01
再会は夏の匂いがした。
「御幣島?」
むせ返るような人いきれのなか、呼ぶ声だけが凛然と蒼く透きとおっていた。
他ならぬ、私の名を。
「やっぱり。お前、御幣島やろ」
振り返った私の目に、懐かしい笑顔が映った。
祈りにも似た蝋燭の灯りは、宵闇を穏やかに照らしだす。
蛍とも、月明かりとも違う、ほんのりと甘く優しい燈の光。
それらが無数に連なって、道や芝生や公園の、あらゆる暗がりに淡く満ちていた。
その静謐な祭りの名を、燈花会という。
「浴衣着てたから分からへんかったわ。久しぶり」
と言った彼は、夜にまぎれる紺のポロシャツにジーンズを履いて、鞄も持たず身軽そうに立っていた。
「……南坂、君」
やっとのことで、私は鈍い返事をした。
彼は安心したように表情を緩めた。
「よかった。覚えてないんかと思った」
「ちゃうねん、びっくりして。戻ってきてたん?」
「そうや。夏休みやし、いっぺん帰省しよかと思ってな」
「喋り方、変わってへんねんね」
と言うと、彼は胸を張って誇らしげに、
「せやろ。まあ、向こうではちょっと標準語入るけどな」
「今は、埼玉の方に住んでるんやんな」
「そうやで。よう覚えててくれたな」
嬉しそうな顔に、胸が軋んだ。
「ほんまに、久しぶり――」
忘れたことなどない。忘れることなどできるものか。
南坂秀の名前は、胸底に大切にしまわれている。
彼が中学三年生の春に転校してしまってから、ずっと。
噴水のふきあげる清らかな水音が絶え間なく降りつもる。
誰も彼もが人待ち顔に立ち尽くしている公園の片隅で、私と彼はしばしの間、声もなく見つめあった。