食べ物はつまり調味料
こんばんは。今は本当に色々と食に恵まれていますが、こうなるまでには色々な人がいろんなことを試してきたんでしょうね。そんな話になってます。
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サナレスが何があっても帰りたいと思う場所にいるリンフィーナはとても忙しかった。
兄様がいない。アセスに会えない。
そんな感傷に浸っている暇もないくらい、水月の宮は食糧難だ。
「オートミールが主食になるんだったら、あとはこの主食をどれだけ美味しく食べてもらうかってことだよね?」
リンフィーナは期待に目を輝かせて、ナンスとタキの顔を見ていた。
オートミールは昔から貴族ではない民の間で食べられてきた。
どうしてサナレスが民が常食するオートミールを備蓄し、それを自分に内緒にして食べていたのかはわからなかった。
こんな不味いものと顔をしかめるかつてのリンフィーナに対して、貴族以外の暮らしについてサナレスは何も言わなかった。「これは民が普通に食べているものなんだよ」と説教じみた兄としての言葉が聞けなかったことに、今更違和感を感じてしまう。
「どうして兄様は言わなかったのかな?」
「貴方が不味いっていうから、単に言えなかったんでしょ?」
ナンスが答えた。
「でも兄様はそういう時、はっきり言うタイプなんだけどーー」
言えなかったとか、兄さまに限ってあるだろうか?
災害用に民の食べ物を備蓄しても、リンフィーナに食べろとは言わなかった。
どこに行っても、サナレスは自分が美味しいと思うものを食べに行こうかと誘ってくれる。
「単に貴方に美味しいものだけ食べさせたかったんじゃ?」
甘やかしかもとナンスが肩をすくめると、「それが王族です」とタキは深くうなづいた。
「サナレス兄様はーー、サナレスは、少しは自分のことが特別だった?」
「はい? 全然気がついていなかったんですか? 昔からサナレス様はリンフィーナ様のこと、一番に特別扱いされていたと思いますけど」
タキは当たり前のように言ってきた。
単純に頑張ろうと思えてきた。
「兄様が自分に黙っていたなら、今度帰ってきた時にこの食材を使って、ほっぺたが落ちるほど美味しい料理を出したい!」
「悔しいんですの?」
タキは気の毒そうに子供扱いしてきたけれど、リンフィーナは違うのだと内心ほくそ笑み、嬉しいんだよとくすぐったい気持ちで微笑んでいた。
前は何でもかんでも話して欲しかったのだけれど、大事にされてきたと言う事が感じられることが特別で、嬉しい。
「とりあえず、リンフィーナ貴方は庶民が食べてるオートミールって食材を美味しく食べてきた庶民の力を借りたいってことですよね?」
ナンスは失笑して、めんどくさそうだ。
「そう思うなら舐めないでくださいね。庶民はそんな貧しい食べ物をいかに美味しく食べられるかってこと、まぁまぁ真剣に考えるんでねぇ」
アセスの側近としてのナンスはどこへやら、元庶民のナンスは本音がだだ洩れになっている。口調まですっかり出会った時に元通りだ。
「卵とミルク、それにバターでまずは甘いパンケーキを作ります。アセス様がハチミツを持たせてくれていますしね」
タキよりも先に動き始め、誰よりも手際よく動いたのはナンスだった。
「オートミールしゃもじ三杯、卵一個、ミルクはティーカップ一杯、それいいって言うまで混ぜといて」
タキに指図して、ようやくタキが動き出したぐらいだ。
「リンフィーナはバターを熱して」
「あ、火が強いですわ姫様。すぐ焦げます!!」
台所名人の2人にあれやこれやと指示を受けて、リンフィーナはそれを正確にこなしていった。
立ち所に甘い匂いが立ち込めて、卵をミルクに吸収されたオートミールが、焼かれてふっくらと膨らんでいった。
「片面はしっかり焼いて、もう片面は余熱で焼けば十分」
フライパンの上で魔法のようにくるっとひっくり返すナンスの手際に、リンフィーナは感嘆の息を漏らした。
「負けませんわ」
ナンスの横でタキが腕まくりし、ひと目見てナンスのやり方を完全に真似てしまって、同じものを作って得意げだ。
「あ、姫様は材料かき混ぜてください。火傷してもいけませんので」
自分にはすぐに誰でもできる簡単なことを割り振られた。
ーーあとハチミツをかけて、一番に食べる役割が回ってきた。
ミルクとバター、ハチミツの甘い香りにごくんと喉が鳴った。
魅惑的なハチミツの香りに口づけするように、リンフィーナはそれをフォークでついて口に入れた。
「美味しい!!」
癖のある匂いがしたオートミールの匂いがミルクとバターに包まれて癖が消えて、プチプチした食感だけが残っている。それがまた美味しく感じる。
「すごい、これ美味しい!」
歓喜する自分の横でタキも試食して、吐息をつく。
「子供騙しですわ」
え!?
美味しさに飛び跳ねそうになる自分の頭を、パシっと押さえつけられた気分だ。
ナンスはうなづいた。
「そう、これは子供を喜ばせる食べ方。子供って甘いの好きだから」
美味しいと手放しで褒めた自分の味覚はペシャンコに叩き落とされる。
「十分美味しいけれど!?」
「これいいとこ、おやつか朝食でしょう?」
「そうなんですよね。いくらタンパク質が豊富だからといって、主食として大人が食べるにはこの食べ方じゃないんですよ」
リンフィーナ様には喜んでいただいていますけど。
それ、軽くこき下ろされている気になって、リンフィーナは硬直した。
「ハチミツって甘味を使わない食べ方、他にあるの?」
タキはナンスに質問した。
「大人は酒に合うかとか考えるからね。そうすると甘いのは合わない」
「水にふやかして熱すると米みたいにもっちりするので、乾燥した味付けのりでまくとか、色々味付けできる」
「へぇ、面白いんですわね。米の代わりなんて」
「貧乏人にとって、米ってのはまぁ高級品なんですよ。金銭を払えない庶民が、貴族に支払うのが米や家畜なんですから、庶民はこういう麦や捨てられるような食材を利用して栄養を摂ってるんだ」
「わかっていますわ。貴族でも貧しい貴族は、その辺のこと心得ていますもの」
すっかりタキとナンスは意気投合していた。
少し切ない。
リンフィーナにとっては、なんだか色々知らない世界がありそうだった。
「でもね。貧しいながらも庶民は逞しくて、これらの栄養素を貴族以上に知っている。いくら口に美味しくても栄養がない物、貴族はよく口にするんだ。でも庶民はいかに安く、効率よく栄養価のいいものを体に入れるか、そして排泄するかってことまで考えてる」
リンフィーナは納得した。
「サナレス兄様はそういうの好きそう。以前も食べ物を口に入れてから体の外に出すまでにどんな効果がもたらされるかとか、調べていた。薬を作るっていっていたけれど、薬物動体だっけ? 調べていたもの。すごく好きそう……」
きっと栄養価を試して、良好と感じたから備蓄庫に入れたのだ。やっと想像がついた。
「これだけ調味料があれば、少々癖があっても美味しく主食として食べられるから、どんどん試してみよう」
ナンスの提案に、一緒に作業するうちにすっかり彼の存在を認めたタキが「そうですわね」と賛同した。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「脱冥府しても、また冥府」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




