表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幻燈  作者: 凪子
3/8

03

「その代わりノート見せてや」


かき集めた大量の落ち葉をゴミ袋に入れながら、南坂秀みなみさかしゅうは淡々と言った。


首を傾げた私に、


「英語のノート。授業中寝てばっかりで真っ白やねん」


そういうことかと、私は小さく苦笑した。


すると、不意に目が合った。


冷たくはないが温度の低い、何かを試すような瞳と。


不思議な少年だった。特別目立つわけでもなく、さりとて地味でもない。


とりたてて何かに抜きん出ているわけではないのに、どこか超越ちょうえつしている。


気がつけばそこにいて、いつも静かに周囲を観察していた。大人びた、悟りにも似たまなざしで。


水のような風が吹いて、私の髪をなびかせた。


乾いた音を立ててまた、こずえは落ち葉の雨を降らすだろう。


肩をすくめて溜息をつき、彼は言った。


「もうそろそろ、ええやろ」


「そうやね。これ以上掃除してもきりなさそうやし」


「掃除の話してるんとちゃうで」


突然、ぎょっとするほど怜悧れいりな声が私を刺した。


気がつくと彼の目は、異様いような迫力でこちらを射抜いていた。


私はたじろいだ。


「おかしいことは、ちゃんと『おかしい』って言わなあかんのと違うか」


逃げようとするのに、すくんでしまって一歩も動けない。


こんな顔をする少年だったろうか。


「自分一人が我慢すれば済む問題やから、ほっといてええと思ってるんか」


その言葉は私の痛いところを突いた。


だから私は反射的に跳ねつけた。


「南坂君には関係ないやろ」


「そうや、俺には関係ない。これは御幣島みてじまが自分でどうにかせんとならんことや。他の誰の助けもない」


容赦ない物言いは、私の胸に風穴を開けた。


「このまま見て見ぬふりを続けたら、お前は一生いいように利用されるままやで」


「利用って、そんな言い方」


「利用やろ。便利に使われるかわりに、友達でいてもらってるんやろ。あいつら友達を失うのが怖いっていうお前の気持ちにつけ込んで、お前を利用してるんやろ。それ以外に何があるんや」


思わず振り上げた手は、彼の頬に触れる寸前でつかまれた。


「……殴る相手が違うやろ」


思いがけず強い力が骨にめりこんだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ