくないかな?

 海の底は暗い。

 つらい思いをしてはいないかな?


 鱗の皮膚で水掻きを持ち、水中で何時間でも呼吸できる肺とエラを持った彼は、果たして病気だったのかと問われれば、リンフィーナは違うと言いたかった。


 きっとそれは進化なのだと言いたいけれど、簡単にはそれができない。


「違う意味でね、もともと魚がダメな人(食べるという意味ならサナレス兄様)もいるのだろうけど……。最近、魚を食べるの駄目な人が増えたから、鳥を狙いましょうか? 鳥を狙うなら、弓矢をもっと作っておこうか?」

 地震や疫病で不安になる民達の、せめて先導役を引き受けなければと、リンフィーナは軽装で矢を構えた。


 世界には、各々できる役割って決まっているんだ。

 その役割を果たすことが、きっと生きるということなんだと、自分はわかっていた。


 大それたことを成す人というのは、兄サナレスやアセスのような人だ。

 大体は今いまに翻弄されて生きていくだけの小さな命の灯火で、与えられた役割を全うするのがいい。


 半年に一度、三カ月に一度、ひと月に一度と、地震が起きる頻度は高くなり、今では10日に一度の割合で発生している。

「近いうちにまた地震が発生するでしょ?」

 その前兆に動植物は何かを察知して、自分達に異変を知らせてくる瞬間がある。

「それをなんとか利用しよう」


 合理主義なところだけは、兄に似たのだと思った。

 血はつながっていないと知らされたけれどーー。


 本当の妹じゃない。

 少し悲しかったけれど、異性としてサナレスの前にいられるのなら、自分はずっとその関係性を望んできた。


 その事実が嬉しく、小躍りしてしまう反面、だったら自分が落ち着けるはずの居場所は、どこにあるのだろうう? 

 魔女の奔放さとは別に、サナレスに対して少し距離をとって接してしまいそうになるリンフィーナだった。


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「脱冥府しても、また冥府」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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