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俺はすでに死んでいる  作者: youka
第一章 チュートリアル
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第二話 ゲームスタート!

「さて・・・。どうすればいいのかな・・・」

狭い空間から落胆した声が響く。

声のトーンからして人間の姿であれば一人寂しく項垂れ肩を落とし佇んでる姿を想像しそうだが、実際は人魂なので空中にポツンと白い物体が浮いていて、はたから見ると単なる心霊現象にしか見えない。

さて、人魂である俺が今いる場所は三畳くらいの広さで四方岩壁に囲まれ、更に天井も床も全て頑丈な岩で閉ざされた所だ。どこかに隙間があるのではないかと周囲をぐるりと見回したが、そんな都合良くは見つからなかった。


「まさか、ゲームを初めて五分で詰まるなんて・・・。情けない!」

五体のうち頭脳以外は不自由な今の状態では周囲を目視することくらいしかできない。


「ゲームだとこんな時はフィールド上にアイテムが隠してあったり、持っている特技を使ったり・・・。あっ!」

そう言えばと一つ使えそうなものを思いつく。

急いで『ステイタス』画面から『魔法』画面を出して、魔法効果を確認する。


【魔法名と魔法効果】

『仇打つベフデティ』・・・魔力を念力に変換し、念力を凝縮して作った腕を自在に操ることができる。


「よし!この魔法で作った腕で壁を壊せるかもしれないぞ!あれ?でも、どうやれば使うことができるんだ、この『仇打つベフデティッ!?』」

魔法名を口に出した瞬間に人魂の尻尾の先が二股に分かれ半透明な白色の細い糸のようなものが伸びる。その二本の細い糸は人魂を中心に左右に分かれると、徐々に太くなり最終的には丸太のような太さで長さが2メートル程の半透明で青白いゴツい腕の形態になった。


「おぉ〜〜いいね!思ったよりかっこいい!」

左右の腕を魔法で作れたこと、そしてその出来が良かったことで思わず感嘆の言葉が出た。

続いて出来立てホヤホヤである腕や五本ある指が稼働するか試す。


「いいぞ!まるで自分の腕のように自在に動く・・・。これでこの密閉された部屋から出る手がかりを見つけられるかもしれない」

まず眼前にある岩壁に注意を払いながら腕を伸ばす。

岩壁に触れようと手を近づけると『バチィッ』という音とともに手が弾かれる。

岩壁の前に現れた見えない障壁によって岩壁に触ることができない。


「何だよこの見えない壁って!?これマジででれない系の部屋なんじゃ無いか・・・。なんだよ、チュートリアルもないのに難易度たかすぎだよ!」

弾かれる壁の位置を変え何度か触れたり叩いてみたけど案の定見えない障壁に阻まれ岩壁に触れられない。

この壁は諦めて気を取り直して他の岩壁の調査に移る。

同じように手で岩壁の色々な箇所を触れたり叩いたりとしている内に一つだけ障壁の無い岩壁を発見した。


「この壁に何かヒントがあるはずだ」

注意を払い岩壁に仕掛けがないかくまなく探したが見つからない。

こうなったら実力行使だとばかりに両腕に力を込め岩壁に対し拳を打ち込むが、少し岩壁が削れるだけでびくともしない。

それから何度も岩壁を破壊しようと挑戦しているが一向に壊れない。

ふと左上のMPバーが目に入る。MPがいつのまにか五分の一程減っている。


「この魔法って使用している間MPがずっと減るんだ。この先なにが有るか分からないから少しでもMPを温存しておかないといけないかな」

そう思って『仇打つベフデティ』を解除しようと思った瞬間に魔法の腕が消えた。


「思っただけで魔法を解除できるのか。魔法って便利だな〜。さてと、しかし持ってる魔法で壁の破壊ができなかったのは痛い・・・。けど、少しでも削れているという事は何度か試して行けば壊れるかもしれない。どれどれ今のでどれだけ壁を削れたんだ?」

岩壁を見ると集中的に叩いたところが少し窪んでいて所々に亀裂があるのも見える。


「あの亀裂の切れ目から壁の向こう側がみえないものか・・・」

岩壁に触れる距離まで近づくと亀裂の切れ目を覗き込む。


「うーん、なんか見づらいな〜。もう少しもう少し奥にいけないかな。エッ!?」

亀裂の奥を覗き込もうと零距離まで近づくと人魂の形をした身体が吸い込まれる様に岩壁の中をすり抜け広い場所に出た。


「えっ!?えっ!何がどうなったんだ・・・。・・・壁をすり抜けたんだけど!」

岩壁をすり抜けた驚きとようやく密閉された部屋から脱出できた喜びが湧いてくる。

よく考えたら人魂なんだし壁くらいすり抜けられて当然なのかもしれないが、それもこれも今の結果があったから分かったというものだ。

喜ぶのはこのくらいにして、今いる場所を見回す。先程の牢獄の様な場所とは違い今度は広い通路に出た。大小様々な岩があちらこちらに転がっていて高い天井からは岩でできた氷柱の様なものが何本もぶら下がっている。床も岩でゴツゴツしている。まるで昔行った鍾乳洞の中に似ているが、そことは違い人工的に作られた洞窟の様な感じがした。


「ようやくゲームを進められそうだ。多分ここがダンジョンのスタート地点なのだろうから、この通路を先に進めば出口があるのだろう・・・。いや待てよ!そんな面倒な事をしなくてもこの壁をすり抜けて行けば出口までショートカットできるじゃないか!?」

自身の素晴らしい考えを実行するため、眼前にあるゴツゴツした岩壁に躊躇なく突進する。

身体が岩壁に当たると『バチィッ』と大きな音とともに見えない障壁に弾かれ軽くノックバックする。そして少しの痛みが体に走った。


「痛って〜。どうなってんだ!どの壁でもすり抜けられるんじゃないのか!?」

すり抜けることによって簡単にこのダンジョンを攻略できそうだと思っていた甘い考えを軽く折られる。しかし壁が駄目なら天井や床もあるとばかりに特攻を試みる。


「おぉ!行けるのか!?って、いてぇぇぇ!」

壁とは違って岩で出来た天井や床には10cm程は潜ることができたが、そこまでいくと岩壁同様に見えない障壁に弾かれる。


「ダメか・・・。こうなったら無難にこの通路を進むしかない・・・」

ダンジョンのショートカットを諦め、眼前に見える通路の先にあるであろう出口を目指し進む。

周囲に気を配りながら岩しかない殺風景な通路を進んでいるうちにふとどうでもいい疑問が湧いた。


「何故周囲の景色が鮮明に見えるのだろうか?」

このダンジョンの壁には松明やランプの様な光源がない。ましてや天井からも光が差し込んでいないのに通路上のものが鮮明に見えているのだ。


「やっぱり人魂ともなると夜目がきくのだろうか・・・。最初は人魂ってなんだよって思ったけど性能を考えるとなかなか素晴らしい!」

一本道のダンジョンを順調に進んで来れた事で当初感じていた不安や緊張が少し溶け周囲や自身の事など考えられる余裕が出てきたのだろう。

一問一答しながら更に通路を進んでいくと今度は開けている場所を眼前に捉えた。


「できればあそこに手掛かりがあるといいなぁ」

ゆらゆらとゆっくり進み開けた場所の入り口に近づくと奥から甲高い叫び声が聞こえた。


「な、なんだ・・・」

恐る恐る開けた場所を覗き見ると体長一メートルはある大蜘蛛と体長1.5メートルほどの大ムカデが争っている。


「なんだあれ怪獣大戦争か!?それにしてもどっちもすげーグロいんだけど・・・」

部屋の入り口から息を潜ませて苦手な生物を形どった二体の怪物の動きを観察する。お互い牽制し合いながら決め手を欠いたまま戦いが長引くのかと思っていた矢先、大蜘蛛が網の目の細かい糸を吐き出しムカデを絡みとり動きを封じると、続け様に糸を吐いて大ムカデを蚕の様に巻き取った。大蜘蛛は何十本もある鋭い牙を持つ口を大きく開きグルグルに糸を巻かれたムカデに噛み付くと中身を吸い出し捕食しはじめる。


「うげぇぇ〜。気持ち悪ぅ〜」

大きな嫌悪感で心の奥底からゾワゾワと泡立つ感じが込み上げてくる。

しかしそれとは反対に捕食中の大蜘蛛の無防備な背中を見て、不意打ちのチャンスと思い直ぐに魔法『仇打つベフデティ』を展開すると大蜘蛛に向かって突っ込んだ。

『一撃で死んでくれ!!』と心中で願いながら右腕を打ち込む。

捕食中の大蜘蛛は何かを感じ取ったのか急に反転し俺の方に体を向け、丸い六つの目が俺を認めるとバックステップよろしく後方へ飛んで、攻撃を躱した。


「な、何!!」

岩で出来た硬い地面を俺の右拳が叩いたと同時に、大蜘蛛は飛んだ先にあった巨石に着地すると間髪入れずに俺に飛びかかってくる。


「くっ」

凶悪な口を大きく開いて迫る大蜘蛛の攻撃から本体である人魂を守るため左腕を盾がわりに前へ出す。大蜘蛛は容赦なく左腕に噛み付くと、噛み切ろうとしているのか腕から離れない。


「いってぇぇ」

魔法で生成した腕だというのに痛覚があるのかと思った矢先に、左上に突如HPとMPのバーが表示され、HPバーが少しづつ減少するのがわかった。


「HPの一割が削られてる!それとMPが三分の一くらいへっているぞ!」

継続ダメージで今も減っているHPバーと最初の部屋からの脱出時に無駄に使ったせいで思ったより少なくなっているMP。回復しないとこのままだと危険だ。


「でも回復って言ったってどうすればいいんだ。回復アイテムなんて持ってないぞ。どうすればいんだ!あっ、そういえば!!」

不意に自身のスキルが頭をよぎる。


「これなら回復もしつつ敵を弱体化できるぞ」

敵をしっかり見据え、左腕にしがみ付いている大蜘蛛の脚を右手で掴むと力を込め引き剥がす。そしてそのまま反対側の大蜘蛛の脚を左手で掴んだ。


「頂くぞお前の力を!『ドレイン・タッチ』!!」

両腕から心地良い温かいモノが流れ込んで来るのを実感する。それと同期したように左上のMPバーが見る見る回復していく。それと同時にHPバーも回復している。

そして大蜘蛛はというとバタバタと激しくもがきはじめた。


「『ドレイン・タッチ』はHPやMPを選ばないで使うと自動的に両方を奪うのか!?」

スキルの効果を考えているうちにバタバタともがく大蜘蛛の身体は灰色へと変色すると、だんだんと薄くなり遂には白色になった。そして『ピキィッ』と甲高い音がなった後に『ガシャンッ』とガラスが砕けたような音を響かせた。同時に大蜘蛛は粒子の細かい砂のように粉々に砕け散り地面へと降り注ぐ。


「フゥ〜〜。初戦にしては頑張った方じゃないか」

自画自賛しつつ粉々になった敵の屍を観察する。


「何もないか・・・。残念」

戦利品がないかと思ったがそれらしい物は目に入らなかった。


「え〜と、思った通りHPもMPも回復してって!?え、えぇぇぇ!!!」

左上に表示されているHPとMPバーが満タンになったどころか最大値が少し増えてバーの長さが伸びていた。


「これも『ドレイン・タッチ』の効果なのか?それともレベルがあってそれが今の戦闘で上がったのだろうか・・・」

急いでステイタスを見直したが『レベル』という項目は見当たらなかった。しかし『スキル』の項目に新しい名称『硬柔の魔糸マタイス』が追加されていた。


【スキル名とスキル効果】

魔力で糸を生成する。魔力量に応じて糸の硬さを変化させることができる。また糸を形成することができる。


「ふむふむ、レベルは無かったから『ドレイン・タッチ』の効果ということにして・・・。それよりも新スキルをゲットだぜ。スキル効果からして蜘蛛の糸を使えるという事だろう。ラーニングって素晴らしいスキルだ」


新スキルを獲得したことも良かったけど、それよりダメージは少し負ったが今の俺の実力で問題無く倒せる敵だと分かったことで、このゲームを進めていけるという自信を得た事が非常に良かった。


「よしっ!ダンジョン攻略のためにこの調子でどんどん先に進むぞ!」

自信をつけた俺はこの巨岩だらけのダンジョンの先へと進んだ。

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