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3.私は恋愛がしたい


「まあ、騒いだところでどうにもならないわ」


 私の良いところはすぐに気持ちの切り替えができるところだと前世の友人達も言っていた。そう、私は気持ちを切り替えることにした。

 もう起こったことは仕方ない。大事なのはこれからだ。結婚式まであと半年。それだけあれば、きっと大丈夫。

 この半年間で私は陛下とラブロマンスの様な恋愛をしてみせる!そして結婚するその時には、誰もが羨むような、そんな夫婦になってみせるのだ!

 そう意気込むことにした。


「ねえルイザ」

「なんですか?」


 ただ声をかけただけなのにルイザは警戒心をあらわにし、私を見る。

 最近のルイザはずっとこうだ。私が何か変なことをしないか、常に気を張っている。それまでの記憶が曖昧になり、前世の記憶が色濃くよみがえった今、どうやら私の人格は以前のレティシアよりも前世の私の人格に近くなってしまったらしい。

 それまでの淑女のような女性像はきえ、全くの別人となった私に、ルイザはこれ以上ないほど気を張っている。

 私がばかなことをしでかした際、すぐに止めに入れるように。

 そんなに心配しなくてもいいのに。子供じゃないんだから。怒られるようなことなんてそうそうしないのに。

 するとしたら、もっと別のこと。そう、例えば。


「陛下に会うにはどうすればいいの?」


 私の一言にルイザが目を丸くする。どうやらその言葉は予想外だったらしい。とはいえ、そんなに驚くことだろうか。将来、自分の夫になる相手だ。会いたいと思うのは普通でしょう?


「姫様、本当にどうされたのですか?」

「私が陛下に会いたいって思うのはそんなに変なことなの?」


 だって、まずは会ってみないことには相手がどんな人かわからない。

そもそも出会わなければ恋愛は始まらない。いくら恋愛未経験の私だって、それぐらいはわかる。だから手始めに会ってみようと思ったんだけど。

 ルイザは言いにくそうな顔をして、私を見る。


「レティシア様。それは非常に難しいかと思います」

「なんで?」

「レティシア様はウォンデルト王国の王女様でございます」

「ええ、知ってるわ」

「アルフガルト王国は隣国ではありますがその差は歴然で、比べものにならない程大きな国なのです」


 うん?どういうこと?

 ルイザの言っている意味がわからず、全く状況を飲み込めない私に、ルイザはとても丁寧に説明してくれた。

 要約すると、私の祖国であるウォンデルト王国は古くからある王国ではあるが、規模はそんなに大きくないらしい。それに比べアルフガルト王国は世界の5大国に入るほど大きな王国であり、そこの上下関係は既に決まっているという。

 つまりだ。本当にこの結婚、政略結婚以外のなにものでもなく、おそらくというか、結婚式をあげても私と陛下は表向き夫婦になるだけで、陛下はすぐ側室を何人かもち、好き勝手に暮らしていく予定らしい。

 あー、悲しいかな。そこにやはり愛はない。


「なるほど。それで陛下は私に一度も会いに来てくれないのね」


 そりゃあ、そうだ。形だけの夫婦になる相手にわざわざ会おうとは思わないだろう。

 まあ、少しぐらいは気にしてくれてもいいと思うけど。


「まさか、会うところから難渋するなんて!」


 こっちは恋愛初心者なのに!もう少し優しくしてくれても良くない!?初めてがいきなりレベル高くない!?

 そう嘆く私にルイザはぽつりとつぶやく。


「しかし、いったいどうされたのですか?あんなにも陛下に怯えていたと言うのに」

「ええ!?おびえた!?私が!?」


 そ、そうだっけ?そんな記憶、あるような、ないような?


「え、まさか。陛下ってそんなに怯えられる程、顔が悪いの?もしかして実は相当な悪人顔だったりする?」


 まさか、そんな。このファンタジー世界は実は顔の偏差値が結構高い。ルイザもそうだが侍女にしろ、騎士にしろ、この城に仕えるものは皆無駄に顔がいいのだ。

 だから当然、陛下も顔がいいと勝手に思っていた訳なんだけど。

 まさか、実は顔が相当不細工とかないよね?いや、顔がどうとか今更いう訳じゃないんだけど。愛を前に顔なんて些細なものだし。でも、やっぱり毎日見るならそれなりの顔がいいっていうのは、世の女性なら思うところで。いや、全然いいんですよ!?どんな悪役顔だって愛せるか!いや、愛してみせるから!

 そう無駄に意気込む私にルイザは呆れた様な顔をする。


「まさか陛下の顔もお忘れなのですか?陛下はとても端正な顔をされていますよ。女性であれば見惚れぬ者などいないでしょう」

「そうなの!?」


 え、ちょっと、そこまで言われると余計に気になるわ!こういうとき記憶がないと不便!一度会ったことがあるはずなのに、相変わらず私の記憶は不鮮明で、陛下の顔など一切思い出せない。


「じゃあ、なんで、私は怯えてたの?」


 私の問いかけにルイザはちらりと周りを見る。この部屋には今、私とルイザの二人っきりしかいない。しかし外には護衛の騎士達が控えている。そんな人達の目を気にしてか、僅かに声をひそめ、ルイザは言った。


「その、お顔はいいのですが、雰囲気といいますか、少々威圧的といいますか。笑顔とかもなく、常に厳しいお顔をしていまして。まあ、一国の王である方ですから、当然と言えば当然ですが」


 つまり、顔はいいけど雰囲気すっごく怖いんだ。あー、やだな。大丈夫かな。私、そういうタイプの人って、苦手なんだよね。その辺は記憶を思い出す前の私と同じか。

 それでも、私は諦める訳にはいかない。今度こそはと思ったのだ。今度こそ恋愛を思いっきりしてみたいと。絶対にその思いを叶えてみせる。

 言っておくけど、前世の私は仕事でも何でも途中で諦めたことなんて一度もないんだからね!


「となると、まますます陛下に会わないと」


 まずは陛下が私に興味をもたないと恋愛なんて始まらない。どうすればいいんだろう。私は考え込む。


「あー、こんな時に自分の容姿が悔やまれるわ。もしも絶世の美女とかだったら、とりあえず会いにきてくれたかもしれないのに」

「そんなことないですよ!姫様は大変可愛いらしい容姿です!」


 うん、お世辞をありがとう。

 私はちらりと鏡を見る。自分の顔を見て、それからルイザの顔を見て、大きなため息をついた。

 こんなファンタジー世界に来たのだ。最初、当然自分の顔がどうなっているか気になった。だって、仮にも王女様なんだから、きっと美人に違いない。そう思って意気揚々に鏡を見たんだけど。

 鏡に映った自分を見て、私は思わず、がっくりと肩を落とした。確かに可愛いほうではあるとは思う。ただ、なんというか、思ったよりではない。

 まん丸な大きな目に整った形のよい眉。しかし顔の彫りがいまいち薄く、ルイザに比べるとその顔はひどく幼く見えた。

 亜麻色の長い綺麗な髪をしているが、くせっけなのか、やたらとくるくるとまかれ、はねている。

 しかもこれはなんだか。


「子犬に似てる気がする」


 そう、子犬。大きな目にこの髪色。そして髪のはねた感じが犬の耳や毛の様に見える。しかも、身体もこの顔にあったもので非常に可愛らしい身体だ。少なくともルイザの方が何倍も女性の色気にあふれる身体をしている。

 たしかにこれに恋愛感情をもてるかと言われれば、ちょっときついかもしれない。どうみても可愛い子供にしか見えない。


「えっと、私っていくつだっけ?」

「16になられました」


 16って、犯罪じゃん。いや、私の国では16で成人扱いされるらしいから全然大丈夫なんだけど。


「えっと陛下の年齢は?」

「今年で28になられたと聞きましたが」


 一回りぐらい上か。まあ、こっちの世界ではこれぐらいの年齢差珍しくないらしいんだけど。でも、そっか、これは……。


「陛下がロリコンであることを願うしかないわ」

「ろり、なんですか、それ?」


 首をかしげるルイザに私は苦笑いを浮かべる。意味は知らなくていいです。



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