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15 レティ、華になる

ジルサンダーからサーカスに誘われた翌々日。


慌ただしく決まった旅行の準備と店のことで、てんてこ舞いの大わらわの半狂乱になっていたアルフィのパンに大きな荷物が届いた。

王宮からの使者だという男が差し出したカードにはジルよりレティ嬢へ、とあり、その先を読み進めたレティの顔からぼぼぼっ!と火が吹いた。


カレンに荷物を受け取るように頼み、レティは胸にカードを抱いて2階の自室に駆け込んだ。そしてデスクの抽斗にそれを仕舞い込むと、乱れた息を整えてから、階下に降りていった。


ダイニングテーブルを覆い尽くす荷物を開けてもいいか、とカレンに言われたので、レティは頷いた。中からなにが出てくるのか、喜びよりも恐怖が勝って自分では開けられない気がしたのだ。


「あらあら、これは素敵!」


箱を開けたカレンが両手に持って広げてみせたのはレモンイエローのワンピース。


深く開いた襟ぐりには銀糸で編まれた繊細な図柄のレースが施されており、胸の下で結ばれたリボンも同じく銀糸のレース。

すとんと落ちたスカートには裾に向かって意匠に凝ったオレンジのガーベラが描かれており、ふんわりとした袖はシフォンだった。

幼くみえないようにか、スカート丈は長く、脹脛下まであり、その長さに合わせたように編み上げのブーツが同梱されていた。

低いヒールのブーツは渋いオレンジで、ブラウンの革紐が絶妙なアクセントになっている。


「レティが着ればまるで花のようね!」


嬉しそうに娘の身体にワンピースをあてたカレンがはゃいで言った。


確かに彼女のオレンジの赤毛が見事な配色となって、その姿は花の妖精のようだろう、とレティですら思った。


まさにカードにあったように…


思い出して彼女はまた頬だけでなく全身を赤く染めた。頬に火が着いたように熱くなり、両の掌でパタパタと扇ぐ。


「それにしても惚れ込まれたもんね、こんなプレゼントを寄越すなんて!」


カレンの言葉でいっそう恥ずかしくなったレティは堪えられずに箱ごと洋服を抱えると、掠れるような声でカレンに礼を呟いてから部屋へと戻っていった。


「18にもなって(うぶ)なこと!免疫を付けてやれば良かったかしら?」


アルフィと17歳で結婚し、19歳でレティを産んでいるカレンが呆れたように呟いた。アルフィがたったひとりの娘だからと眼でも鼻でも耳でもどこに入れても痛くないと不器用ながらも愛情一杯に接してきたので、少々箱入りに育てすぎたのかもしれない、と18年間考えもしなかった子育ての問題点を見付けて、カレンは困ったように眉根を寄せた。


部屋に戻ったレティはベッドに座り、壁に掛けたレモンイエローのワンピースを眺めていた。


その下にはちゃんと揃えて置いたオレンジのブーツが一足。


「なんて可愛いのかしら」


呟いて、また頬を染めた。


猫のアレックを抱いたときに見たジルにはなにも感じなかった。サーカスに誘われたときも、レティはなにも思わなかった。

ただ話題のリッテ国のサーカスを観に行ける感動に胸がいっぱいになっていただけ。

頭を突然撫でられたときは驚いた。もう子供じゃないのに、と少しだけ不愉快にもなった。


なのに…


髪にキスをされたとき、近付いてきたジルから漂う甘くてスパイシーな香りに頭の中心が熱く痺れた感覚に囚われた。

それが胸を痛いくらいにときめかせ、甘い余韻に酔ったように意識が揺れた。


踵を返してアレックを連れて帰る後ろ姿にレティは言葉にできない切なさを感じて、自分がわからなくなった。


もしもこの感情を、出逢ってすぐに持っていたらサーカスの誘いには乗らなかっただろう。一緒に過ごす時間で、どれほど己の心臓が壊れるのか、容易に想像がついて恐怖でしかない。


レティはデスクの抽斗をそっと開けて、中のカードをもう一度読んだ。


途端に身体全体から熱を放って、このまま自分は燃えてしまうのでは、と無駄な懸念をしてしまう。

カードからは間違いようのない恋情を感じるが、レティは首を傾げる。


ほとんど知らないはずなのに、ジル様は私のどこに惹かれたのかしら?どこで私を見たのかしら?

それともアレックが懐いたことが理由なのかしら?


考えても答えの出ない自問がぐるぐると脳内を巡って、巡って、巡らせて、レティは疲れてベッドに背中から倒れ込んだ。


「ジル、様…か」


ときめきに掠れた声は、今までに聞いたことのない甘さを過分に含んで、レティの耳に溶けて消えた。



ジルよりレティ嬢へ


先日は逢えて嬉しかった。アレックの礼もしたかったから、ホッとしたよ。一緒にサーカスに行けることが今でも信じられなくて、夢ではないかと疑ってしまう。だから夢ではないことを確認させてほしい。レティ嬢にサーカスに行くときに着てほしい。君がこれを受け取ってくれたら、俺は現実なんだと信じられる。


どうか俺の花になってくれ。


花に焦がれる愚かな男より

なによりも愛しい貴女へ


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