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脱冥府しても、また冥府  作者: 一桃
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しでかしたこと

こんにちは。

コメント、応援、皆様の反応が励みになります。

よろしくお願いします。

       ※

 稲光が顔面を照らし、数秒後落雷が鳴った。

「近くに落ちましたか……」

 ラーディオヌ一族のアルス邸にあって、アセスは長年役職ゆえに閉じ込められてきた執務室に篭っていた。


 あの世で体感した。多分自分がこの世界では引きこもりだと言うこと。

 王族が設えた、王が座る執務室にいることが、いつも間にか心地よくなってしまっている怠惰な自分。


 季節の変わり目がくる。

 永遠楽土の地だと言われるラーディア一族から南西に位置するラーディオヌ一族には緩やかな四季があり、夏の終わりは天候が変わりやすい。


 ナンスがラーディオヌ一族にリンフィーナを迎えて、その後ラーディア一族に彼女を送って行ったことの逐一を知らされている間、そこから見えることもないというのに、アセスはラーディオヌ一族の関所を見つめていた。

 

 会いたくて騒ぎ出しそうになる心の奥を、アセスは俯瞰し考えていた。性分として本心が表出しにくく、感情が緩やかに自分の周りに泡のように浮いてくるのを眺める。


 無理にでも、会いに行けばよかったか。

 いや。そのような執拗さは彼女を困らせるだけだ。


 ましてラーディオヌ一族は水月の宮を襲撃し、彼女にどう思われているかしれない。


 浮かぶ気持ちを逐一論理立てて潰していきながら自らの痩せ我慢を正当化し、基本的に思うのはリンフィーナの無事だった。


 彼女がこの地を訪れる時、雨が降らなくてよかったと思う。

 けれどその小さな配慮を、ピシャリと一刀両断してくる存在があった。


「呑気ですよねぇ。せっかく彼女がこちらに無防備に飛び込んでこられているのに、そのまま帰すなんて。拉致してしまえばいいでしょう? 彼女もまんざらでもないかと思いますよ」

「ーー拉致? 」

 ぽつと問い直した言葉尻とは別に、我知らず眼差しが剣呑になった。

 自分が不在の間にラーディア一族を敵として祭り上げた張本人であるヨースケに対して、言いたいことは山ほどあり、けれどそのような感情表出をしたことがないアセスは黙り込んだ。


「欲しいものを手に入れようとし、世界を想うがままにしたいのであれば、多少の窮屈さは容認しなければなりませんので」

 ヨースケは依然悪びれない。

「正式な婚姻関係を結べなくとも、拉致でもなんでも、欲しい芋娘ーー失礼、姫君を手に入れられるなら、それで問題ないと思うのですが」


 ーー芋娘。

 リンフィーナをわざとそう呼称するヨースケには悪意がある。

 全然洗練されていない。世間知らずなだけの、サナレスのまつ毛の一房に過ぎない田舎娘に何の興味があるのかと、辛辣にヨースケから言われたことを思い出した。


 言われたことは記憶の中に残っていて、でも「芋っぽい? 原石のような、そんなところが彼女のいいところです」と言うと、ヨースケは「のろけてくれるよ」とそっぽを向いた。


 長らく生きる力を停止した。

 自らを仮死状態にし、アセスは生命の旅に出てみた。そしてリンフィーナやサナレスがいるこの世に戻りたい気持ちを強く確認したのだ。


 そして戻ってきた。

 それなのに。

 この世に確かに戻ったとしても、望む魂が遠いと、異世界にいるのと同じ。


 いや。

 この世に共に生を受けるからこそ……余計に、生きた心地がしないのだろう。

『死んだ方がマシ』とはよく言ったもので、この世のしがらみに心が巻き込まれることほど辛いことはなさそうだ。


 生きて会えるのに、この世の理で会えない状況でいる方が辛いのは、『死んだ方がマシ』なのかもしれない。


「アセス様、ラーディア一族水月の宮への襲撃は失敗に終わりました。次なる標的は、天罰により焼かれたラーディア一族本陣。ラーディオヌ一族の軍の指揮は上がっております」

 誰がそのようなことを望んだというのか。

 古からくる確執は魔物のように大きく膨れ上がり、当然のように居座っていた。


 リンフィーナとサナレスがいるラーディア一族と一戦交えるくらいになるのであれば、自分がこうしてこの世に戻ってきてしまったことを嘆かなければならない。

 少なくとも自分がここに戻った意味は『死ぬよりはマシ』な状態にするべきだと確信していた。


 死を覚悟した人間は強い。

「私はお前のような武器商人が行う商売に興味はない。それなのにお前が私の留守にしたことの尻拭いで、私は忙しい」

 500近いラーディオヌ一族の兵が失われた。その家族に対し、まず相応の弁明をしなければならず、他の兵の指揮をとることだけで王族貴族の間で何度会議が開かれたことだろう。


「お前の目的はどこにあるのか……」

 アセスの率直な言葉に、ヨースケは軽く笑っていた。


「目的? そんなものありませんよ? 私はただ余生を退屈にしたくないだけなのですよ。ーー総帥様は、サナレス殿下に皇女リンフィーナを取られるのは嫌なんでしょ?」

 心臓に抉る質問をしてくる。


 息が詰まった。

 嫌だけれど、どう勝負していいのか、まるでわからなかった。


「痴情のもつれほど、私のような暇人を楽しませてくれる最上の褒美はないのですよ」

 性格の悪さに閉口する。


 結局リンフィーナに選んでもらえなければ負け確定。

 水月の宮を襲撃した時点で、自分の立場は相当最悪な存在になっていることだろう。

 ヨースケはそれすら楽しんでいるような底意地の悪い顔をしている。


 一つだけはっきりしていることはある。

「拉致のような行為で、彼女は束縛できない」

 アセスは元婚約者であるリンフィーナがラーディオヌ一族を去っていく姿を見守って送り出した。


 何度目だろう。

 無理強いできない。

 だから、何度でも見送るのだ。


「恋愛なんて、嫉妬と憎悪なんかの泥試合をしながら奪い合ってもらうのが醍醐味なんだけどねぇ」

 ヨースケはうすら笑いながら、いつものように食事を作った。


「不要だ」

 アセスは手をやってそれを拒否した。


 今にもラーディア一族と戦争が起ころうとしている時に、呑気に食べていることなどできない。火種を起こしたヨースケは残念そうに1人食事をし始めて、アセスは次の会議に向かうために執務室を後にした。

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「脱冥府しても、また冥府」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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