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脱冥府しても、また冥府  作者: 一桃
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用意された贈り物

こんばんは。

最近小説を書くとき、ローソクの灯りで書いています。

目が悪くなるから、間接照明は付けていますが、なんとなく雰囲気が出るのでいい感じです。


お酒をプラスしたい所ですが、平日はそうそう飲んでばかりもいられませんし、炭酸水で我慢です。

長編で、まだまだ続きます。


お付き合いよろしくお願いします。

      ※


 ラーディオヌ一族の地が近づくにつれて、心臓がうるさかった。

 うるさい心臓を掴もうと胸元を衣服ごとぎゅっと握る。


 もう、サナレスだと決めたのに、アセスの半径何十キロメートル圏内に近づくと、自分の心臓の騒音は自分の理性を完全無視して激しかった。

「ごめん。ルージェ……。おまえはアイリかな? 私おまえみたいに一途じゃないみたい」


 未だアセスに未練があると思い知らされる。

 こんなにもラーディア一族が大変な時に、自分の心は私的な感情で揺り動かされていて、リンフィーナは自らの心をしっかり掴もうと必死だった。


 アセスには会わない。

 アセスに会いに来たんじゃないんだって。


 斜め下を見て気持ちを飲み込む。

「皇女! 姫様! ーーリンフィーナ!!」

 待ち合わせの場所でぼうっとしていると、いつの間にかフードを目深に被ったナンスが出迎えていた。


「ーーあ、ごめんなさいーー」

「ーー大丈夫?」

 関係性ゆえにぎこちなく、リンフィーナはナンスと再会した。


「ーーラーディオヌ一族も警戒体制が強まっているから、その目立つ馬はこの辺に繋いでおいて」

 ナンスは隠密行動を取りたいのだろう、別の馬を一頭引き連れてきている。


 リンフィーナはサナレスの愛馬に言い聞かせた。

 ごめん、私はサナレスの馬、おまえに負けている。


「この子は繋がなくても大丈夫。待ちたい時は待つし、待たない時は自分の行くところわかってるから」

 サナレスの所に行きたいのだ。


 ナンスは軽くうなづいて、彼自身が連れてきた馬にうつるようにリンフィーナを促した。

「アセス様に話してる」

「え?」

「貴方が来ることをアセス様に話している」

 心臓が飛び跳ねた。


「最近ラーディオヌの夜市も店を閉めているところが多いんだ。だからあなたの必要だというものは全部、アセス様に話さないと手に入れられなかったんだよ。ちゃんとアセス様に許可をとっているから心配しないで」

「アセスーー総帥様には言わないでって……」

 ナンスは苦笑した。


「言わなければ調達できなかったんだって。ーーそれにあなたに頼まれる前から、アセス様に水月の宮に食料を含め、色々な物資を届けろと言われていた。簡単に言うけどどうやって? と考えあぐねていたんだけど、貴方の方からやってきてくれた」

 ナンスは着いてくるように言い、キドライン郊外にリンフィーナを案内した。


「アセス様は今、自由に動けない状態です」

「うん……」

「だからこちらには来られません」

 ホッとすると同時に、とてつもなく寂しいと思ってしまった。


「アセス様はラーディア一族のダイナグラムが鎖国した時に、なるべく貴方達兄妹の力になれるようにと、アセス様の権限でこちらに物資を揃えました。けれどそんな用意をする時間はほとんどなくて、とても僅かであることを恥じておられました」

「僅かって……」

 確かに人目につかないよう、量の少ないものを選別しているように思えた。それでも十分な量である。

 リンフィーナが欲しい高価な調味料や、即座に役立ちそうなものを選定してくれている。


 アセスはなかなか冥府から戻らなかった。

 もう二度と戻らないのかと思うほど、現世を離れて意識がなかったのだ。


 奇跡的に目覚めてから他に政務も忙しかっただろう。覚醒したアセスが時間を割いて用意してくれた物資を見て、リンフィーナはその気遣いに息が詰まった。


 どうしてこんなに自分がアセスを好きなのか。

 思い知る。


 なぜサナレス兄様が、アセスを自分の相手に選んだのか、それも理解した。

 涙が出た。

 自分とサナレスが選んだ相手は、どこまでも純粋で、綺麗だった。


 アセスは一度魔道に落ちたと言った。でもそんな彼自身を彼は殺してしまったのかもしれない。再生して、今のアセスでいてくれるのだ。


「ーーナンス、アセスは捕らえられたままラーディア一族に滞在して、それで帰ってすぐ、これだけの物資を用意したんだよね?」

「ーーアセス様にとって、貴方達兄妹は特別な存在なので、ーーしごく当然のことをなされたんだと思います」


 あの人、ほんと寂しい人だから。

 ナンスがポロっと燃やした心の呟きは、更にリンフィーナの胸を詰まらせた。


「ーーうん。今わかった」

 アセスという人をわかっていたつもりだったが、今その優しさを実感していた。


 代金を支払うと言ったけれど、そんなものを貰えばナンスがアセスに怒られると、押し問答の末に受け取ってもらえなかった。

「アセス様は本当はこうして集めた物資をラーディア一族にーー、リンフィーナ、貴方に届けたかったのです。でも叶わなかったから、こうして自ら取りに来ていただいただけで、ーー頼られただけで喜んでいらっしゃいます」


 リンフィーナは自分が持ち帰れるだけの物資、ーー主に調味料を厳選しながら、アセスに感謝する。


「ごめん。お礼は改めて正式にさせてもらう。今はとても急いでいるの」

 水月の宮にいる民に食料を供給しなければならない。

 それにこうして宮を離れている間に、サナレスが帰ってくるかもしれないのだ。


 アセスに会いたいという気持ちにはひとまず蓋をして、リンフィーナは馬の背に持てる限りの荷を積んでいった。

「まさか一人で来るなんてね。危ないから、帰りは僕も送って行く。こっちの馬にもう少し荷を積んだらいいよ」

 ナンスは相変わらず貴方って人は、と言いながら荷造りを手伝ってくれた。

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「脱冥府しても、また冥府」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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