馬の名は?
こんばんは。
過去作品を見直しながら、まったりと夜の時間を過ごしております。
反応が励みになります。何卒よろしくお願いします。
長編なので後書きにはシリーズ情報を載せておきます。
※
どうよ。
辺り一面、赤い炎が王都を焼いていた光景は、ものの数分後には完全に鎮火していた。
ヒュー、と口笛を吹くギロダイは相変わらずこちらを見下ろしていたが、眺めてくる視線は先ほどのものと質を異にしていた。
少しだけ得意げになり、ふんぞり返ってみるが、ジルダーラが悔しさまぎれに『おのれ、おのれ、おのれ〜!』と役割を終えた撤収後は憤怒に息巻いていたので、リンフィーナはその実生きた心地がしなかった。
風の精霊長といえば、精霊の中でもかなり 高位の存在で、彼女ーーいや、彼かな?を怒らせたツケはそのうち帰ってくるような気がして、心底疲れた。
けれど、「成せば、なる」。
目の前の炎は鎮火できたのだ、ダイナグラムが燃え落ちずにいてくれたこと、それができた自分を少しだけ誇らしく思って、煤だらけになった頬が紅潮していた。
「これでサナレス殿下も一安心だ」
ギロダイの一言が何よりの気付け薬だ。
「これからどうする? 総帥ジウスに会いに行くのか?」
リンフィーナは頭を横に振った。
目的はダイナグラムの炎を消すことで、それが達成できたのだから、自分は水月の宮に帰る。そして会うべき相手は別にいた。
会うべき、なんてそれは義務ではない。単に会いたい、そして会って無事を確かめたい相手が、ラーディオヌ一族の総帥アセスなのだ。
「本国の王都の無事が確認できたのだから、サナレス不在の今、私がすべきことは隣国の様子を把握すること。水月の宮に戻ります。水月の宮における地震の被害についても確認したい」
そんなふうに口に出す言葉は立場でがんじがらめで、本心に蓋をしている。
今知りたいのは、アセスの無事、そしてサナレスの消息と、単に水月の宮に起こった被害だけで、自分はなんて利己的なんだろうと嘆息する。
自分の気持ちを知ってか知らずか、ギロダイが横に馬を引いてきた。
「貴女の意志に従いますよ。私も、ーーサナレスの愛馬もね」
そこにいたのは、兄にしか懐かなかった豊かな漆黒の立て髪のフリージアンホースだ。
「なんでおまえ……、ここにいるの? 兄様の側にいるのがおまえでしょう?」
その姿を目にして、思わず涙腺が緩みそうになって、その頬に頭を寄せると静かな瞳がこちらを捉えていた。
「こいつも私もね。殿下にしか使える気はないんでね。ーーでも、貴方を見守ることが殿下の仰せだったから、今ここに居るんですよ」
言葉を聞いてリンフィーナは苦笑を漏らした。
それってさ、さっきの精霊ジルダーラと全く同じ立場だということだ。方や風の精霊長ジルダーラはアセスのために、そして兄の愛馬と腹心はサナレスのために、自分の側にいてくれるということだ。
どこまでいっても、私は2人の庇護の元にいるということだ。
リンフィーナは自主独立できずに居る自分をなんとも言われない疲労感で感じ取り、同時に胸が熱くなるほど2人の存在に感謝していた。
ねぇ、兄様。
アセスと兄様には、私一生分の恩義があるね。
サナレスとは巡り合わせで妹として育てられ、アセスとはたまたま出会って恋人になり、そしてその後ずっと力になってくれる2人の存在があまりにも大きく、ありがたい。
「兄様はおまえの名前教えてくれないんだけど、おまえにも名前あるの?」
愛馬であるフリージアンホースに鼻先を寄せ、リンフィーナが聞いてみると、彼(彼女)は嫌そうにそっぽを向いた。
また女の名前かしら。
複雑な気持ちで、リンフィーナはサナレスの愛馬の頬を撫でた。
ぶるぶると首を後ろに振って、彼(彼女)は背中に乗ることを許容してくれたようで、リンフィーナはギロダイと共に背中に跨った。その瞬間、彼(彼女)は風のように駆けていった。
「ギロダイ、貴方が重いみたい」
心の中の文句を愛馬から聞き取りながら、リンフィーナは斜め上にサナレスの臣下を見て、そうして彼の体の具合を慮って、吐息をついた。こんな傷だらけになっても、兄を慕う臣下が居る。到底兄の代わりはできない。だから早く帰ってきてほしいと願ってしまった。
偽りの神々シリーズ紹介
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
「脱冥府しても、また冥府」
シリーズの9作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー




