第四話 ダンジョンの終わりにあるものは
「まだなの!どこにあるの〜〜。出口どこ行った〜〜」
ダンジョンの奥へ奥へと進んだけど、いまだ出口は見えない。
その間に現れたのは出口じゃなく全て『例の影』。俺の中では通称『影の戦士』。
「欲しいのは君じゃないのぉぉぉ」
心の声がとうとう口から飛び出た。
確かに戦闘での経験が自身を強くしてくれたのは間違いないのだけど。あまりにも出すぎなんですウォー・シャドーが。
そんな愚痴を吐いているうちに次の部屋の入り口が見えた。
「ホントもういい加減このダンジョンから出してくれよぉ・・・」
今度こそはと希望を抱き明るい未来が待つ?部屋へと進む。
部屋は今までと違い整備されたように岩の凹凸が少ない。部屋の中央には奇岩が一つ、オブジェのように置いてある。最奥には赤色に輝く一本の柱のような物が見えた。
「遠すぎてあの光っているのが何かわからないな。あれが出口だったりしないかな〜」
部屋の奥へ誘うように輝く柱を目指して進む。
奇岩の近くまで来ると奇岩の横から敵がゆっくりと歩いて出てくる。
敵はまた影だったが『例の影』とはシルエットが違う。
頭から足先まで覆うフルプレートアーマーを着用した騎士のように見える。両手には何故か得物を装備していない。その出立から勝手に『騎士の影』と命名した。
襲ってくる気配の無い『騎士の影』は最奥にある赤い柱に向かって徐に片膝をつくと左肘を片膝の上に置き右手を地面に着けた。
「な、なんなんだコイツ・・・。今までの敵と様子が違いすぎでしょ」
不意打ちできる機会はあったはずなのにそれをしないどころか騎士が自身の主人に忠誠を誓うような姿勢になって動かない。
「凄いやりづらいんだけど。俺はどうすればいいんですか・・・」
いつもと違う動きに動揺しながらも警戒を怠らない。
いつでもやれる様に魔法『仇打つ者』を発動し臨戦態勢をとる。
しかしこの魔法の発動が戦闘開始の狼煙となった。
『騎士の影』は右腕を地面の中に潜り込ませると大盾を出す。大盾は左腕に装備し素早く立ち上がって方向転換し俺の位置を認めると、大盾に仕舞われていた細身の剣を抜いて構えた。装備した剣と大盾は魔法の加護でも受けたのか薄赤色のオーラを纏う。
「本物の剣と盾を装備したぞ!明らかに今までの『影』とは違う。しかしどんな仕組みで地面から装備を出したのか不思議だ」
これまでの『影』は武器を含めた装備がいずれも影だった。この『ナイト・シャドー』は立ち振る舞いから装備まで何もかもイレギュラーだ。
大盾を正面に構え直した『ナイト・シャドー』は自身の体を大盾の中に隠すような構えをとった。
同時に『ザッ』と地面を蹴る音が鳴る。
「グアァァァァ」
敵は不気味な咆哮を部屋中に響かせながら大盾を正面に構え突撃してくる。まるで鉄の壁が俺を押し潰そうと迫ってくるようで戦慄が走る。
「ちょ、ちょっと待てぇぇ」
重戦車のような重圧感のあるシールドアタックをギリギリ横に躱す。
突風が吹くほどの鋭いシールドアタックを繰り出した『ナイト・シャドー』は間髪入れずに方向転換して俺と相対する。
「なんて奴だ。今までの『影』とはレベルが違うぞ!相手の手の内を探らなければ・・・」
敵の攻撃を躱すことに重きを置いた守備的な戦略をとる。
全力での攻撃は封印し力を加減しながら相手の動きを探るための攻撃を繰り出す。
影は上手く大盾でパンチをいなしたり、少しでも体勢を崩すとその隙を剣で襲ったりと戦い方が確立されている。
「随分、型にはまった攻撃をしてくるなぁ」
大袈裟に後方に下がって距離を取る。
距離を取った途端『ナイト・シャドー』はまた大盾を正面に構え直す。
「攻撃が正確だし全ての動作が洗練されている。特に厄介なのはあの攻撃速度か・・・。どうにか足止めしないとね」
これまでの敵の動きを観察し分析する。
お互い距離を測って攻撃を仕掛けない。ジリジリと小刻みに動いて距離を縮めてくる『影』。
『ナイト・シャドー』は一度動きを止め重心を下げた。刹那、地面を蹴る音が響くのと同時に大盾スキル『シールドチャージ』を使って襲いかかって来た。
高速で迫る大盾と一体化した『影』が瞬く間に距離を詰めてくる。
俺は両手を『ナイト・シャドー』の下半身と地面に向け、スキル『硬柔の魔糸』で網目状の糸を連射する。駆ける地面と大盾に蜘蛛の糸が絡み『ナイト・シャドー』の速度が減速する。堪らず『ナイト・シャドー』は大盾を少しずらし剣で絡んだ糸を切り裂き始めた。
「よしっ!次は『束縛の影手』!」
『束縛の影手』は『ウォー・シャドー』から学んだ魔力で作った腕を任意の影から出すことができるスキルだ。
自身の直下から二本の黒い帯状の腕が伸び敵へと迫る。
蜘蛛の巣が張り付いた地面にばかり気を取られている『ナイト・シャドー』の剣を持つ右腕を絡め取る。
「!!」
『硬柔の魔糸』で減速を余儀なくされ、右腕も『束縛の影手』で自由を奪われた敵の真上に回ると、自身の右腕に力をいや魔力を込める。視界の左上に表示されているMPバーがいつも以上に減少すると右腕がより一層青白く輝く。
「砕けろ!」
魔力の篭った右腕が『ナイト・シャドー』の頭部に狙い定め振り下ろされた。
渾身の一撃は『ナイト・シャドー』の頭部の一部と左肩を削る。左肩を失い左腕は大盾と共に地面に転がる。右腕と頭部を欠損した『ナイト・シャドー』はバランスを取れずに冷たい岩床に倒れた。
うつ伏せに倒れた『ナイト・シャドー』に急降下し首筋と剣を持つ右手首を掴む。
「頂くぞお前の力を!『ドレイン・タッチ』!!」
HPとMPを同時に吸い取る。今までの敵の中で力の量が一番多く、吸い尽くすのに多少の時間を要した。『ナイト・シャドー』は力を全て吸い尽くされ砂のように砕け散った。
「強敵だった・・・」
砕け散った敵の残骸を見つめる。地面には『ナイト・シャドー』が使っていた剣と大盾が岩床に転がっている。
「これは初めてのドロップアイテム!」
地面に落ちている剣と盾を拾い上げ観察する。
剣は刃こぼれしているところが所々あり、大盾は傷が多くついている。
鑑定できる能力も眼力もないが、この二つの装備は状態があまり良くないようだ。
「贅沢は言わないが少しでも高く売れてくれ!俺にはお金が必要なんだ!」
自身を蘇生するのにそれなりのお金は必要だと考えている。タダでできるとは思えない。
「あれっ!でもどうやって持っていこうか?」
魔法を展開中は常時MPを消費する『仇打つ者』で持って行くという荒技もあるけど、戦闘に不可欠なMPを無駄に消費することは危険だ。
「しょうがない諦めるか・・・」
魔力を優先し戦利品は泣く泣く諦める。
次はステイタスの確認だ。
「ん!?どうなってんだ!」
左上にあるHPとMPバーが戦闘前より短くなっている。
戦闘前は視界の左端から右端まであったはずのHPとMPバーが今では左端から真ん中辺りで止まっている。
そしてHPバーは薄い黄色から黄色に、MPバーは薄緑色から黄緑色へと色が変化している。
「バーが伸びきって折り返したってことか。それでバーの色も変わったんだろうね」
憶測でしかないがこの考察はあながち間違っていないはずだ。
今は考えても答えは出ないので、次はスキルを確認。
「なっ!これはいいぞ!」
スキル欄に新たなスキル『影穴倉庫』の名前が記されていた。
【スキル名とスキル効果】
『影穴倉庫』・・・任意の影にモノを収納することができる。
「ゲームと言えばこれこれ!一見手ぶらに見えて実は四次元的なポケットやリュックに沢山のアイテムを入れることができるやつ。これはその影版というところかな」
試しにとばかりに泣く泣く諦めた剣と盾を地面から拾い上げ、直下にある影を見てスキル名『影穴倉庫』と呟く。
影は突如中心に向かって渦を巻き始めた。
渦に向かって躊躇なく剣と盾を投げると装備品は吸い込まれる様に影の中へと消える。
すると視界に突然アイテムウィンドウが表示され、ウィンドウの中に剣と大盾があるのが見えた。
「これは間違いなく便利!まさに神スキル!」
アイテムウィンドウを閉じると影が元に戻った。そして視界を部屋の最奥に移す。
「あの光る柱はなんなのか・・・」
不気味に輝く柱へと恐る恐る進む。
仄暗い闇の中でただ一つ輝く物体。近づくとそこには円形の大魔法陣が描かれ中心に円柱状の柱が安置されている。
魔法陣には複雑な記号や解読できない文字がびっしりと記され赤く発光している。遠目で見た赤い柱だと思っていたのはこの魔法陣の光だったのか。
「しかし随分大きな魔法陣だ。直径十二メートルはある・・・。それで・・・、あの真ん中に有るモノは一体なんだ?」
中央の柱は高さは二メートル、直径は二十センチ程度。表面がガラスのようなに透明で中が見えそうだが、この距離では魔法陣の光が透明な表面に反射して中が見えない。
躊躇なく魔法陣の中へ進み、中央の柱の前で止まった。今度こそはと柱の中を覗き込む。
「なんでこんなものを飾っているんだ?」
中には人骨の一部が丁寧に収納されていて、人骨は大腿骨から足先の基節骨まである。間違いなく脚の骨格でこれは右脚だ。色も普通の人骨と違い綺麗な天色をしている。
「なんて綺麗な骨なんだ。本物とは思えない。誰かが作った芸術作品のようだ」
徐に容器を持ち上げ角度を変えて鑑賞していると、急に円柱状の容器が小刻み振動し始めた。
「い、一体どうしたんだ!?」
容器の振動は激しさを増し手で持っていられない。
振動の激しさのあまり遂には容器に亀裂が生じ、亀裂は容器全体に広がると粉々に砕け散った。
「うわっとっとっ!」
容器から解放れた骨は地面に向かって落下し始める。
咄嗟に出した右手で天色の骨を空中で間一髪で掴み取った。
「あっぶなぁ〜〜。あと少し反応が遅れてたら地面に落ちてたぞ。うっ!うぅぅぅ」
突如激痛が体全体を襲った。強襲した激痛で視界が闇に閉ざされ何も見えない。
そして周囲の音すら聞こえなくなった。突如闇の中に映像が現れた。
映像には見た事もない銀髪の美女が映っている。
「この人はなんで泣いているんだろ・・・」
女性はルビーのような赤紫色の瞳に涙を浮かべ、手には解読できない文字がびっしりと書かれた白磁のような球体の器を優しく包み込むように持っている。
「この器の形って、人魂のアイコンと激似なんだけど・・・」
女性の持つ器に釘付けになっていると、突然静止画だった映像が動き出す。
巻き戻したかのように高速で動く映像。
映像にはその他にも人物が登場しているようだが、映像が高速すぎて顔を判別できない。
高速で動いている映像はいつの間にか消え、再び魔法陣がある部屋が視界に入る。
「意識が戻ったのか・・・。何だったんだあれは!?・・・。まさかこの骨に宿っていた残留思念なのか?」
憶測しながら右手に持つ天色の骨を見る。
不意に右手から力が流れ込む。
「この感じって『ドレイン・タッチ』か!?っておい何やってんだよ!?」
意思に反し勝手に使い始めたスキルは止めようとしても言う事を聞かない。
「止まれ!止まるんだ!!」
全く動かせなくなった両腕が天色の骨から力を吸い尽くし、最後には右脚の骨ごと取り込んだのか右手には骨が無くなっていた。呼応したように魔法陣は光を失い停止した。
「スキルの暴走か・・・。それとも・・・」
両腕を眺め動かす。自分の思い通りに動く。今は自分の言うことを聞いてくれるようだ。
『バキッ!』
突如前方にある岩壁に一筋の亀裂が走った。亀裂は縦に長く入り幅が一ミリ程度しかない。
亀裂の奥からは薄ら光が漏れ風が吹き込んでくる。
「まさかあそこから外に出れるのか!?」
亀裂の入った岩壁に近づき、亀裂を覗き込む。狭い視界に映ったのは青々としげる木々。
「間違いない外だ!!」
岩壁の中に向かって進むと、体は壁の中を通り抜け晴天が広がる空の下に出た。
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