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脱冥府しても、また冥府  作者: 一桃
3/84

サブタイトルつけていこうかーー? つけるなら、今までは序章

年末からペースを落とし、それでもまた続けていきます。

お付き合いいただいている方、ありがとうございます。

        ※


 目を覚ます。

 寝心地が悪いと双方向に手指を這わしてみるが、昨日まで寝床にいた兄の体温を感じることができない。


「サナレス兄様……」

 寝相が良いとは言えない自分の頭は、兄の腕枕というちょうどいい高さの枕に頭を乗せられず、しがみついて四肢をからみつかせる相手がいなくなっていることに気がついて、夜が白み始める前から目を覚ました。


 半眼で当たりの明るさを感じながらひたすら触覚でサナレスを探したが、やはり温もりが側にない。

 そう感じた時、リンフィーナは寝台から上半身を無理やり起こし、ボサボサの頭で目を擦った。


「兄様……?」


 ラーディア一族が鎖国してからというもの、サナレスは目覚めるその時には必ず自分の側にいてくれた。いや、正しくはサナレスが自分のそばを離れなくなったのは、アセスの分身であるラバースが消えて自分が正気を手放してしまいそうになってからだ。


 どうして居ない?

 理由を考え、昨日アセスが息を吹き返したことに関連するのかと思考を巡らした時、リンフィーナは寝台から飛び起きた。


「兄様! サナレス!!」

 四方八方を振り返って兄の姿を探すが、部屋の中にサナレスを確かめられず、リンフィーナは水月の宮の中で兄の姿を捜し回った。


 そして臣下に出会う度、「兄様は? 殿下を見なかった?」と問いかけてまわる。そうしている時間が長引けば長引くほど、リンフィーナは不安になっていった。


 サナレスは、アセスが生還したことで、ーーもう自分にとって彼が必要なくなったと考えてはいないか?

 以前自分がアセスと婚約したその時のように、自分とアセスから離れていってしまわないか?


 いやな予感が頭をもたげ、廊下を走る足は急ぎ、呼吸が荒くなった。


 アセスが生還してきてくれたことは嬉しい。そして昨日あったことが夢でなければ、アセスは自分のことを見捨ててはおらず、綿菓子のように甘い言葉をくれた。


 未だ振られてはいない。

 アセスは自分に絶望していないとわかっただけで、胸の奥から湧き上がるくすぐったい気持ちは、リンフィーナの中でずっと弾んだままだ。

 バカみたいに浮かれて、希望をつないでしまっている。


「これが未練ってやつ……」

 リンフィーナは昨日耳に囁かれた甘い言葉を反芻しないよう、耳を塞ぎ、ぶんぶんと頭を振った。


「ううう……違う……、私はーー」

 自分の気持ちを整理しようとするが、混乱して顔面を手のひらで覆いうずくまってしまう。

 不甲斐ないよ……。


「サナレス兄様!」


 どこにも行かないで。

 消えないで。

 ずっと側にいて。


 狂おしいほどの感情は自分の気持ちと、そして自分の中にいる彼女(魔女ソフィア)の気持ちが相乗効果になって、息がつまりそうになった。探さないとと立ち上がる。


 あらゆる場所にサナレスの姿を探し、リンフィーナは泣きたくなった。

 それなのに涙を流す前にお腹が鳴った。


「なんだろ? いい匂い??」

 ガーリックを痛めた匂いと、それに混じる香ばしい豆の匂いに引き寄せられ、自分のお腹がぺたんこであることに足を止めた。


 鼻の頭がひくひくと動き、無視できない食欲に唾液が分泌される。

 匂いの先は水月の宮の台所に続き、一階のいつも朝食をとっていた食卓に導かれた。


 ラーディア一族が鎖国し、兵士たちと共に食事をとっていたリンフィーナに、一階でのこじんまりとした食卓は懐かしかった。

 水月の宮を離れ、その部屋は閉ざされたままになっていて、まさかそこから再びいい匂いや温もりを感じる日が来るなんてと、恐るおそる先に進んだ。


 観音開きの扉を久しぶりに開き、匂いの元を訪ねてみる。

 そこに期待させる飲み物のーー焙煎されたコーヒーの匂いが、アセスの存在を感じさせる。


 そしてサナレス。

 ここに居た!

 居てくれた!


 自分の心配をよそに、サナレスは昨夜の飲酒を薄めるため、浅く入れた紅茶を飲んでまったりとしていた。


 二つの飲み物の匂いと、自分が好きなパスタの匂いが相まって引き寄せられ、気がつくと彼らに近づいていた。


「おはよう、リンフィーナ」

「おはようございます」


 まるで戻したい時を一瞬だけでも巻き戻したかのように平和で、夢の続きかもと目を擦る。


「兄様? アセスーー!?」

 幸福な絵面を切り取ったものが眩しくて、リンフィーナは目を細めた。


偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

シリーズの8作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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