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2 ロマリア・ロマリアの終焉 前編

ロマリアはロマリア・ロマリアと名乗り、ロマリア王国と名付けた国をこの世のなによりも愛するソフィテル・ロマリアとともに治めた。


地を、水を、人心を良く治めた素晴らしい王となった。


ソフィテルの愛の加護を得ていたロマリアは死ぬこともなく、害されることもなく、病すら退ける不死身の王として君臨した。

彼は年老いることもなく、いつまでも美しいソフィテルとともに民を想う賢君として国を治めていたので、王族、貴族、平民、浮民と人々に身分が生じても揺るぎない権力を誇っていた。


独りでは国を治めることはできない。


どうしても官吏は必要となるし、それぞれの立場に矜持が生まれるのも避けることはできない。


100年も経つ頃にはロマリア王国には3つの公爵家が存在するようになっていた。


宰相を務めるブルーデン家。

将軍職を賜るデイグリーン家。

王宮を管理するブラッディ家。


それぞれの公爵家を支えるために伯爵位を賜る家が出来上がり、伯爵家の下働きとして男爵家が生まれた。


貴族社会が出来上がったが、ロマリアは変わらなかった。


仕事に矜持は必要だ。


それが正しい方向であれば、身分の上下が生じることはやむ無しだと判断していた。


平民には平民の矜持をもって、己のすべき仕事をしてくれればいい、と、身分の高低があったとしても、それぞれが互いを認め合ってリスペクトしていれば人に貴賤の差はないのだとロマリアは常々語っていた。


ソフィテルも尊厳が護られれば人は生きていける、と信じていた。


だからロマリア王国では身分の上下があっても人に上下はなかった。


唯一の問題は浮民だった。


ロマリア王国を作っても、広い世界全てを統べるのはソフィテルの力があってもロマリアの能力があっても難しい。

だからロマリア王国民でないものたちが救いと希望を求めてあとからあとからやってきた。

ロマリアはなんとか彼らを助けようとするが、すでに心を病んでいる彼らは己の眼にした想像もつかないほどの幸せを享受しているロマリア王国民にどうしようもないほどの妬みを抱いてしまう。


何故これほどの苦渋を舐める自分たちと違う生活が成り立つのだ、ズルいではないか!


彼らは妬み心の赴くままにロマリア王国民から略奪搾取の暴挙に出た。


平和だった王国に阿鼻叫喚の悲鳴が響き、諫められない王に対する呪詛の声が高まった。

ロマリアは頭を抱えた。

ソフィテルはそんな彼の横で慰める言葉を見つけることもできなかった。


とうとうロマリアは獣が魔獣と化した土地まで出掛けていき、建国当初のように城壁を建てた。

住居を造り、浮民たちをそこへ送り込んだ。

ロマリア王国に税収しなくてもいい、と宣言し、その代わりこれ以上の手助けもしない、と告知して、彼らをロマリア王国から追放した。


ソフィテルは哀しみに、久々にダイヤモンドの涙を流し、それは浮民の国に下賜された。


彼らを想って流した涙なのだからソフィテルの涙(ダイヤモンド)は彼らのものだ、とロマリアが命じたのだった。


建国から250年経つ頃には浮民の国も安定した国として国主があり、ロマリア王国との交流も出来ていた。似たような浮民の国があれからいくつも建ち、それぞれがロマリア王国の属国として従っていたが、それらの国に干渉するようなことはロマリアは絶対にしなかった。


この世はまさに平和だと、誰もがロマリア・ロマリアに感謝を捧げていた。


そんな幸福の王国に影が差したのは宰相ブルーデン卿が邪な考えを持ったことからだった。


いつまでも死なない王。

子を成さない王妃。


実権はロマリアが握り、ブルーデン卿は王に仕えるのみ。


しかも己は限りある命なのに王には寿命がない。

剣では斬れず、槍でも刺せず、毒も効かない、まさに不死身のロマリア相手にブルーデン卿は己の娘を送り込む算段をした。


ソフィテルが子を成せないなら、万が一を考慮して側妃を向かえて世継ぎを成すべきだと。ブルーデン卿の悪賢い頭脳はロマリアを篭絡することにはなく、万物に優しいソフィテルを絡めとることを選んだ。


子を成せないことを秘かに嘆いていたソフィテルはロマリアに側妃としてマリアベル・ブルーデンを召すように進言した。

ロマリアは彼女の愛を失ったかと、恐慌に陥ったが、こんこんと諭されて、世継ぎのためにマリアベルを娶ることを渋々ながら了承した。


デイグリーン家もブラッディ家も年頃の娘がいなかったので、バランスを取るためにもブルーデン家以外の公爵家の令息をロマリアの傍近くに仕える近衛の要職に就かせた。


側妃を迎えた夜、ロマリアは沈んだ気持ちを鼓舞して、マリアベルの元へ向かった。

たった一度きりの情事。

口付けを交わすこともなく、言葉を掛けるでもなく、マリアベルと肌を合わすとロマリアはさっさと自室に戻っていった。

その夜はソフィテルの肌に触れることができなかった。己があまりにも穢れた気がしたのだ。


けれどロマリアの辛苦はこれっきりだった。

だった一度だったのに、マリアベルは懐妊した。


ソフィテルは喜び、ロマリアもホッとした。

もうこれで愛する妻以外の肌を感じなくてもいいのだと、歓喜に打ち震えた。


しかしこれが決して触れることのなかったはずの死神の鎌がロマリアの首に掛かる切っ掛けとなったのだ。

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