食べられるように
こんばんは。
気のむくまま、ゆっくり書いています。
長編です。お付き合いいただける方よろしくお願いします。
順番は後書きに記載します。
※
「タキ、戻ったよ」
水月の宮に帰ったリンフィーナは、ナンスをタキに紹介し、案の定心配性なタキはナンスに不躾な視線を送りつづけた。
「聞いていませんわよ、姫様!」
言っていませんもの。
リンフィーナは苦笑しながらいそいそと調理場までの廊下を渡っていく。
「無事調味料を持って帰ってきたよ。ナンスのおかげだから、お礼を言ってね。それと総応の褒美も与えなければいけないわ」
「それは必要ないかと、私はアセーー」
リンフィーナの横でいらぬ一言を発しようとするナンスの腕をつねり上げ、リンフィーナはにっこりと笑う。
アセス様の名前を口に出すのは、タキの前で禁止。
意図を悟ってもらおうと、思い切り頬を引き攣らせて笑いながら、視線で圧を送ってみる。
「全部ナンスのおかげ。褒美をもらってね」
ナンスは不服げに下唇を尖らせていたが、少しは理解したらしくそれ以上何も言わなくなった。
先日水月の宮がラーディオヌ一族に襲撃されて以来、タキを含めた臣下達は、ラーディオヌ一族に不信感を募らせている。
不信感、ならまだマシな方だ。実際館内にも恐ろしい目にあったことをトラウマにしながら、ラーディオヌ一族を敵視するものが多く、ナンスの髪が褐色でよかったと胸を撫で下ろす。漆黒の髪とその瞳の、一眼でラーディオヌ一族の民とわかる容姿だったら、無事に館内まで連れて来られなかったかもしれない。
「タキ、ナンスにも手伝ってもらおうと思うの」
「なんですって?」
「だから2人だけじゃ、試食する人が足りないでしょ?」
自慢じゃないけれど、タキもリンフィーナも小鳥がつつくぐらいの食欲しか持ち合わせていない。特に今のような緊張状態が続いては、加工した食材を美味しいかどうか判断できるかどうかさえ自信がなかった。
「実験した鳥の餌、この人に食べさせていいんですの?」
「ーー言い方……。私たちも食べるのよ、タキ」
リンフィーナは吐息をついた。
けれど説得している暇はなく、リンフィーナはエプロンを羽織って厨房に立ち、腕まくりする。そして米などを入れるズタ袋から、オートミールを救ってボールに入れた。
「これ?」
ナンスが不思議そうに覗き込んできた。
「そう。美味しそうとは言えないよね? どうやって食べるのかな?」
リンフィーナがそう言うと、ナンスは予想に反して軽く笑った。
「これ麦だよ」
「麦?」
リンフィーナは目を丸くした。形が違うし、見たこともない。
「オーツ麦って言って麦の一種。心配しなくても下町の貧乏人の間じゃ、普通に食糧だからさ。食えるよ」
「嘘!? 兄様は特別な食糧みたいに言ってたよ」
「そりゃ王族のサナレス様にとったら特別だったんじゃない?」
「栄養価も高くてって」
「美味しくなくても、栄養価高いものってあるよ、そりゃ。庶民は時間もないからさ、これ手っ取り早く腹膨れてくれるし」
オートミールを救ったボールをショックを受けながら腹の前に抱きしめながら、リンフィーナは硬直した。
「そっかーー。特別なものじゃないんだ……」
ナンスは気の毒なものを見るような視線で、これに高級な調味料を使おうとしていたのかと笑い出す寸前の顔をしながら、斜め下を向く。
「ーー。」
言葉を無くしてしまう自分を、タキですら沈黙して見守っていた。
「姫様は王族ですもの」
知らなくて当然だと擁護してくれるがタキも貴族上がりで、2人で無知ゆえの気まずさで、調理場の床を眺めるばかりだ。
「ーーでもさ、貧富の差はあるんだけどね、主食だってことと栄養価は高いってことは間違いじゃないんだ。サナレス殿下が何を思って庶民の食べ物を口にしていたのかはわからないけど、この食材を貴族でも美味しく食べられるようにするってのは、僕は反対じゃないよ」
そうすれば今の問題、解決するんだよね?
真っ直ぐにナンスに問われて、リンフィーナとタキはうなづいた。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「脱冥府しても、また冥府」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




