主食は主張が少ないものだ
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食の恵みってのは単に飢えないこと。
光の属性は、全てを育むのに重要な呪術だとは思ったけれど、飢えないって意味は、要するにお腹一杯になればいいってことじゃない? 必要な栄養素を満遍なく体内に入れることなのだ。
呪術の属性を言われてもピンと来なかった。
このところ日々腹を満たす食糧は必要最低限ではあるが賄えていた。空腹を満たすには及第点、けれど栄養不足であることはわかっていた。
サナレスは言っていた。単に腹を満たす食事であれば、何で腹を膨らましてもいい。極端に言えば水でもいいんだ。けれど効率的に栄養を摂れているのかが問題、そう言って彼は鳥の餌ーー、もといオートミールというものを食べていた。
お腹をいっぱいにすることと、生命維持に欠かせない栄養素を摂取することは、全く別の行為である。
だからいくら肉や魚だけを食べて暮らしても、不足する栄養素はあるのだと教わっていた。『お前はあまり食べられない胃袋を甘味のものばかり口にして満たしているけどな』
そう言ってサナレスがよく笑っていたので覚えている。
「今、競争しているの」
「は?」
ナンスは合点が行かない様子だ。
「単に食糧調達に来られたんですよね? 特に調味料とか不足しているって」
「うん」
端折ってしまうとそう言うことになるけれど、それでは民は飢えるばかりだ。ただ単に何かで飢えを凌いでも、サナレスの考え方によると栄養素は絶対的に不足する。お腹いっぱい美味しいものを食べることができたとしても、栄養素と言うのは不足するのだ。その知識も学問だと、聞いたことがあった。
「栄養学って知らない? んっと栄養素を満遍なくとらないといけないって話、ラーディオヌ一族ではしたりしない?」
「? ーーしないですね。聞いたこともない」
「でもラーディオヌ一族は、漢方薬とか滋養競争にきく薬とか、取引が盛んでしょ?」
「それを栄養素というのですか?」
ちょっと違う。
リンフィーナは苦笑した。
「栄養素って私もよくわからないんだけどね、体の中に摂取して、それがどう人の体に左右するかって学問なのかな……たぶん? そもそも不老長寿なラーディア一族の貴族間で少しも注目されてはいなかったんだけど、ーーラーディオヌ一族にはそういった文化はない?」
水月の宮まで護衛として同行すると言って、馬で横をついて来るナンスは少し黙って考えていた。
「そんな学識というか文化があったら、アセス様自体があんなに我儘ーー、いえ……、偏食家ではないと思いますしーー。ラーディオヌ一族はそんなことを考えられてはいなかったのかと思います」
言われてリンフィーナは、得心がいった。
アセスはおおよそ、自らの体を大事にするタイプではない。
「でもね、貴族でも老けている人とそうじゃない人っているでしょ? 人だって老けないというか、すごく長寿な人がいるし。兄様……サナレスに言わせれば、それって栄養学を知っているかどうかだって」
「サナレス殿下ってーー。お貴族様、というか王族が老化の話なんてする!?」
ナンスは目を丸くした。その心情は理解できる。貴族はそもそも老化による死という概念がない。何を糧に生きるのかわからないほどの寿命を得て、君臨しているのだった。その頂点にいるのが王族だ。
「でもさ、老化というのは、実は貴族の間で一番恐れられていることだと思うの。それって王族でも同じで、数100年若いままだった貴族が一気に老けて寿命を感じるという実例は山ほどあるし。実際伯爵家以下の貴族は、ゆっくりではあっても相応に歳をとっていくでしょ?」
百歳で老化の兆しを感じ、二百歳で人の言う中年層の容姿を受け入れる。三百歳となればかなり貫禄のある老け方をするのが通例だ。
「それも科学だって、兄様は言ってたの。栄養素がどうのこうの。食物を体内に入れる時間なんかも関係するって。ラーディオヌではどうだった?」
神子の兄弟氏族であるラーディアとラーディオヌ一族なら、同じような世襲が残っていても不思議ではないと聞いてはみたが、ナンスはしらけた表情だ。
「そんな知識があればアセス様だって……、いやあの人はちょっと自分に無頓着すぎるから別かもしれませんけど。それが本当だったらたぶん、他の貴族だってもうちょっと関心持つと思うんですよね。最も僕はーーアルス家のことはよく知りませんし、ラーディオヌ一族貴族のことも知りません。でもサナレス殿下のように考える方は、私が知る限りいらっしゃらなかったと思う」
率直な意見にリンフィーナはうなづいた。
「うん、ナンス。兄様は究極のところ合理主義だからーー短時間で必要なものを摂食できる。つまり美味しさより栄養素を体に入れてしまえる手っ取り早さを優先したんだと思うんだけどね……。兄様もそういうところは常識人ではないから。ただーー今の水月の宮に起こっている食糧難は、兄様がそんな合理性から生み出したオートミールって食材をなんとができたら、解決すると思う。ーー本当はね、兄様がいれば、どんな感じで食べるのかとかどんどん試して欲しかったんだけれど、今ご不在でできないならーー」
「調味料を買いに来たと?」
リンフィーナはうなづいた。
「そうですねぇ。でもサナレス殿下はその食糧、調味料とかないことを想定して備蓄していたんだと思うんです」
「え?」
問い返すとナンスは吐息をついた。
「災害用だって言ってたんでしょ? てことは、調味料ではなく少し手を加えれば主食になるものなんだと、僕ーー私は思います」
ナンス!
あなたは見ていないもの、肥料にしか見えないオートミール!!
心の声を感じ取ってか、ナンスはサナレスが今まで開発してきたものを例えて言った。
「パスタだったかな? あと即席麺とかもさ、最初の評価はとても低かったでしょ? でも今は違うんだよね? 今じゃアルス大陸の庶民に大人気だろ? だからサナレス殿下が食材だって言ったものなんだったら、勝負するのもいいけどさ、もう少し楽しみにしたら?」
ナンスに言われて、どっと肩の力が抜けていきそうだった。
「そうだよね……」
何度も思うことがあった。
確かにサナレスが考え出してきたものは、たいてい世の中に普及していく。過去の事実だけで導き出せば答えは簡単だったのに、どこか頭の中で常識という概念に囚われてしまっていた。
こんな時思う。
自分は何者にもなれない。ーーと。
いや少しだけ自分を擁護するとするれば、「すぐさま何者にもなれない。」のだ。
だから今、できることをする。
「あなたのいう通りかもしれない。手を加えることはわずかにして、オートミールが主食になることを考えてみる」
リンフィーナは言った。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「脱冥府しても、また冥府」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




