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脱冥府しても、また冥府  作者: 一桃
15/84

代理だからって出来ることできない事がある

こんばんは。

変わらずほちほち書いています。


オタクシリーズの続きもそのうちノリで書きますが、あれ基本的に職場に昼休憩に更新していて、今仕事がテレだとか、テレ明けでめちゃハードだとかで、なかなかどうして昼のテンションを維持できません。


魔女裁判後からこっち、応援してくれている方ありがとうございます。


        ※


 2度目に感じた。

 ラーディア一族は自分にとって大切な故郷だということ。


 1度目はサナレスが不在の時にラーディア一族を追われる形になって、仕方がなく一族を離れた。あのとき後ろ髪を引かれる不思議な感覚。

 2度目は今だ。鎖国され戻れない故郷が、王都であるのに今目の前で燃えている。水路が張り巡らされた平和の象徴である王都ダイナグラムに火の手が上がり、ラーディア神殿は炎に包まれている。


 こんなのは耐えられなくて、リンフィーナは早馬を飛ばしていた。

 自分に故郷という概念なんてないと思っていたのに、ダイナグラムが燃えているのを見て、矢も盾もたまらず走り出していた。


 走って行っても、ジウスが結界を破ってくれない限り、自分は軒先でシャットアウトされるだけだったが、ダイナグラムが燃えてしまっては、サナレスと自分の故郷がなくなってしまうような気分になった。


 はやる心のまま、ジウスが張る結界のそばまで駆けていた。

 馬を降りて、ダイナグラムを守る繭に触れると、案の定小さな痺れがあって撥ね付けられた。


 以前あった地震の余波とは違い、ダイナグラムに火の粉は大きく降り掛かり、燃え広がっっているように見えた。

 もう一度結界に手を触れても、パチンと弾かれて痛みが走る。


 一族の大惨事に戻れない自分は、やはり一族から拒絶された忌み嫌われる銀色の娘なのかと、弾かれた手を胸に寄せた。


 こんな感じ、慣れている。

 疎外感はずっと感じてきたものだ。


 無力感に打ちのめされている時、自分の中から失笑が漏れた。

『お前は、それで諦めるの?』

 魔女ソフィアの声だった。


「だって入れないもの。サナレス兄様がいないラーディア一族は、私なんて厄介者扱いしかしていないもの!」

 感情を逆撫でされて、リンフィーナは心の中の声のまま、ソフィアに向かって泣き言を叫んでしまう。


 地の底で嘲笑するようにしてソフィアは言った。

『もとよりーー、人に必要とされるのが当たり前だという考えだから、お前は落ち込み、動揺している』

 その声はどこまでも感情を感じ取れず、冷たい。

『人なんてエゴの塊で、本当に人が人を必要とすることなんてありはしない。例えその場で人が人を必要だと言ったところで、それは無心ではなく、何かしら思惑があるのだ』


 それは魔女ソフィアというよりも、1人の少女の口から紡がれた苦言に思えた。

 リンフィーナは、ぐっと拳を固め、弾かれた結界に再び手を伸ばす。

 バチバチと衝撃が走って痛みを感じたが、怯まない。


「違うよ」

 その手をまっすぐにダイナグラムに伸ばしていた。


「違う! 人がエゴの塊っていうのは否定しないけど、エゴがあるから全てが成立するんじゃない!? だから人なんだし、優しくもなれる」

 私はーー、故郷ダイナグラムを失いたくない。


 弾かれても二の腕が痛んでも、結界の中に入ろうという気構えで立ち向かう。

 それがエゴだとしても、ダイナグラムと共に想起される記憶は、サナレスが自分を妹として迎え入れてくれた、何物にも変え難いものだ。あの場所を失いたくない。


 せめてサナレスが不在の今、自分が王都を守りたかった。


        ※

 思いとは裏腹に、事態は一向に変化なかった。


 閉じられた結界に必死で手を伸ばしながら、無惨にも数刻が過ぎていく。

 手指が痺れ、感覚をなくす。

 振り上げる腕すら重い。


 どうして私は生まれ育ったラーディア一族から、こんなにも拒絶されるのかと、何度となくジウスが張った結界に阻まれて、メンタルが壊れていく。


 痛い、痛いーー!

「ほんっと痛いんだってば」

 

 痛みに臆するなら、近寄ることすら叶わないその扉を、それでもリンフィーナは叩き続ける。

 手が痛いし、ーー心が痛い。


「ーーなんで、いつも私はラーディア一族に……?」

 拒まれるのか。


 好きで銀髪に生まれたわけじゃないのに!


 心の中に発した言葉は、しばし静観していた魔女ソフィアに何かしらに共感されることがあったのだろうか。

 『だったらこの結界、私が力づくで破ってやろうか』と毒づく言葉がつむがれた。


『お前が望むなら、ジウスごときの結界、私が破ってやろう』

 おそらく自分の中に眠る魔女ソフィアは本気なのだ。海を二つに割って持ち上げるぐらいのことを造作なくやってのけるソフィアの力は疑いようもなく、少しーーいやかなり脅威に感じている。


「要らない」

『お前の無謀な行動で、私も手に痛みを感じているのだけれどね』

 迷惑を被っていると、勝手に自分の体に住み着いたと言うのに魔女は、言いたい放題だ。


『お前の声は届かない。ーージウスはお前が思うほど、寛大ではない』

 ジウスを知っている発言をされ、リンフィーナはへこたれそうになる。でもそれが自分に課したハードルだという自覚がある。


 ひたすらジウスの結界が解かれることを祈る。

 そう、自分のことで傷ついている場合じゃない。


「ーー私なんてどうでもいいよ。でもジウス様! 兄様は違うでしょ!? サナレス兄様は、ラーディア一族にとって絶対に必要な人だし。この難局でアルス大陸を統括するには、サナレス兄様の力が必要なはずでしょう? ねぇ、ジウス様お願い!!」

 言葉にしなければ伝わらないことを、リンフィーナは極力はっきりと口にして、伝えようとした。


 ジウスは大神だ。実際ジウスを目にしたら、眩しくて怖くて、俯いて平伏すのですらやっとだったのだけれど、言ってやる。

「サナレス兄様のことまで拒絶するなら、ジウス様はひどい!!」


 思い出す。

 銀色の髪の皇女の自分はラーディア一族の異端児で、コンプレックスを感じて長らく別宮に引き篭もってきた。


 世間から非難されるのが恐ろしく、水月の宮は何不自由なく引きこもらせてくれる聖域だった。たぶん、皇族の誰もが、銀の髪の厄介者それを容認していたのだと思う。


 サナレスだけが「私はお前のことを恥じることは一片もない」と言ってくれ、私の妹として顔を上げろと公然の場に連れ出してくれた。


 あの瞬間をずっと自分は覚えている。胸が熱くなった。

 だからジウスに対しても、決して臆しない。


「ジウス様は、どれだけサナレス兄様がラーディア一族に尽くしてきたのかご存知のはずでしょう? 兄様が守ってきたダイナグラムを壊さないで!! 兄様と話し合う機会を持ってほしい。ジウス様がそんなだとーーこれまで自分を犠牲にしてまで頑張ってきた、サナレスがかわいそう……。」


 サナレスはただ与えられた責務を全うしてきたと思う。自分という、銀髪の髪の子育てだって放り出さず、やり遂げた。最近まで妹だと出自を隠して、守ってくれていた。


「ジウス様!」

 私の声は、とても小さい。けれど、その声を魔女ソフィアが増幅した。


「ジウス様!!」

『ジウス、私の声も無視するのか!?』


 魔女ソフィアは、能力を使わなかった。

 ただ私と一緒に、大神ジウスに言葉を発しただけだった。


 力の違いなのか、ジウスの意志なのか、そうして魔女ソフィアの声はジウスに届いた。

 言葉すら聞けなかったけれど、空気が歪み、ジウスが片眉を上げたような気配が伝わる。


『久しぶりだなジウス。私がずっと一緒にいたおまえの兄であるヨアズの話でも聞かしてやるから、私を結界の中に入れろ。それともお前も私を不吉だと側に寄せ付けなくなったか?』


 リンフィーナの声はジウスの耳に届かない。

 でもソフィアは、自分の体、自分の声帯を使って、自信を持ってジウスに語りかけていた。


『さっさとしろ』

 急かす口調で。

 彼女は自分を結界の中に入いる機会をつくって、消えた。


        ※


「驚いたな、一体何をやったんだ?」

「誰!?」

 誰何して振り向くと、そこに思いもしない人の姿があった。近衛兵隊長ギロダイ、サナレスが最も信頼し、側においていた人だ。


「ギロダイ、貴方はいったいここで何をしているの!?」

「隊長の任務で妹姫様から目を離すなと言われております」

「水月の宮が大変なこんな時に?」

 非難する口調になって問いかけたが、ギロダイはあっさりと言ってのけた。


「ナオズの谷に落ちてしまい未だ万全とは言えませんからね、力仕事はできないんですが、殿下からあなたの警護をおおせつかった。なので後を着いてきた次第です」

 でもいったいあなた何をしたのかと感嘆の声を発するギロダイを側に、ジウスの結界が解かれて、自分達はダイナグラムの中に入っていた。


「今の声、姫様の甲高い声とは違ったよなぁ?」

 甲高いとは余計な一言だったが、ギロダイは自分の中のソフィアを別人格として認識したようで、彼女の交渉によってダイナグラムの結界が解かれたことを察知していた。


「サナレス殿下が呼びかけても、解かれなかった結界が、なんでこんなに急に解かれたんだ?」

 率直に不可解さを口に乗せ、眉根を寄せる。


「でもこれで、水月の宮の水不足は解消するかもしれない」

 リンフィーナはところどころ燃えているとはいえ、万全の水路を確保しているダイナグラムに入って、ほっと胸を撫で下ろした。


「地震が起こり、食べ物も万全じゃない上に、湖の水が枯れた。兄様が不在の今、もうジウス様に頼らないと私は兄様の大切な兵士たちを守れない」

 ギロダイがこっちをじっと見つめている。


「姫様らしい考え方だがな。そんな他人頼りじゃ隊長ーーサナレス殿下の留守は守れないと思うぞ。近衛兵隊長の代理ってのはそんなんで務まるのか?」

 遠慮ない物言いでジウスに頼ろうとした自分を批判され、リンフィーナは唇を噛んでいた。


 だって私はサナレスの妹だと言っても、正当なラーディア一族の皇女ではないし、兄様の代わりになんて絶対になれないこと、自分が一番よくわかっている。人力も能力もサナレスとは桁が違う。


 俯いて見つめるダイナグラムの地は、石材がひび割れ、そこに地割れによって流れ出したのか土砂が混じって汚れている。水は所々、燃え出した炎をうつして赤くなり、汚く汚れた地は赤みを帯びてさらに荒地のように見えた。


 兄様が悲しむ。

 綺麗好きのサナレスは、ダイナグラムがこんなふうに汚されて、きっと心を痛めるだろう。今まで生きてきた人生の幾らかをダイナグラムに注いできた兄の落胆した顔なんて見たくなかった。


「そうだね。ーーほんとにそう。ギロダイの言う通りだ」

 ここに居ないサナレスの代わりに、ダイナグラムをなんとかしたい。


 例え今の自分が、惨めで弱いままの自分でしかないとしても。

 生誕祭の日、ジウスの前で堂々としていろと手をを引いて、サナレスが認めてくれた自分は、その期待を裏切ることがあってはならない。


「でも! やけくそ!! 自信なんてないんだからね。ーーでも兄様がいないなら、私がラーディア一族や近衛兵を護らないといけないのはわかってる!! やけくそよ、やけくそ!」

 唇を噛むのをやめ、歯を食いしばる。


 水月の宮には傷ついた兵士がいて、水がなく、食料も足りない。

 ダイナグラムに鎖国なんてさせている場合ではない。一刻も早く王都の炎を消して、救助に戻るようにしなければ。

偽りの神々シリーズ紹介

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

「脱冥府しても、また冥府」

シリーズの9作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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