捨てられない日常
こんばんは。
少し久しぶりです。
書くことは楽しみ。
読んでいただける方に楽しんでもらえる文章、同時に書ければと思います。
※
サナレスさえ戻ってきてくれれば。
水月の宮に残った者の期待はたぶん膨らみすぎている。
リンフィーナはサナレスが本来望んできたことを知っていた。自由であること、それがサナレスの望みであったのに、ラーディアとラーディオヌ一族がもたらした氏族間の諍いを、サナレスに治めてほしいと思っていた。
だから自分のことを最低だと思う。
決断を委ねることは楽することで、サナレスに責任を負わすだけの行為だと気がついてからは、自分のことを情けないと首を垂れた。
サナレスにどうしてほしい?
そうじゃなくて。
リンフィーナはーーただ、サナレスが戻ってきて、顔を見たいだけなのだ。
そこにサナレスが帰ってくれば大丈夫だなどと、氏族間の問題におかしな付加価値をつけてはいけないと思った。
『その通り。それでいい』
なぜか魔女ソフィアの意見が一致して、リンフィーナはより一層複雑な気分になった。
「あなた、ね……。伝説の魔女なんでしょ? 兄様が何処にいるのか。わからないの?」
『わかっていたら、ここにはいない』
「会いたいならもっと性根入れて探しなさいよ!」
『できることなら、とうにやっている』
魔女といえど万能と言えるわけではなさそうだった。
『人探しは、精霊が得意とするものだ。私は聖霊を使役していないからな』
ふうんーー。
って、何だか重大なことを暴露されたような気になり、リンフィーナはお茶を飲んでいた指に力を入れて動作を止めた。
「聖霊……使役していないって……」
あなたは海を割って、ランシールド氏族の海底としを海上に持ち上げましたけどね。
リンフィーナはぶつぶつ呟いて過去を思い出す。
「だったらどうやって……?」
『最強の魔物の力を借りているだけだ』
リンフィーナは指先に持ったティーカップを取り落としそうになったが、震えながらもゆっくりとソーサーに茶器を置く。揺れた振動で、紅茶がソーサーに溢れたが、正直それくらいの粗相で済んでよかったと思う。
やっぱ魔女だもんね。魔物の力使ってるんだ。
最強の魔物って何?
それが明るみに出たら、私処刑確定なんですけど!
一部の魔物と契約するだけで、天道士、地道士の資格は剥奪され、極刑に処される。
地に地道士の級を上げてきたのだけれど……。
言っている場合ではない。
それどころか魔と契約したものを庇い建したり、事実を隠蔽しただけで、契約者と同様に死罪になるのがアルス大陸での法権力だった。
現代の魔女裁判ってどんな感じだろうーー?
「あのさ……、魔物との契約って反故にするわけにいかない?」
『契約なんてしていない。彼女は私の育ての親だ。低級魔物と契約している人間と同じにするな』
とソフィアは勝手に気分を害しているようだ。
魔物が育ての親、なんですね……?
リンフィーナは自分の中に宿した者の異形さに黙った。
『聖霊も魔物も似たようなもの。人外のスキルを所有すると言う点で、私には違いがわからない。聖霊は気位が高く、私には懐かない。そう言う点で、お前やサナレスは聖霊に好かれるようだ。サナレスといるときはどういうわけか水だの光だの色々な聖霊が近寄ってきたし、お前といる時は風の精霊が寄ってくるので、これは聖霊を知る上で面白い』
「面白いって言われてもね……」
『お前の周囲にいるものは割と面白い。ジウスとヨアズ、かの双子以上に、私はサナレスに興味を持った』
「だから面白いとかって……」
『サナレスとなら番になってもいい』
はぁぁぁ???
リンフィーナは机に両手をついて勢いよく立ち上がった。
「兄様は、ダメだから!!」
『どうして? おまえの意志と一致して、何度も肌を重ねている。寝ぐらも同じになり、番になる日は近いだろう』
自分の中の魔女ソフィアが、サナレスのことを気に入っていることは知っていて、2人の関係を薄々勘ぐってしまっていたのだけれど、ソフィアの口から聞かされると、想像以上に動揺する。
「私の兄様にーー!」
『手を出さないでってのは、おかしくない? 私は私の傀儡に同等に扱われるのは不本意であるが、一心同体、共存共生で生きていくのがサナレスの望みであるし、ーーあ、違うか、おまえを消すなという平和的な願いがサナレスの願いだし、ここらへんで誓わないか? 私たちの番はサナレスだと』
「はぁ?」
とっくに誓っている。サナレスに気持ちも伝えた。
『でもおまえは、優柔不断だ』
心臓がずきんと痛んだ。
「私はーー」
『おまえはサナレスと、アセスといったが? あの聖霊からも魔物からも、上級なこの世でないもの全てから愛される得体の知れないラーディオヌの王に気を取られている』
具の根も出なかった。
『おまえ自体が、私のラヴァースで肉体ではないもの。あのアセスという者に引き寄せられても致し方はないが……』
「そんなんじゃない!」
リンフィーナは即座に反応した。
「アセスに出会ったのは、私の過去、私の記憶だし、ちゃんと思い出があるからーー。そんなふうに言わないで!」
『面倒だなぁ。傀儡にも思い出にまつわる感情なんか、あるんだよなぁ』
リンフィーナは馬鹿にしないでと唇の端をひき結ぶ。
対話している魔女は自分の中にいるので、頭が変になりそうだ。
リトウ・モリが自分を人格に関わる病気だと言って、幻聴は聞こえるかだとか、やたらと心配してきたけれど、幻聴ならよかったのに。完全に会話している。
魔道とか魔女とか、信じられない世界だった。
『聖霊や呪術信じる世界にあって、魔物信じないとかあり得ない価値観だって。それって従いにくい危険なもの、過去に排除したにすぎない。私が焼かれた、あの魔女裁判ってので』
焼かれたくなかったら、サナレスを番にして、一族捨てちゃおう!
頭の中に彼女の本能が伝心した。
捨てる?
ラーディア一族の民を捨てる?
『それって、サナレスが望んでいることだ』
捨てるって、その対象がラーディアの縁もゆかりも無い貴族だというのであれば、納得できた。
でも今水月の宮にいるラーディア一族の民を捨てるなんてできない。父上であるジウス様、そしてサナレスの母であるセドリーズ様、大母ラァ様を捨てることなんて、リンフィーナにはできなかった。
「ソフィア、おまえは捨てられるの?」
『それが望みなら』
リンフィーナは苦笑した。
「おまえ……! だったらサナレス兄様は絶対におまえを選ばない」
ソフィアは激怒しているが、淡々とリンフィーナは言い切った。
「そんなに簡単にしがらみを捨てられるくらいなら、今頃サナレス兄様はここにいないし、これまで悩まれなかった。私がサナレス兄様に育てられることもなかった。ラーディア一族に光を灯すような功績だって、何も生まれなかったのよ」
サナレスが悩みながらでも決断してこられた功績は、何物にも変えがたくって尊い。
それをわからないソフィアはたぶん、サナレスを何も理解していないのだと知って、リンフィーナは自分の感情が高ぶって涙が出そうになった。
「兄様は知っている。身近にいる人の大切さ」
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「脱冥府しても、また冥府」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




