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俺はすでに死んでいる  作者: youka
第一章 チュートリアル
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第三話 ダンジョンを進む

「もうこれで三十体以上は倒してるんじゃないか・・・」

あれから遭遇する敵は決まって苦手な蜘蛛かムカデ。それも普通のサイズではなく一メートルを超えるビックサイズばかり。そして奴らはダンジョンの奥に進めば進むほど嫌がらせのように所構わず会いに来るようになって休む暇を与えてはくれない。


「精神的疲労が半端ないって・・・。なんであんなにリアルなのかな〜。もう少しデフォルメしてもいんじゃないですか!」

あまりにもリアルな敵の造形についつい愚痴が出る。

でも悪い事ばかりじゃない。頑張って生理的に受け付けない敵を倒してきた結果HPとMPのバーの長さは当初の二倍以上に増えていた。

やはり『ドレイン・タッチ』で敵を倒すとHPとMPの最大値が増えるのだ。

それともう一つ身体的な事でわかった事がある。食への渇望が無いのだ。なぜならこのダンジョンに二時間以上潜って激しい運動をしているにも関わらず空腹や喉の渇きを一切感じない。


「やはり死んでいるから食欲という物がないのかもしれない。もしかしたら三大欲自体ないのかな?」

ゲームの中の出来事だからだろうか、まるで他人事の様に自分の状態を分析する。


「しかしダンジョンの進行中に他の事を考えるなんてね・・・。最初の頃に比べたら随分余裕ができたものだ」

明らかに数時間前の自分より強くたくましくなったことで心に余裕ができたのだろう。

取り留めのない事を考えているうちにまた開けた場所が眼前に現れた。


「そろそろ出口への手掛かりとかないものかな・・・」

淡い期待を胸に抱きつつ、だからといって油断せず敵の気配を探りながら部屋へと入る。

周囲を見回すが珍しく敵が一体もいない。

部屋はあまり広くはなく、奥に透明度の高い青白い静水を満たした池が見えた。


「なんて澄んだ水なんだ・・・」

あまりにも清らかな水面に導かれる様に池へと進む。部屋の奥まで来るとあるのはその美しい池だけで、先へ進むための道が一つも無い。


「い、行き止まりだと・・・。まさか泳ぎの苦手な俺にこの池の中を進めってことなのか!?」

水中への恐怖。そして水中でどれくらい息が続くのかという不安。また、本当に池の中に出口へと続く道があるのかと言う疑問。色々な思いが頭を駆ける。


「どうせゲームだろう!なんとかなるさ・・・」

考えるより実行あるのみだ、と自身に言い聞かせ「ていっ!」と一言発して池の中へ飛び込んだ。


「おかしいなぁ。綺麗な水質だと言うのに魚一匹見当たらない」

池の中は透明度の高い水質だけあって水の中でも視界が良好だ。周囲をくまなく探すと底に横穴があるのがはっきり見えた。


「多分、あそこから先に進むんだね」

まずは行先が見つかってほっとする。

そして懸念していた呼吸も全く苦しくなる様子はない。


「やっぱり人魂だから呼吸する必要がないのかもね」

これで窒息しないとわかったので底にある横穴へと泳いで行く。

横穴を覗き込むと、そこは人が泳いで通れるギリギリの幅しかないうえに暗くて先が見えない。


「奥が見えないのは怖いな〜。でも行くしかないんだろうし・・・」

恐怖を共につれ圧迫感のある水路を奥へと進む。

二十分ほど進むと、水路の先が明るくなっているのを認める。


「ようやく出口だぁ〜」

はやる気持ちを抑える事ができず急いで水路を抜けて光刺す上方へと行く。

水中から抜け出し周囲を見渡すと先程いた池があった部屋にそっくりな場所へと出た。


「ま、まさか戻ってきたのか!?」

進む方向を誤ったのかと思ったが、周囲をよく見回すと池のあった部屋よりも小さく形も違っている。


「ふ〜〜。脅かすなよ〜。先に進んでて良かった〜ってあれは!」

奥にある部屋と通路を繋ぐ入り口の床に人影が写っているのが見える。


「ダンジョンでの、いや!このゲームで初めての人間と遭遇だ!これで出口まで連れて行ってもらえるぞ」

速度を上げ部屋の奥に進むと床に映る影の先にいる人間へと目を向ける。


「ど、どうなっているんだ!?」

思わず声を荒げてしまった。なぜなら影の先にいるべき人がそこにはいないからだ。

床に映っているのは鎧と直剣を持った人型のシルエット。その人影はゆらりと動いて張り付いていた床から起き上がると俺の方を向いた。影の高さは成人男性の平均身長くらいだろうか、それほど高くない。


「・・・・・・」

徐に戦士のような影が立ち上がるところを惚ける様に見つめていると影は直剣を両手に構えたと同時に素早い動きで襲いかかってくる。


「うわぁぁぁ」

一瞬で我に帰ると同時に自身の絶叫を周囲に響かせ咄嗟に迫って来る剣先を左側に動いて回避しながら影を視界に捉えつつ影と相対する。


「グッ!」

痛みに伴ってくぐもった声が漏れた。影が動いたことに動揺して剣を回避しきれずダメージを負ってしまった。

先程まで非表示になっていたHPとMPのバーが左上に表示され、そのHPバーが一割程減ったのが目に入る。

「油断した!」と内心で愚痴ると同時に、俺が持っている唯一の魔法『仇打つベフデティ』を発動し、魔法で生成した両腕で俺を横ぎっていった人影の背中目掛け左腕を打ち込む。


「くらえぇぇぇ」

自身の左拳が人影の背中にヒットすると背中全体に白い亀裂が何本か走る。間髪入れずに敵に追い討ちをかけるべく繰り出した右腕を、振り向いた人影が認めた。

佇んで動かない敵を見て右拳が必中する事を確信した刹那打ち込んだ右腕の動きが人影の顔面の前でピタリと止まった。


「ど、どうなってるんだ!?」

右腕が何かにつかまれる様な感覚が走った。黒色の薄い布の様な物が地面から二本伸びていて、その黒色の何かが右腕に何重にも巻き付いている。よく見るとそれは幅10cmほどの影で、伸びた影の先端には人間の手のシルエットが付いていて、その手が俺の腕をピタリと掴んでいた。

地面から伸びた影の手に意識がとられていた隙を逃すまいと影は直剣を大きく振り上げて襲いかかって来る。


「やばっ!!」

咄嗟に襲いかかる直剣に左腕で向かい打つ。影は背中にダメージを負ってたせいか先の攻撃より動きが緩慢でそのおかげで剣身を左手で掴み取れた。

しかし影は容赦無く直剣に体重を乗せて剣身を掴んだ左手ごと斬り裂こうと動く。


「影のくせにやけに力強いじゃないかっ」

俺も負けじと直剣を掴んだ手に力を込め押し返しお互い膠着状態になる。


「これはチャンス!頂くぞお前の力を!『ドレイン・タッチ』!!」

影で出来た直剣を掴む左腕から力が流れ込んで来るのを実感する。それと同期したように影の直剣を押す力が弱まる。そして右腕を縛っていた影の帯の効果が弱まり右腕の可動域が増えると、右手で影の帯を掴む。そして右手からも『ドレイン・タッチ』をお見舞いする。


「もっと頂くぞ!」

影の帯は右腕からすぐに消滅し、自由になった右腕を今度は影の頭を狙って放つ。ガッチリと影の頭部を掴んだ右手でスキル『ドレイン・タッチ』を使って力を吸い出す。

頭部を掴む腕を外そうと必死にもがく影の身体は闇のような黒から灰へ、最後は白色になった。そして『ピキィッ』と甲高い音がなった後に『ガシャンッ』とガラスが砕けたような音を響かせた。同時に影の身体は砕いた灰のようにように儚く散った。


「思ったより苦労しないで倒せたね。しかし影だけの敵が出るなんて俄然ゲームぽくなってきた!」

勝利を喜びつつ粉々になった敵の屍を観察する。


「こいつも何も出さないのか・・・。たまにはアイテムとか落としてもいいんだぞ!」

大蜘蛛や大ムカデの時も何度倒してもアイテムはドロップしなかったのだ。


「え〜と、ステイタスはどうなったかな」

左上に表示されているHPとMPバーは満タンで最大値の増加量も大蜘蛛の時より多い。


「大蜘蛛よりレベルの高い敵ってことか。あとは・・・あぁ〜スキルは覚えてなかったか」

新スキルをラーニングしていなかったことを残念に思っていると、不意に奥からすうっと滑る様に影の戦士が三体現れた。

影の戦士はいずれも臨戦体制に入っているのか既に両手に直剣を構え相対する。


「厄介だなぁ。よりにもよって三体一とは・・・。どれから倒そうかっ、なっ!!」

隙を伺ってキョロキョロとしている矢先に、影の戦士達が先手を打って影の手を放ってくる。

各々の戦士の脚元から伸びる影の手は二本ずつ、計六本の手が一斉に迫る。


「ちょ、ちょっと一斉に出すのは卑怯でしょぉぉぉ」

昔やっていた弾幕系シューティングのように弾幕が多いわけではないけど、弾幕と違って伸びる黒い腕の部分が周囲の視界を塗り潰すように遮って移動できる場所を狭める。


「クソぉぉ。手が邪魔すぎてアイツらに近づけないって!」

誘導ミサイルのように追跡してくる影の手を縫うように躱しながら、ようやく魔法『仇打つベフデティ』を展開し影の戦士達を視界にとらえる。


「この影の手を出している間は、アイツらあまり動けないのか!?・・・それなら!」

両手に直剣を構えたまま佇んでいる影の戦士達の動きを封じるため、選択したのは大蜘蛛との戦闘で学んだスキル『硬柔の魔糸マタイス』。


【スキル名とスキル効果】

『硬柔の魔糸マタイス』・・・魔力で糸を生成する。魔力量に応じて糸の硬さを変化させることができる。また糸を形成することができる。


一番近い影の戦士に狙いを定め両の掌の中央から網の目型の糸を連射する。

敵の誘導する攻撃を躱しながらの反撃で難易度が高いけど昔取った杵柄とばかりに小さい頃にやったシューティングを思い出し網目の糸を影の戦士達に当てていく。


「よしいいぞ!腕は錆びてないね」

『硬柔の魔糸マタイス』で影の戦士を一体行動不能にすると、一気にこのシューティングゲームの難易度が下がり残りの二体はさほど苦労も無くまとめて絡み取った。

身動き一つ取れない影の前に行くと、影の戦士達に両腕を向ける。


「それでは・・・。頂くぞお前の力を!『ドレイン・タッチ』!!」

糸塗れで身動き一つ取れない戦士達に容赦なくとどめを刺した。


「ふ〜〜。なかなかシビれる戦いだった。さて、お楽しみのステイタスはどうなったかな」

左上に視線を移すと前の戦闘より見るからに最大値が増えたHPとMPバーが目に入る。

続いて『スキル』の項目に視線を移すと新しい名称『束縛の影手デブライ』が追加されていた。


【スキル名とスキル効果】

『束縛の影手デブライ』・・・魔力で作った腕を任意の影から出すことができる。


「やった!これはあの帯状の影を出すスキルだ。これで新しいスキルは二つ。これで戦闘が楽になりそうだね。よしっ!この調子でどんどん先に進んじゃうぞ!!」

着実に成長している事への喜びと共にダンジョンの出口を探すため奥へ奥へ進んだ。

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※不定期更新です。

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