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脱冥府しても、また冥府  作者: 一桃
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帰りを待つ

こんばんは。

変わらず更新しています。

長編です。

皆様の反応が励みになるので、何でもいいので反応お願いします。



        ※


 ギロダイに勝った。

 ほわわわゎん♪

 でも納得いかない。


 真剣に勝負していたというのに、ギロダイはリンフィーナが右往左往した真剣味の半分も感じさせない気軽さで、おそらくはわざと潔く敗北宣言をして民の心を一つにまとめ上げた。


 それはたぶんラーディア一族のため。ーーいや彼の性格上一族という組織よりも、彼が敬愛するサナレスのためのこの勝負、彼の手の中で演出されたのだ。


 結果、全てがうまくいった。

 でも、やっぱり。

 何か釈然としない。


 リンフィーナはじっと自分の胸元を覗き込み、ため息をついた。


「ーー悪かったわね。幼児体型で」

 現状に納得してはいても、心の中はわだかまりでいっぱいで、リンフィーナはコンプレックスを刺激された。


 まだ成長途中なだけ。

 そのうち大きく膨らむはずと舌を向いて期待しているリンフィーナを横目に、ギロダイは容赦なく笑い出した。


「なんだ? 皇女リンフィーナ、あんた私の嫁になりたかったのか?」

 頼むなら考えてやってもいいと揶揄するように言われ、リンフィーナは全力で拒否した。

「そういうことじゃないの!」


 水月の宮にいる民の全員が、副長ギロダイの女(大人の女)として、自分では主に体格的に遜色あるようなことを言ってきたから、それが不服なんですけど!

 これでもし、自分がサナレスの女(大人の女)なのだと主張したら、民はどういう反応をするのか?


 リンフィーナは眉間に皺を寄せ、真っ逆さまに頭を下げて床を眺める。

 色気のない猿姫である自分には、相手が臣下のギロダイですら周囲から認められなかったようだ。自分が、ラーディア一族の時期総帥であるサナレスの伴侶になるだなんて言ったら、それって民はどういう反応をしてくるのだろう。


 思い悩んだ末に公衆の面前で告白したとしても、おそらく民は大笑いして、取り合わないだろう。

 ふさわしくはないと。


 王族の血縁でなければ、きっとアセスの鼻にも引っかからないちっぽけな存在であることを今更ながら思い知り、リンフィーナは脱力した。


「あのさ……。私ってよく、一回でもラーディオヌ一族に嫁ぐ話が成立したものね」

「ん? そのまな板のような四肢でってこと?」


 頭から大きな石を乗せられた気分で、真実を受け止める。

 ギロダイは屈託なく笑った。


「まぁ不吉とされる銀髪だし、目ばかりが大きい痩せた女じゃなぁ」

 さらに悪気なく落ち込ませてくれる。


「でもまぁ。ーーオートミールを持ち出してくるなんて、おおよそ貴族の皇女としては逸した才能ではある」

「えっと……」

「さすがは隊長の、ーーサナレス殿下の妹姫でございます」

 褒めてないよね?


「いやリンフィーナ。地下の食糧庫をねじ開けて、災害用の食料を用意し、レパートリーを増やしたことは立派だ。進化なら褒め讃えよう。それに結果的には私が運んできた食糧より、ここにいる民は多くのグラム数、あんたが用意したオートミールってのを口にしたってこと、事実だし、堂々と勝利を誇っていいのでは?」

「そうですわよ姫様」

 タキの後押しにナンスも、「とにかく早々に嫁に行かなくて良くなったならそれでいいんじゃない」と笑っていた。「それにアセス様と貴方は、アルス大陸の誰もが美しい夫婦人形のようだと祝福されていたんですよ」と言ってくれた。


 食糧難を打破し、サナレスの部下との婚儀が破局したのだから、これでいい。

 自分の小さい胸を見て嘆くのではなく、前を向こうと顔を上げる。


「そうね……。難は凌いだのだから、あとはサナレス兄様の帰りがいつになるのか……? それからダイナグラムがどういった状況にあるのか、それを知らないとね」

 ギロダイとタキが首肯する横で、ナンスは「それとアセス様がどうしているかも」と小さい声でつぶやいた。


「私はもともと我が総帥からラーディアの水月の宮の民が困らぬよう、アセス様から遣わされた身です。今夜にもラーディオヌ一族に帰還し、ラーディオヌ一族総帥の側近としての役目に戻ろうと思います」

「うん、ナンス。そうしてちょうだい。そしてーー」

 本心はアセスについて知らせてほしいのだけれど、リンフィーナはこの場にふさわしい言葉を選びだした。


「ラーディア一族とラーディオヌ一族は、王族アルス家の名にかけて、何があっても兄弟氏族であることを伝えてほしい」

「伝令の任を全ういたします」

 ナンスは頭を下げ、その場を辞した。


 残ったラーディアの民はしばし沈黙する。

「この度、ラーディオヌ一族がラーディアの水月の宮の民を襲撃した件については、同盟国であるからということ分けは通用しません」

「兵士以外にも、多くの民が命を落とし、その数は数えきれず、このままの関係ではいられますまい」

 リンフィーナの側にいる者以外の民は、完全にラーディオヌ一族を裏切り者の敵国だと位置付けている。


 民の大半を殺戮したのは、自分の中の魔女ソフィアで、ラーディオヌ一族の襲撃が原因ではない。

 喉元まで出掛かっている真実は、言葉にできなかった。


「兄様、サナレス殿下の帰りを待ちましょう」

 自分が元凶と今言ってしまっても、魔女ソフィアの存在を民がどれだけ認めるだろう?

 仮に自分が贖罪だと自害しても、どれ程の民が真実を認識するのだろう?


 民を説得するには権威が必要だった。

 積み重ねてきた信頼という権威が、今の民には真実必要だった。


「皇女がそう言っている。隊長の帰りを待つぐらい、我々には造作もない」

 ギロダイは近衛兵を束ねて先導していった。


 失われた多くの命は、近衛兵ーーつまりならず組だったというのに、ギロダイは数十名の兵士の心を確実に掴んでいた。

「姫様、水月の宮の従業員も、姫様と殿下さえご健在であれば、大丈夫です」

 タキが大きくうなづいている。

「姫様が殿下の帰りを待つおつもりなら、何十年、いえ何百年だって共に待つ覚悟でございます」

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「脱冥府しても、また冥府」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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