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キッズルームメモリー  作者: 千桑千牧
アサリ視点
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キッズルームメモリー:アサリ視点


 

 ――マツリ。

 目の前の少女に話しかける。彼女は振り返りもしない。


「マツリ……!」


 小さな背中へ手を伸ばした。けれど、その手は届かない。今ここで、あの子を引き止めなければいけない――あの子が、私の妹が、死んでしまう。


「……ちがう、殺したんだ……。殺した……。誰が……誰が……?」


 目の前が暗くなり、少女の姿も見えなくなる。それもつかの間、次に視界がひらけた瞬間、目の前には横たわる少女の遺体があった。


「まつ……り……」



 ハッと飛び起き、辺りを見回す。視界がぼやけている。ここは曖昧な色の部屋の中。それだけは分かる。自分の顔に手を当て、ひたひたと手探りで自分が自分である事を確かめる。長い前髪が顔にかかっている。輪郭は……よく分からない。その中で、眼鏡のツルに触れた。どうやら額の上に持ち上げられている。それを眼の前に下ろすと、ようやくこの部屋の風景をハッキリと認識できた。


「……子供部屋……?」


 それなりの広さの部屋には、子供の遊具や玩具が置かれている。そして近くにいた二人の人間が私を見つめていた。


「あんた大丈夫?うなされてたけど」

「……大丈夫。……昔の、記憶を見ていたの」


 話しかけてきたのは二十代かそこらの細身の女性。黒髪で化粧っ気もなく、どちらかといえば地味な見た目をしている。もう一人は短髪で背が高く筋肉も程々にある、いかにも体育会系というような男。その見た目の割には繊細というか神経質そうな雰囲気で、こちらを警戒しているようにも見える。


「う……」


 小さな声が聞こえて横を見ると、小柄な赤毛の少女が横たわっていた。少女は今まさに目が覚めた、というようで、ゆっくり起き上がって周りを見回し始める。その視線はやがて私とかち合った。


「ねえねえ、ここどこ?君たち誰?何か知ってる?」

「……知らないわ。私もどうしてここに居るのか……」


 他の二人に視線を送ってみても、答えは出てこない。私を含めた四人が、誰も何も知らずにここにいる。


 ――いや、私は違う。どうしてここにいるのか知らないというのは嘘だ。ここがどこか分からない事に変わりはないが、私はここに妹を殺した人間を探しに来た。漠然と、それだけは脳裏にこびり付いたような使命感がある。


『おはようございます。みなさまお目覚めですね。ご気分はいかがでしょうか?ご自分の名前がわかりますか』


 ふと、壁側に取り付けられているスピーカーから、ノイズ混じりの声が聞こえた。


「僕は一番ヶ瀬九(イチバンガセイチジク)だよ!」

「……私は七五三木漁シメギアサリ


 少女が元気に答えるので、私も続けたあと、少しの間があいた。


「なんでこんな何も分からない状況でそんな素直に自己紹介できるんすか……」


 短髪の男は怪訝そうにこちらを見ている。


「まあ、分からないからこそお互いの名前くらいは知っとくべきじゃない?アタシは四月一日寿ワタヌキコトブキ。よろしく」

「そういうもんっすかね……自分は五百旗頭元イオキベハジメっす……」


 女性が名乗ると、男もしぶしぶと続く。


「それで?スピーカーの向こうのあなたは何者?アタシ達はどうしてここにいるの」


コトブキはスピーカーの方へ視線を向けた。スピーカーの近くには監視カメラもある。恐らく、声の主はそこからこちらの様子を伺っているのだろう。


「貴方たちがここにいるのは、とある実験のため、とだけ伝えておきましょう。つまりここがどこか……も、自ずとご理解頂けるでしょう」

「この子供部屋が実験室ってこと?」

「この部屋を含む建物全体が研究施設って事でもあるんじゃない?」

「なんで自分たちが……実験なんて……なんなんすか……実験て……」

「なんの実験かは教えられません。いえ、そうですね……実験、と言ってしまうと皆様少々緊張されてしまうでしょうから、これはゲームという事にしましょう。私の事もゲームマスター、GMとお呼びください」


 GMと名乗る者の淡々と答える声を聞いて、コトブキの表情が険しくなる。


「ゲーム?ふざけてるわね」

「いいえ。大真面目ですよ。ルールはこうしましょう。これから皆様はここで2日間過ごしてもらいます。その間にこの実験の目的を理解し、私の質問に答えられれば実験は中止せざるを得なくなります。しかしそうでなければ……2日後、4人のうち2人にお亡くなりになって頂きます」

「なんですって……?」

「ちょっと、勝手なこと言わないでくれる?そんなこと認めないわ。第一ここに拉致してる時点でも犯罪よこれ」


 私は探偵業をやっていた。信頼できる警察とのツテもいくらかある。連絡する手段さえあれば――そう思い懐を弄るが、案の定。携帯電話の類は一切合切奪われているようだ。


「ああ。一つ、お伝えしておきますね。ここでおきた事件事故には警察は干渉しません。なにをするのも……殺したい相手がいれば殺してしまっても、お咎めはありませんよ」

「な、なんすかそれ……警察とズブズブって事っすか……」

「殺したい相手って……私達お互いの事何も知らないのに」

「そうですね……とは言っても皆様の記憶のうち、実験に支障を与えそうな部分は、一時的に消していますから、ご自分が何者かも完全に理解してはいないでしょう。そこで、一日一度、皆様の記憶を観賞して頂きましょう。隣の部屋に専用の機械がありますから、ご順番に一つ選んでご覧ください。その他の時間はご自由にすごして頂いて構いません。それでは、私はモニタリングに戻ります。ご質問があればお呼びください。では」


 一方的にそれだけ捲し立てて、スピーカーからの音声は途切れた。


 殺したい相手――その発言が、どうも引っかかる。私はここに、妹を殺した人間を探しに来た。それをGM側も知っているのだろうか。私がその人間を殺したいほど憎んでいると。私に犯人を見つけて殺させようとしているのだろうか。


 もし、そうだとしたら。私と他の三人、そしてGM側の関係は一体なんだというのか。




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