表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/111

100 祈年の儀 前編

どうしても100話に祈年の儀を書きたかったのですが、儀式そのものまでたどり着けませんでした。前編後編で書き上げます。宜しくお付き合いください。

いつも本当にありがとうございます。

最終話に向かって確実に進んではいますが、もう少しかかります。どうか最後まで読んでくださるととても嬉しいです。

マリオデッラ·ブルーデンは王都から馬車で二刻(4時間)ほどの距離にある自領の屋敷でローズマリアがアガロテッドとともに王都の屋敷(タウンハウス)にいると報告の書かれた手紙を手に気怠げに枕に背を預けた。


胃の痛みから始まった不調は何をしても良くならなかった。それどころか他の臓器にまで痛みは広がり、今や吐血した血までが腐臭を放つようになっている。香を焚き染め、病人特有の身体から漂う臭いを消す努力をしているが、全身から溢れる腐敗したような臭いに鼻が曲がりそうに感じてるのは何よりマリオデッラ本人だった。


さすがにここまでの不調を抱え、己の調剤する薬がひとつも効果がなかったことで、マリオデッラはローズマリアの新薬を盛られたのだと理解した。それが何かまでは分析することができなかった。する前にマリオデッラはベッドの上から動くことができなくなったからだ。

今や痛みは全身に蔓延り、食べ物も受け付けない。食べれば吐くし、吐かずに耐えれば今度は下痢だ。マリオデッラは辛うじて摂取可能な水分で栄養を摂るしかなかった。


なぜだ?


鎮痛剤によって痛みが一時去ると、マリオデッラは考え込む。なぜ己が娘から毒を盛られなければならなかったのか、と。

それほどまでにローズマリアはジルサンダーを想っていたのか、と。己にとって都合の悪いジルサンダーを王にしたくないがあまり、レオンに娶らせようとし、あまつさえコリンナの王太子に押し付けた。面倒ばかり起こすローズマリアがいなくなれば、あとはどうとでもできる、と驕った考えにほくほくとしながら。


けれどマリオデッラの身体が動かなくなり、気力まで堕ちた。そうしている間にアレクシスが指名され、ジルサンダーはマルガに、頼みのレオンはドリューに行くことになっていた。

さらにアレクシスの決めたものがブルーデン公爵家の養女となる約定を結ばれ、己の後継ぎすら王家によって選ばれることになった。

血縁から、という条件はあっても決して己の都合のいいものは選出されないだろう、とマリオデッラは嘆息した。


しかもジルサンダーが愛したパン屋の娘が女神の顕現だと?!


ふざけている!とマリオデッラは怒りを覚えるが、心の片隅で己は終わったのだ、と諦めの気持ちも湧いている。これが病で気が弱くなるということか、とマリオデッラは気落ちする。


自領に無理してでも戻ったのは薬草園があるからだった。王都の屋敷(タウンハウス)にいるよりも薬剤の幅が広がると期待してのことだったが…


「ここまで悪くなるとはな…」


マリオデッラは乾いた自嘲の声をか細く上げた。


けれど建国祭の祈年の儀には絶対に出席しなければならない。出席してマリオデッラ·ブルーデン公爵ここにあり、と喧伝しなくてはならない。


「バルミラ!」


張りのない声でもちゃんと聞き付けて傍に来る優秀な執事にマリオデッラは王都に戻る準備を言い付けた。滅多に表情筋を動かさないバルミラがこのときばかりは懸念を示して眉を下げたが、承知しました、とだけ告げるとするすると辞していった。


痩せた身体はどうにもならないが、顔色なら化粧でカバーできる。ましてや神殿内は薄暗い。

マリオデッラは侍従に身体を拭くように命じると、少しでも病気を患ってないようにみせるために必要なことはすべてやろう、と決めた。




王都ロマン。

その中心に聳える高い塔をもつのは女神ソフィテル像を有する大神殿。


ソフィテル·ロマリア正教神殿だ。


荘厳な左右対称の神殿はソフィテル亡きあとに建てられた由緒あるもので、美しい光沢を放つ薄茶色の大理石でできた細部の細工も見事な落ち着いた雰囲気の建物だ。


しかしソフィテル像が奉られている神殿内は白亜を基調に煌びやかなゴールドを配していて、祈りを捧げに来たものに、まるで天上世界を垣間見た気分にさせた。


その祭壇。


ソフィテルが好きだったとされる白の百合で一面飾り立てられ、やはりソフィテルが好んで食べたとされる桃が壇上にところ狭しと並べられていた。

ほとんどが祈りを込めて捧げられたものなので、百合も桃も形も大きさもバラバラだったが、それがまたソフィテルに対する信仰の篤さを物語っている。


「女神レティ様はこちらのソフィテル様の前にてアレクシス殿下からの祈りを受けていただけますか?」


真っ白な聖衣に細かな刺繍を施した衣を纏った神官がレティをあちらへ引っ張り説明、こちらへ手招きして説明、と忙しげに儀式に関しての最終確認に勤しんでいた。ジルサンダーがそれを傍で眺めているので、神官も気が気ではない。

それもそのはず、先程少しレティの手に触れただけでジルサンダーの怒声が降ったのだ。アレクシスすら苦笑いしかできない。

レティが祈年の儀のために時間を取られ過ぎて、ともに過ごす時間が短いことにジルサンダーの機嫌は急下降していることに苦々しく思っているのは王家のものだけではない。儀式全般を監督するピナール·ブラッディ公爵もいちいち邪魔をするジルサンダーに辟易していた。


「ジルサンダー殿下、もうこれで女神レティ様にご説明することは最後になります、もうしばらくのことですので、アレクシス殿下とあちらの控室で紅茶でもいかがですか?」


内心の呆れを包み隠して言うピナールの言葉にアレクシスは従うようにジルサンダーの腕を取って控室に脚を向けたが、仁王立ちして神官を睨むジルサンダーはぴくりとも動く気がなかった。

レティは困ったように微笑んでから、世話係の神官に何事かを告げてから、そっとジルサンダーの傍まで行った。


「ジル、これはロマリアだけでなく、世界的にも大切な儀式です。私、失敗だけはしたくないんですけど、ジルが見てると思うと緊張するので、手順を覚えるまであと少し、あちらの部屋で待っていてくれませんか?ジルが待ってくれてると思えば早く覚えられると思います。ダメですか?」


こてん、と首を傾げたレティにジルサンダーの雰囲気が途端に甘く穏やかに変化する。そしてとろん、と蕩けた瞳にたっぷりの熱を孕ませて、ジルサンダーはふわりと華やかに笑んだ。


「わかった、レティが言うなら、俺はあっちで待っていよう、その代わり早く戻るんだぞ」


「はい!」


はにかむレティの頬に手を添えて彼女の額にキスを落とすと、実に満足感満載の足取りでジルサンダーはその場を辞した。


アレクシスがウインクひとつ、レティに送ると兄のあとを追いかける。ピナールもホッとしたようにレティに頭ひとつ下げてからジルサンダーが二度と邪魔できないように留めるために控室に去っていった。


レティは世話係に向き直ると、


「申し訳ありませんが、はじめからお願いします」


とぺこりと頭を下げた。世話係の神官が慌ててその場に正座をすると顔を真っ赤にして泣き出した。

女神に頭を下げて貰ったのならわたくしはもう死んでも構いません、と叫ぶので、レティはまた困って立ち尽くすしかなくなってしまった。


「私、ちゃんとできるのかしら?」


建国祭はあっても祈年の儀はソフィテルだった頃はなかった儀式なので、なにをどうするのか記憶にないレティはポツリとため息混じりに呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ