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脱冥府しても、また冥府  作者: 一桃
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甘美に味わう疲労

こんばんは。

ゆっくりと、でもそんなに間を開けず描き続けています。


まったり書くことを楽しんでいます。

お付き合いよろしくお願いします。

        ※


 その頃、サナレスはアルス大陸で奇病が流行る人の国で、遣わした使者から報告を受ける。

 廊下を走ってくる足音とあわててノックをする気配で、サナレスは少し感情を動かした。


 吉報か?

 あるいは……。


「入いれ」

「サナレス殿下!!」

 扉を開けて弾んだ声を聞いて、サナレスはスッと胸を撫で下ろした。


「成果が出始めたか?」

 報告しようとするその瞬間に言い当てられ、使者は呼吸を整え「その通りでございます!」と膝を折って頭を下げた。


「よくやった」

 まずは部下の大義を褒め称えたサナレスは、数日の疲労を噛み締めて、ソファに移動した。


「報告を聞こう。どれくらいの割合で、結成による予防効果が出てきている?」

 長かった。

 数日で水月の宮に帰りたいと思っていたが、結成から作ったワクチンの効果を疫病に罹患した何カ国かに浸透するのに、三月はかかってしまったと思う。


 診察し、罹患者から血液を採取し、免疫を調べ、民のほとんどにワクチンを注射し、その集団免疫を得るために自ら医師にふんして長い時間を過ごしてしまった。


「こんな短期間で、サナレス殿下! 殿下が開発された薬の効果が出たのです」

 短期間?

 国民全員に投与するのに、相当な時間と労力を使い、足止めされていたサナレスは吐息をついた。

「そうか、それはよかった。おまえたちが模範となって国民全員にワクチンを投与してくれたおかげだな」

 そうか、とワンテンポ置いてそれはよかったという時ほど、感情は籠らない。

 けれど時間がかかりすぎたことを愚痴るではなく、サナレスは彼らの功績を讃え感謝した。


「このような歴史的に偉大なこと、どうして殿下はラーディア一族アルス家王族の名を隠されているのですか?」

 使者は少なくとも7カ国から偉大な神と崇められ、その行いは末代まで神話になりましょうと言ってくる。

 名前を残すことへの興味はなく、サナレスは薄く笑い、「そんな腹の足しにもならないことよりも、できれば今食事したいのだが」と言った。


 寝食を忘れることを得意とするサナレスは、成果が出たと知ると脱力して、急に腹が減ってきたのだ。一定の緊張状態にいると脳の作用で消化器系は低下する。知っているからこそ消化の良いものを摂取しなければならないのだが、ここ数日、それすら忘れてしまっていた。


「こ…、これは!気がつきませんで。すぐに食事を用意して参りますっ!」

 使者が出て行って初めて、サナレスはソファに深く体を預け、だらしなく片足をあげた。


「やったか……!」

 ため息にのせた達成感で、さらに体が深くソファに沈み込む。

 少なくともアルス大陸、いやこの世界自体を飲み込もうとしているウィルスという敵に立ち向かう方法を、小さなナイフぐらいの装備でも整えられたという満足感に精も根も尽きた状態だった。

 血の気がひく頭と、急に重くなった体を支えきれず天井を見ると、視線を向けた先にはシャンデリアが吊るされていたが、ゆっくりと回って動いて見えた。


 こんな時、ああ生きているな、と生身を実感して、サナレスはいつも反省する。こうなる前に手立てを打つこともできただろうに、忘れがちだ。

「でもーー、やっと! これで帰れるのだな」


 こんな努力や我慢をした経験は初めてだったかもしれない。

 いや、若かりし頃、ラーディア一族の中で何者かになりたくて、電気を供給する仕組みを完成させた時に得た充実感に似ていて、喜びを噛み締める。

 らしくもなく嬉しく、笑いが込み上げてきて、大きく口の端をあげ、サナレスは遠のく意識でガッツポーズをしていた。


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「脱冥府しても、また冥府」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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