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95 茶会が始まります

「お招き感謝する、ダリア姉様」


渋く挨拶したレイチェルにダリアは立ち上がって傍に寄った。そして久々の再会を喜ぶ気持ちそのままに義妹の両手を取って破顔した。


「会いたかったわ!レイチェル!いつもお手紙ありがとう、どれほど貴女の言葉に救われていたか、感謝してもし足りないくらいよ!」


「私の手紙でそれほど喜んでくれるなら、毎日でも送るよ」


「あら、アレクの鳥便かしら?」


茶目っ気な視線を絡ませて、姉妹は微笑みを交わし合う。ダリアがレイチェルをエスコートして己の隣に座らせたとき、バーバラの来訪が告げられた。


「本日はお招き感謝致します。ドリュー国王女バーバラ·ドリューと申します」


ドリューにカテーシーでの挨拶はなく、きちんと揃えられた両手を右腹部に添えて頭を下げて、軽く膝を折るのが簡略化された正式な挨拶とされている。女神など高尚な方々への挨拶は両膝を地に付け、合わせた掌を額に付けて軽く頭を下げる。


バーバラの挨拶にダリアとレイチェルは立ち上がり、こちらはカテーシーで応えた。


「ようこそ、ロマリア王国へ。お身体は大丈夫だったかしら?長旅だったでしょ」


「ありがとう存じます。ゆったりとした日程で参りましたのでおかげさまで然程体調も崩さず来れました」


「そうか、それは良かった」


紺碧の長い髪を横で三つ編みにして、それを頭頂部にくるりと巻いてある頭を上げてバーバラはにこやかに言った。三つ編みで団子になっている部分にはロマリアでは珍しい珊瑚などの簪がいくつも装飾されている。


「とても素敵なドレスね」


ダリアの眼には珍しいデザインのドレスは長い羽織を前で重ねて太いベルトで押さえてあるもの。それが幾重にも重ねられ、様々な色合いが絶妙な美しさだった。

喉元でしっかりと重ねられているので、清楚な雰囲気であるのに、後ろの襟首は肩甲骨が見えそうなほど抜いてあり、それがまた妖艶だった。

バーバラの白いうなじから清廉な色気が漂い、ダリアはこれを着てマリオットに見せてみたい、と強烈に感じてしまった。


「ドリューの民族衣装をアレンジしたものです、お気に召されたのでしたら、お義母様に差し上げます。宜しければ…後日になりますが…」


バーバラが躊躇いがちにダリアをお義母様と呼び、喜びに顔を輝かせたダリアを見てレイチェルが苦笑した。


「バーバラ王女殿下、あまりダリア姉様をメロメロにしないでくれ、あとが大変だ」


兄のマリオットの独占欲と嫉妬心は半端ない。相手が女だろうと赤ん坊だろうと、ダリアに寄るものには容赦しない。

ましてやダリアが気に入ったとなれば、笑顔の下でどう排除しようか、平気で考えるような男なのだ。


「いやだ!レイチェル、妬いてるの?私にやっと可愛い娘ができたのよ!」


「なにを言う、私の娘は女神だぞ」


張り合う姉妹にバーバラは可笑しそうに袖で口許を隠して微笑んだ。


「ジルサンダー殿下、女神レティ様、いらっしゃいました!」


その声に3人は一斉に振り返り、その場に額づく。


「招待に感謝します、母上。そしてようこそお越しくださいました、バーバラ王女殿下、叔母上」


屋外だというのに躊躇いもなく額づく女性たちにジルサンダーは鷹揚に声を掛けた。ダリアもレイチェルも国で最高峰の女性であり、バーバラは次期女王であるが、女神レティに愛された創成の王と女神レティは彼女たちのさらなる上の存在である。


最上の礼を尽くす彼女たちのためにも、ジルサンダーは創成の王として、そしてレティは女神として毅然と対応しなければならない。


だからレティはカテーシーをしなかった。


ただ慈愛と感謝を込めて微笑み、そっと加護を与えるように両手を広げて差し出した。


「お招きありがとう。皆に私から感謝の祝福を…」


その言葉に、レティの身体から淡くそれでいて目映い光が溢れ出す。そして細かい粒子になって額づく彼女たちの上に降り注がれた。

ダリアはそれをとても温かく感じ、レイチェルは身体が軽くなった気がした。バーバラは常に懸念していた不調が嘘のように消え失せ、若さ故の沸き起こる力を得て、気だるさも無くなり、生まれてはじめての健康体を手に入れた気分になった。


「遅刻したかと思ったが、どうやら俺たちより遅いものがいるらしい」


くつくつと笑い含みに言ったジルサンダーの視線を辿れば、急いで駆けてくるレオンの姿があった。王子としての正装でなく、軍人の制服をびしりと決めている。見事な金髪との対比も美しい濃紺の軍服はバーバラの髪のようで、兄として妙に擽ったくなる。


「遅れて申し訳ない、レティ様、御前を穢す無礼をどうぞお許しください」


言うなり、レオンはその場に跪き、額を地に付けた。


「貴方にも神の祝福がありますように…」


「ありがとうございます」


「さぁ、全員揃ったようだし、始めよう。楽にしてくれ」


ジルサンダーの言葉で全員が立ち上がり、それぞれテーブルに付いた。


「バーバラ様、アンクレットとベルト、ありがとう。とても素敵なもので胸がときめきました」


「勿体無いお言葉でございます。わたくしの忠心を示せたのなら幸いでございます」


バーバラがレティを見て、照れたように俯く。


「レイチェル叔母様、素敵な絹織物をありがとう」


「なんの、その姿をカジィに見せてやりたいくらいです。毎年女神の生誕祭を祝うために半年以上前から準備させているものを今年は本物の女神に献上できたと大喜びしてました」


ロマリアでは建国祭と呼ばれるが、マルガでは女神の生誕祭とされている。ロマリアが堕ちてきたソフィテルを抱き留めた日をさす。

どちらも神に感謝する日であることは同じだ。


「本当によくお似合いですわ、レティちゃん、様」


ダリアが朗らかに笑んで褒め称えた。レティはそれに同じく笑顔で応えてから、


「ダリア様、どうぞレティと呼んでください」


と頼んだ。


「いいのかしら?」


ちらりと窺うようにダリアはジルサンダーに視線を送った。彼は瞳を伏せたまま、紅茶を一口飲みながら、


「レティが望むなら」


とだけ呟いた。


「なら、レティちゃんは私をお義母様と呼んでね!」


「いいのですか?」


「もちろん!」


「レティ様、私のこともどうかお養母様と呼んでくれ」


ジルサンダーの実母と叔母に頼まれたレティはほわりと頬を染めて、破顔した。


「ありがとう、ダリアお義母様、レイチェルお養母様」


「可愛いッ!」


奇声を上げるダリアをじとりと睨むとジルサンダーはレティの腰を抱き寄せた。相手が誰であろうと渡す気のない態度にダリアもレイチェルもマリオットの血を見た気がした。

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