第18話 妖狐
夜になると福珍と Mk-IIを名乗る里華とが、高級宿屋に宿泊。
部屋に案内され、ベッドに横たわる里華が呟く。
「さあて…どうしたものかしらね?」
「ううう…折角のイケメン三兄弟なのに…」
凹む福珍。だが、そんな福珍の事などお構い無しに里華は話を進める。
「勝手に諦めてるんじゃないわよ?イケメン三兄弟との合体は私の助力で必ず成功させるんだからね!」
「無理ですよ、里華様!ちゃんと話を聞いてたんですか!?妖狐の 禧姫様が関わってるんですよ!?仙界では絶っっっっっ対に関わる事がタブーとされてる、あの禧姫様が!」
里華と福珍が茶屋の情報収集にて得た情報。それはイケメン三兄弟が一人の女性を巡って争っているとのこと。
その争いの火種となっている女性こそ、妖狐の禧姫。仙界にて傾城傾国の美女と謳われた仙女である。
同じ仙女である福珍とて、おいそれと話しかけられる立場には無い。美貌のみならず、仙人としての格も大きく違うからだ。
「禧姫様は仙界一の美貌を持つ傾城傾国の美女と謳われた御方!でも、その美しさだけでは無く、性格の悪さでも仙界一とも謳われてるんです!自分を巡る男達の争いが何よりも大好物で、多くの仙人が禧姫様を巡って争い、命を落としているんですよ!?今回も人間界へとわざわざ足を運び、イケメン三兄弟を争わせて楽しんでいるんです!そんな禧姫様のお楽しみを邪魔する様なことをしたら、我々の命だって危ないんですからね!」
「ふーん。仙界一の傾城傾国の美女ねぇ。んで?仙界ってところには、何人の仙人が住んでるのよ?」
「え?仙人の人口ですか?詳しくは分かりませんが…恐らくは五千人以上はいるかと…」
「その程度の人口の中で一番だからって傾城傾国の美女を名乗ってるの?はあ〜〜〜馬鹿らしい!数億いる人類の中で傾城傾国と謳われた、本物の美女の顔を見せ付けてあげたいわね!」
「ちょ、ちょっと待って下さい、里華様!何、対抗意識を燃やしてるんですか!?絶っっっっっ対に関わっちゃいけないって念を押しましたよね!?」
「井の中の蛙に大海を教えてあげるだけよ?大したことじゃあ無いわ」
「大したこと、あるんですよ、それが!禧姫様は美しさと性格の悪さで有名ですが、戦闘力も仙界で十指に入る程の実力者!たとえ里華様が鉄山靠の使い手でも、敵う相手じゃ無いんですからね!」
「別に争うつもりは無いわよ?美女を自負している並の女に、本物の美女が挨拶するってだけなんだから」
「それが喧嘩を売ってるって言うんですよ!一体何しに行くつもりですか!?争わせている三兄弟がもし里華様に好意を抱いたら…間違い無く、惨殺されますよ!?」
「大丈夫、大丈夫!もし私に物理的にちょっかい出して来たら、美しさで負けてるって認めた事になるからね。本当に傾城傾国の美女だって自覚してるなら、おいそれとは手を出してこないはずよ」
「そんなマトモな対応するレベルじゃ無いんですよ、あの禧姫様は!本当に何をするか分かったモノじゃないからこそ、性格が最悪だって話なんです!」
「そこまで言われると、流石に怖いもの見たさで逢ってみたくなるわね」
「うわっ!駄目だ!藪蛇だ!里華様が惨殺されたら、私の命だって危ういのに!それにイケメンとの合体だって不可能になるし…」
「うるさいわね。ちょっと挨拶するだけよ。まあ、それでも問題あるなら望遠鏡で偵察してからでも…」
「そんなモノ使ったら、すぐにバレますよ!相手は人間では無く、仙女なんですから!遠目での視線を感じたら仙術で視線の先に落雷をボーン!!!って事になるに決まってます!」
「え?そんなにヤバい奴なの?その禧姫ってのは?」
「だから何度もそう、言ってるじゃないですか!本当に!絶っっっっぅ対に!関わっちゃいけない悪女なんですよ!」
「なら避雷針を用意して…」
「もーやだ!お願いですから逃げましょう!下手にこちらの存在が明るみになったら、興味本位でちょっかい出してくるかもしれないんですから!」
「…何で私が逢ったこともない女を相手に、尻尾を巻いて逃げ出さなくちゃいけないのよ?」
「逢ったら逢ったで、逃げ出すこともできないじゃないですか!禧姫様の事なんか忘れて、他の場所でイケメンを探しましょう!うん、そうしましょう!」
「イケメン三兄弟…董松、董竹、董梅だったかしら?逢うの楽しみねー♪」
「……」
何を言っても無駄。それを理解した福珍はベッドに潜って不貞寝するのであった。




