03
「その代わりノート見せてや」
かき集めた大量の落ち葉をゴミ袋に入れながら、南坂秀は淡々と言った。
首を傾げた私に、
「英語のノート。授業中寝てばっかりで真っ白やねん」
そういうことかと、私は小さく苦笑した。
すると、不意に目が合った。
冷たくはないが温度の低い、何かを試すような瞳と。
不思議な少年だった。特別目立つわけでもなく、さりとて地味でもない。
とりたてて何かに抜きん出ているわけではないのに、どこか超越している。
気がつけばそこにいて、いつも静かに周囲を観察していた。大人びた、悟りにも似たまなざしで。
水のような風が吹いて、私の髪をなびかせた。
乾いた音を立ててまた、梢は落ち葉の雨を降らすだろう。
肩をすくめて溜息をつき、彼は言った。
「もうそろそろ、ええやろ」
「そうやね。これ以上掃除してもきりなさそうやし」
「掃除の話してるんとちゃうで」
突然、ぎょっとするほど怜悧な声が私を刺した。
気がつくと彼の目は、異様な迫力でこちらを射抜いていた。
私はたじろいだ。
「おかしいことは、ちゃんと『おかしい』って言わなあかんのと違うか」
逃げようとするのに、すくんでしまって一歩も動けない。
こんな顔をする少年だったろうか。
「自分一人が我慢すれば済む問題やから、ほっといてええと思ってるんか」
その言葉は私の痛いところを突いた。
だから私は反射的に跳ねつけた。
「南坂君には関係ないやろ」
「そうや、俺には関係ない。これは御幣島が自分でどうにかせんとならんことや。他の誰の助けもない」
容赦ない物言いは、私の胸に風穴を開けた。
「このまま見て見ぬふりを続けたら、お前は一生いいように利用されるままやで」
「利用って、そんな言い方」
「利用やろ。便利に使われるかわりに、友達でいてもらってるんやろ。あいつら友達を失うのが怖いっていうお前の気持ちにつけ込んで、お前を利用してるんやろ。それ以外に何があるんや」
思わず振り上げた手は、彼の頬に触れる寸前で掴まれた。
「……殴る相手が違うやろ」
思いがけず強い力が骨にめりこんだ。