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1 ロマリア王国のはじまり

新連載はじめます。読んでくださると嬉しいです。宜しくお願い致します。ありがとうございます。宜しかったらhttps://ncode.syosetu.com/n3304gt/「闇夜に光る赤ふたつ」もお願い致します。完結しています。第二部が始まっています。

そのとき、世界は混沌としていた。


治めるべき土地もなく、纏めるべき人心もなく、獣が跋扈し、そこに生きる人たちは今、口にするべき食べ物と水を求めるだけの世界。


彼らの生活を確保し、蹂躙する獣を追いやり、生き甲斐と仕事を与えることのできる、上に立つべきものがなかったのだ。


荒れた土地は毒性の強い植物しか育たず、流れる川は触れれば爛れるような淀みがあり、それらに耐性のできた獣たちは気の向くまま人を狩る。


人は断崖絶壁にしがみつくように暮らしていた。

海は波高く、常に渦を巻いて轟々と荒々しかったが、その水は清廉で、その中には毒性のない生き物たちが精気も露に意気揚々と泳いでいた。

塩水は飲めないが、そこから塩を分離して塩分を摂取することはできるし、海水も沸かすことで辛うじて蒸発した水分を僅かではあったが水として得ることもできた。


ごく稀に襲ってくる獣もあったが、基本、海の近くに寄り付くことのない獣たちを恐れずに生活するには危険を伴ったとしても、この断崖絶壁が都合良かった。

食べられるものもあり、飲むための水もなくはない。

なにより塩分を摂取できることが、彼らには命綱にも等しいものだった。


そんな村とも集落ともいえないところでロマリアは産まれた。父親は喜びのあまり、海へと狩りに出掛けて帰らぬ人となった。母親は出産の疲労と、その後の栄養不足で、乳を咥えたままのロマリアを抱いて死んでいた。


あとはゆったりとやってくる死を待つだけだった彼を救ったのは他でもない、天界にて全能の神から類のないほどの愛を注がれていたソフィテルであった。

彼女は父神の眼を盗んでは、地上の有り様に小さな胸を痛めていた。何度も父神に助けてくれるよう、縋ったが古代の人々が地を汚し、神を罵倒し、獣を蹂躙したことによる罰なのだ、と取り合っては貰えなかったのだ。

ハラハラと、その美しい菫色の瞳から輝くダイヤモンドの涙を流し、ソフィテルはロマリアに許しを乞い、地上の状態に憂いた。


零れたダイヤは地へと降り注いだが、混沌とした世の中にとって価値あるものでもなく、ただの光る石でしかなかった。

いつしか土に埋もれていくだけ。


日に日に衰弱していくロマリアを見るに堪えずに、とうとうソフィテルは己の侍女を地に下ろした。

侍女は父神に隠れるようにして、ロマリアを育て始めた。ソフィテルの気持ちを汲んだ侍女はただ育てるだけでなく、ロマリアをこの世の総てを治めることのできる帝王として教育を施した。

教育と食育によってすくすくと育つロマリアを見守ることがソフィテルの密やかな楽しみとなった。

そして全能のなる父神も己の娘がひとりの人間に肩入れしすぎていることを知ってはいたが、黙認した。

正直、犯した罪に見合うだけの罰を受けている地上のものたちのなかにあって、ロマリアは特別不幸な子供ではない。同じような境遇、似たような環境にあって、むしろロマリアはソフィテルの加護のおかげで誰よりも幸福であるともいえた。

どこにでもいる、ただの子供。

それがロマリアだった。

なのに何故、己の最愛の娘がこうまでロマリアひとりに執着するのか、父神は理解できなかった。


しかしそれもソフィテルの運命か、と父神は暫し傍観することに決めていた。


いつしかロマリアは光を纏う黒髪をたなびかせ、熱の籠った輝くサファイアの瞳を持つ、美しい青年へと成長していた。侍女の教育により、聡明で、正しく清廉な心を宿した、惚れ惚れするような人となった。

清濁併せ呑むにはまだ若い彼は世界の混沌に心底憂いた。

その憂いはソフィテルに伝わり、彼女は彼の穢れなき高貴な輝きを放つ性根に恋をした。

けれど神族と人間の恋は天界において最大のタブーだった。

様々な女神がソフィテルを諫め、慰めた。

彼女を想う言葉はどれも美しく心打つ優しさを含んでいたが、ひとつとして彼女の耳には響かなかった。

あるのはロマリアの光輝く心のみ。


ロマリアを想って泣き暮らす娘を不憫に思った父神は天界のタブーを犯した罰として、ソフィテルを地上へと墜とした。

できうる限りの加護を与え、神族のまま、最愛の娘をロマリアのもとに送ったのだ。


天使のように空から降ってきたソフィテルを身体ひとつで受け止めたロマリアは、その腕に抱いた瞬間から彼女に恋い焦がれた。


まさに燃え上がる炎となって、ふたりはないものを埋めるように互いを求め合った。


父神の加護を得ていたソフィテルの愛を射止めたロマリアは突如覚醒した。


この世のありとあらゆる物体を自在に動かす力を手にしたのだ。ロマリアはこの能力を使って人々を守るための城壁を築き上げた。高く聳えた壁は猛々しく唸る獣から人を隔離した。やっと安全な居住区を人々は得たのだ。

次にロマリアは彼らのために家を建てた。

手を翳すだけで大地が盛り上がり、こんもりとした住居が出来上がった。

ロマリアの傍に常に控えるソフィテルは大地から毒を消し去った。父神からの加護である癒しの能力が、彼女の触れるもの全てに光の加護を落とし、浄化されていったのだ。


人々は安全な住居だけでなく、安心して食べられるものを作る土地も手にすることができた。


あとは発展するだけだった。


慶びに満ちた瞳を輝かせた人々は労を惜しまず働いた。そしていつまでも美しい領主夫妻を崇め奉った。


ロマリアとソフィテルの国が地上に新たな希望となって高らかに産声をあげたのだ。


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