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4.暇なのでやることを探してみる


「あの、レティシア様。本当にお医者様に見て頂かなくていいのですか?」

「いいって、大丈夫、大丈夫。もう十分元気だし」

「ですが、その、記憶は未だに戻られていないのでしょう?」


 ルイザは心配げに私を見る。三日三晩高熱を患った私は記憶を失ってしまった。そうルイザが推測するのも無理なかった。

 本当は前世の記憶を思い出したからだけど。実際もとの記憶は不鮮明なままだし、否定しないことにした。それに自分で思い出すよりもルイザに色々説明してもらった方が楽なのだ。


「それで確認なんだけど、この離宮にいる半年間。私はここで何をしてもいいってことになっているのよね?」

「はい、アルフガルト王は最初にそう仰っていました」

「そう、じゃあ、何をしましょうか?」


 やることがなくて正直暇だ。陛下にだめもとで面会を求めたがあっさりと「陛下は多忙だからと駄目だ」と、陛下の使者とやらに断られてしまった。これからも陛下に会えるように行動はしていくつもりだけど、それしかやらないのはいくらなんでも暇すぎる。

 前世では仕事づけの毎日を送っていたのだ。何もしないでのんびり過ごすなんて、私には無理!

せめて時間をつぶせることを探さないと。そう思い、私は離宮の中心にある中庭を散策していた。

 前世の私はいわゆるアウトドア派の人間だった。山に川に海に、とにかく外に出まくって遊びまわった。その為、離宮の中で大人しくしているようなものは私には向かない。

 スポーツとか大好きだったし、せっかくなら身体を動かすようなことをしたい。そう思って、とりあえず庭に出てみたのだけど。


「うーん、何も思いつかないわね」


 そもそもここには何もない。どんなスポーツをするにもやはり道具は必要だ。ここにあるのは綺麗な花と木ぐらいしかない。


「やっぱり花を育てるぐらいしかやることないんじゃないかな」


 私の言葉にルイザは「だめです」と即答した。実は真っ先にガーデニングとかいいんじゃないかと思ったのだが、それはすぐルイザに反対された。

 そもそもこちらの国では貴族が自分で花や木をいじったりすることはないらしい。主な理由は服や身体が汚れるかららしいが。

 それでも諦めきれず、庭にいた庭師達に自分もやってみたいとお願いしたのだが、速攻で断られた。

まあ、当然といえば当然で。私が下手なことしてこの庭がとりかえしのつかない状態になったら、責任は全て庭師にいってしまう。ルイザにも人の仕事をとるなと怒られ、ちょっと反省した。という訳で誰にも迷惑がかからない暇つぶしを探している訳なんだけど。


「やり投げとかならできるかな」


 やりを木の枝で代用して。どこまで飛ぶか試すとか。うーん、でも地味だな。せっかくやるならもっとぱっとするものがいいな。

 真剣に考えていると「何を言ってるんですか」と、ルイザが呆れたように言う。その目は大変厳しい。無言で変なことするなという圧力を感じる。私はさっと顔をそらし、その圧力から逃れる。

 無駄よ。そんなことしても私は屈しない!


「そもそも別にスポーツじゃなくてもいいわよね」


 もとが無類の運動好きだったから、ついついその思考になってしまったが、時間をつぶせればようは何でもいいのだ。

 私は前世の昔を思い出す。子供時代。確かたいしたものがなくても毎日夕方になるまで遊んでいたはずだ。確か、何をしていたっけ?


「けんけんとか?いや、さすがにそれで何時間も時間を潰すのはきついよね。あとは、ほかになにがあったかな?」


 そんなことを考えながら歩いているとふと庭のすみに見慣れた花を見つけた。


「これは!?」


 そう思って、その花を見る。白くて小さな花がたくさん群れになって咲いている。これは前世の記憶にあったシロツメクサという花に似ている。周りにある葉は三つ葉ではなく二つ葉だけど、あとはだいたい同じように見える。


「ねえ、ルイザ。この花って何?」

「それはシロナの花です。いわゆる雑草のたぐいで、どこにでも生えていますが、特に害はありませんよ」


 そう、雑草ね。なら抜いてもいいわよね。私はシロナの花のすぐそばに座る。ルイザがああっと悲鳴に近い声をあげた。おそらくドレスが汚れたのを気にしているのだろう。でも、私は気にしない。服など汚れる為にあるのだ。

 私は構わず、シロナの花を摘む。白い小さな花をいくつかとり、そしてそれを昔やったように編んでいく。その繰り返し。

 単調な作業だが、こういうちまちました作業はやっていて楽しい。しばらくして花の冠ができあがった。


「できた!」

「あの、姫様それは?」

「じゃーん、花の冠よ!素敵でしょ?」


 私はそう言い、その冠をルイザにかぶせる。ルイザは驚いたような顔をしたが、ふと優しく笑う。うん、笑えばやっぱりルイザは美人だ。下手すると私より美人かも。それはちょっと主人としては悔しいけど。


「ありがとうございます姫様」

「いいわよ、お礼なんて」


 ただの子供遊びだ。雑草で作ってるし。私は再びシロナの花を摘む。今度は長めに編んでネックレスにしよう。そう思って、編んでいるとそんな私の様子を見てルイザは不思議そうな顔をする。


「あの、姫様。いったいどこでそんなものの作り方を覚えたのですか?」

「えっと、今思いついたのよ!今、ぱぱっとね!」


 さすがに一国の姫君がいくら幼少時代とはいえ、花の冠は作らないだろう。私はあいまいに答えながら、あとはもくもくと花を編むことに集中した。







 夢中になると時間を忘れる。

 前世の私は昔から集中すると時間を忘れるところがあった。そう、あと少し、あと少しそう思っているとあっと間に時間は過ぎていき、気付けば朝だったなんてことが昔から結構あった。なので、こうなったのは仕方ないと思う。

 私は目の前にあふれんばかりに並ぶシロナの花の冠を見て、あははと乾いた笑みを浮かべる。隣にいるはずのルイザは何も言わない。今、間違いなく無表情で私を見下ろしているに違いない。絶対怖いから見ないけど。


「ちょっと作りすぎちゃった?」

「ちょっとですって!?」


 ルイザのきつい声が飛ぶ。もう、そんなに怒らないでよ。まったくルイザたら、短気なんだから。

 ちょっと作り過ぎちゃっただけじゃない。ちょっとのめりこみ過ぎちゃって、気付いたらお昼ご飯食べ忘れちゃったけど、気付いたらもう日も傾いてるけど。ちょっとのことじゃない。ね?

 そう言ってルイザを見れば、何故かルイザは頭を抱えていた。


「どうしたの?頭でも痛いの?」

「ええ、どうして姫様がこんなことになったのか。考えるだけで頭が痛いです」


 はい、はい。始まりました。ルイザの小言が。こういうときは適当に流すのが一番だ。そう思っているとふと後ろから「あの」と声をかけられた。

 振り返れば、そこには最初に私が花を育てたいと頼みこんだ庭師が立っていた。

 くるりとした軟らかそうな黒髪に見とれる程のさわやかな笑み。そこまで年はいってなさそうに見えるが、彼は庭師のなかでも偉い立場にいるらしく、他の庭師に命令している姿を昼間見かけた。


「あの、姫様。それは何ですか?」


 そう言って、彼は私がもつ花の冠を興味深げに見る。

 あれ。もしかしてこの世界に花の冠ってないの?それは確かにルイザに怪しまれるわ。失敗したな。まあ、もうやっちゃったことは仕方ないけど。

 私は興味深げにこちらを見てくる彼に花の冠を見せてあげる。


「これはシロナの花で作った花の冠よ」

「シロナの花でそんなものが作れるんですか?」

「ええ、まあ。良ければあげるけど」

「え!?いいんですか!?」


 彼は嬉しそうに私からシロナの花の冠を受け取る。まじまじと見て、感激したような声をあげる。


「こんなの見たことないですよ。さすが他国のお姫様はやっぱり違いますね」


 そう言って、目を輝かせる彼に私はにこやかに笑って答える。隣ではルイザが先ほどから激しく首をふっている。こんな姫君がいてたまるか。そんな彼女の内心の声が聞こえる気がしたが、うん、気にしない。実際聞こえてないし。


「良ければ作り方を教えるけど?」


 私がそう言うと彼は驚いたような顔をして、「いいんですか」と嬉しそうに笑う。本当にすごい、さわやか。某教育テレビの体操のお兄さんと雰囲気がよく似ている。

 そんなことを思いながら私は彼にシロナの花の冠の作り方を教えた。彼は非常に飲み込みがはやく、少し教えるとすぐに覚え、花の冠の作り方を覚えた。ただの花の冠だけど、それを嬉しげに見ている彼を見て、なんだか私もいいことした気分になれて嬉しい。

 しばらく自分で作った花の冠を嬉しげに彼は見ていたが、ふと私の方に視線を向ける。


「あの姫様」

「なに?」

「朝に花を育てたいと仰っていましたが、どのような花を育てたいんですか?」

「え、あ、特に育てたい花はないの。ただちょっとやってみたくて」

「花を育てるのをですか?せっかくのドレスが汚れてしまいますよ?」

「それは大丈夫。私は気にしないから」


 後ろでルイザがわざとらしく咳払いしたが、私は聞かなかったことにした。


「では、アレクサの花をご用意しますよ。とても育てやすい花で、初心者でも育てられますよ」

「え、いいの!?」


 朝は即答で駄目だって言っていたのに。私が驚いて彼をみれば、彼はにこにこして頷く。


「私のようなしがない庭師にこんな素敵なものを教えて頂いたんです。こんなものではお礼になるかわかりませんが」

「いや、十分よ!」


 私は思わず拳を振り上げガッツポーズをとる。

 すぐさまルイザから「姫様!」と非難する声が飛んだが、気にしない。そんな私たちを彼は変わらず笑顔で見ている。


「私はこの離宮の庭を任されています。ツヴァイと言います。よろしくお願いします」

「こちらこそ!花を育てるのは初めてだからいろいろ教えてね!」


 ツヴァイはもちろんですと言って、にこやかに挨拶し、その場を去っていた。花は数日以内に届けてくれるらしい。すごい。やってみるもんだわ。


「ルイザ。世の中にはいい人がいるものね」

「とりあえず、姫様は今すぐお風呂に入って、そのドレスを着替えて下さい」


 もう、せっかくいい感じにまとめようとしたのに。ちょっとぐらいの汚れがなによ。私がそう言うとルイザの怒声が飛んだ。


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