表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

最近追放され過ぎじゃない?

最近追放され過ぎじゃない? って思ってたら自分も追放されたけど、その先で追放された貴族令嬢に出会いました。2

作者: Yuki@召喚獣

前作はこちら

https://ncode.syosetu.com/n5493ev/


 勇者だなんて、笑わせる。僕は自分一人では何も成せないただの弱者だ。

 大切な仲間に傷を負わせ、自分はのうのうと生きながらえている。

 もっとちゃんと伝えた方がよかったのかもしれない。穏便なことの済ませ方もあっただろう。

 僕はカーの事を認めていたし、好きだった。今はまだ僕の方が【勇者】のスキルのおかげで強くても、いずれは追い越されていただろうことは明白だ。スキルには成長限界があって、勇者のスキルに縛られる僕ではその成長限界を超えることは出来ない。

 それは剣聖だろうが聖女だろうが変わらない。スキルに縛られず、己の実力を伸ばし続けたカーがいずれ最強たり得るだろうことは明白だった。

 だが、それでは足りない。古の魔王を倒すためには、ただ単にカーが強くなるだけでは足りなかった。

 シャオの【預言者】のスキルは正確で、その未来視が外れたことは無い。

 だからこそ、アレは必要な事だったのだと自分に言い聞かせる。

 カーには負担をかけた。シャオに至っては恋人を裏切るという役目を背負わせてしまった。

 全て僕の力不足が招いた事だ。償っても償い切れないだろう。

 でも、だからといって止まっている訳にはいかない。カーが立ち直り、あの令嬢と力を手に入れるまで。

 せめてその間くらいは、僕が世界を守ろう。

 その後は、済まないけど、頼んだよ。






「カー。今夜はンナギでも食べましょうか」

「どうした突然に」


 冒険者組合の待合室で待機していると、シャルロッテがそんなことを言ってきた。

 窓から射し込む光を反射して輝く銀髪は肩口で切り揃えられており、毛先が軽く内側にカールしている。大きな目に、丸い瞳。どこかのお姫様然とした顔立ちと雰囲気を持った、少女と女性の中間位の女性は、一年と半年ほど前から一緒に行動しているパーティメンバーだ。

 そのお姫様みたいな雰囲気にもかかわらず、身を包むのは実用性重視の女性用冒険者装備だ。


「いえ、ちょっとアレを見てたら思い浮かびまして」


 そう言いながら指差す先にあったのは、一冊の本。というか雑誌だ。

 「恋人と過ごす記念日特集! デートスポットから夕食、夜のあれやこれやも!?」なんて言う、なんと言うか頭の悪そうなタイトルの雑誌だ。

 まあ冒険者なんてやってる奴らはお世辞にも品行方正なお坊ちゃまお嬢様では無いので、あの手の雑誌が置いてあるのも全く不思議ではないのだが。


「なんてもの見ながら思い浮かんでんだよ」

「ンナギは精がつくというではないですか。今日は特別混んでて部屋が一部屋しか取れなかったのですし、せっかくなのでと思いまして」

「何がせっかくなんだよ何が」


 出会った当初に比べてだいぶ口調も軽くなって、お互いも相当打ち解けてきている。

 それで分かったことと言えば、王妃候補と言われ、品行方正の代名詞めいていたシャルロッテが、実は結構俗物的で、ああいう色恋の雑誌とかも好んで読む、年頃の女の子だったということだろう。

 いや、まあ、たぶんその辺の町の女の子よりも余程積極的ではあるのだが。


「約束ですよ、ンナギ。クエストから帰ってきたら二人で食べましょうね」

「はいはい」


 俺とシャルロッテがどんな関係になったかなんてことは、今ここで言うべきではないだろ? そうだろ? 周りの視線がとっても痛いんだが?

 シャルロッテと何気ない会話をしているように装いながらも、周りからの嫉妬の視線(殺気)に耐える。ここでこんな会話をすべきでは無い。

 「コロス……」「魔物より先に俺がコロス……」「夜道に気を付けるんだな……」「ケッケッケッ……」

 女日照りの冒険者が視線だけで人を殺せるんじゃないかというような目で俺を見ているからな!

 くそっ……! いつまで待たされるんだ!

 はやく来てくれー! 間に合わなくなっても知らんぞー!


「カーさん、シャルロッテさん。確認が取れましたので受付までお越しくださーい」


 なんて、受付の人からの呼び出しが来るまで、その状態は続いたのだった。






「それで? 今回このクエストを受けたのは飛龍の身体構造を調べたいから、だったよな?」

「ええ、そうですわ」

「何でまた飛龍なんか? だいたい、飛龍の事なんてその辺の本屋で魔物図鑑でも借りりゃわかる事なんじゃないの?」


 そう言いながら俺とシャルロッテは飛龍の巣に向けて街道を歩いていた。途中までは組合の馬車で運んでもらったのだが、飛龍の巣に近づいてきた所で下ろしてもらった。

 クエストの内容としては単純明快で、街道近くに巣を作った飛龍の討伐って所だ。

 飛龍自体は別に珍しい魔物でもなく、さっき言った通り街の本屋で売ってる魔物図鑑に情報が載ってる程度の魔物だ。

 ただ、強さとしてはやはり龍と言うだけあって、魔物の中でも上位に位置する強さではあるのだが。


「魔物図鑑なども勿論読みましたが、それでは分からないこともあるので。これはやはり直接見てみないことにはどうにもならないと思いまして」

「分からないこと?」


 シャルロッテは腰のポーチから魔物図鑑を取り出す。「借りるのではなく買ってしまいました」なんて可愛らしく言っているが、それ一冊とんでもない値段するんじゃなかったっけ……? まあ、別にそれで金欠になるわけじゃ無いけどさ……。

 金銭感覚という点において、シャルロッテの感覚は貴族時代の感覚が抜け切れていない。


「魔物図鑑には飛龍の生態やら、攻撃方法やらは載っていますが、どうやって空を飛んでいるかは書かれていなかったので」

「空の飛び方?」

「ええ。空の飛び方です」


 そう言いながらシャルロッテは飛龍のページを開く。そこにはシャルロッテの言う通り、飛龍の生態や攻撃方法、弱点等々結構細かく書かれていたが、確かに飛び方だとか、そういったことは書かれていなかった。


「だから直接見て、体の構造を調べようかと」

「どうしてまた、飛び方なんて調べようと思ったんだ?」


 そういった俺の問に、シャルロッテはパッと輝く笑顔になって俺に言った。


「空を飛んでみようと思ったからですわ!」


 その顔は出会った時のような興奮に彩られたような顔で、今までの期間でも何度も見たような顔でもあった。

 この顔をすると、シャルロッテは引かないんだよなぁ……なんて思いながら、俺達は飛龍の巣の目の前まで来ていた。






「5……4……3……2……1……」


 シャルロッテのカウントダウンに合わせて、目を閉じ耳を塞ぐ。飛龍はまだこっちに気づいていないので問題は無い。

 直後に目を閉じていても感じる強い光と音の衝撃。

 シャルロッテ特製の「フラッシュバン」が飛龍の巣に投げ込まれたのだ。

 激しい光と音によって敵の視界と耳を一時的に麻痺させるフラッシュバンは、俺と行動するようになって直ぐにシャルロッテが作った便利な道具だ。

 中心に俺の魔力を込めた魔石を嵌め込み、光と音を拡散させる金属製の円柱状の爆弾だ。

 光と音を拡散させる形状のために、どの形が一番効率がいいかとかシャルロッテが必死に計算していた記憶があるが、俺にはさっぱりだった。


「首を落とすだけにしてください。翼や内蔵は傷付けないようにお願い致しますわね。調べられなくなってしまいますので」

「了解」


 光が収まり目を開けると、突然目と耳を潰され混乱して暴れる飛龍の姿があった。

 腕から皮膜が伸びていて、翼になっている。顔は面長で頭頂部には角のような鶏冠のような物が生えていて、シャルロッテはその姿を見て「プテラノドンみたいですわ」なんて呟いていた。


水刃(ウォータ)


 剣に水刃の魔法を纏わせる。別に飛龍が水に弱いからなんてことはない。

 水、というものはとてもよく切れる物なのだそうだ。もちろんそのままでは物を切る所ではないのだが、細く、勢いよく噴射させることによって硬い鉱石すら両断出来るらしい。

 という話を元に、シャルロッテと一緒に作ったのがこの水刃の魔法だ。

 薄く剣に纏わせた水を、高速で振動させながら回転させる。これでシャルロッテ曰く「ウォーターカッター」と同じような状態を作り出し、切れ味を抜群に上げるのだ。

 この魔法の凄いところは、別に剣じゃなくても使えるということだ。なんならその辺に落ちてる木の棒とかでも使える。まあ棒だとすぐ折れちゃうんだけど……。


「よっと」


 一息で飛び出し、飛龍の目の前に立つ。まだこちらに気づいていない飛龍の首を両断する。

 悲鳴をあげることも無く、飛龍の首は地面に転がった。


「流石カー。今日も全く危なげなく終わりましたね」

「まあ、今更飛龍程度でどうこうなることは無いけど。巣の中の卵は?」


 シャルロッテの目的は飛龍の体。だが、一応冒険者組合を通してクエストを受けているので、飛龍の巣をどうにかしなければいけない。


「そのまま持ち帰って組合にお渡ししましょう。卵から育てれば騎乗用の飛龍になるでしょうし」

「それもそうだな。じゃあ俺は卵を持ち帰る準備するから、その間にシャルロッテは飛龍の体調べといてよ」

「了解ですわ」


 草やら木の枝やら、中には人の骨やらが材料になって出来ている巣の中から、卵を幾つか取り出す。飛龍自体は背中に人が二、三人乗れそうな大きさだが、卵は一つ一つが手のひらより少し大きい程度だ。

 それを割れないように柔らかい布で包んで、持ってきていた鞄に入れていく。

 そんなに時間はかからずに作業は終わり、手持ち無沙汰になった俺はシャルロッテの方を向いた。

 シャルロッテは飛龍の体に手を当てて、目を閉じている。

 シャルロッテ自身には魔法が使えず、戦う力も大してないが、スキルが無い訳では無いのだ。

 シャルロッテがしょ有するスキルは【解析者】。触ったもの、近くで見つめているものを解析するスキルだ。何故、を読み解くシャルロッテに相応しいスキルと言えるだろう。

 集中して飛龍の解析を進めるシャルロッテの姿はどこか侵しがたい雰囲気だ。元々貴族風の近寄り難い雰囲気もあったが、スキルで読み解いている時のシャルロッテは神秘的で、絵画の題材になっていても全くおかしくないような、そんな感じだ。

 傾いてきた陽射しが、シャルロッテの銀髪を赤く照らしていく。一瞬時が止まったような気がしてはっと息を飲む。──と、同時にシャルロッテの瞳がスっと開かれた。


「終わったのか?」

「ええ。知りたいことは全部手に入れましたわ」


 手を離し、こちらに振り向きながらシャルロッテはそう言った。


「そりゃよかった」

「ありがとうございますわ。でも、それよりも──」


 ずいっとシャルロッテが近寄ってくる。

 いきなりシャルロッテの顔が目の前に来て、半歩後ずさる。


「カー、今あなた私に見とれていましたね?」

「は? お前、何言って──」

「ふ、ふふ……カー、あなた、私に見とれていましたね!」


 楽しそうに笑うシャルロッテに、思わず狼狽える。見とれてたとか、なんでそういう話になりますかね!?


「何繰り返してんだよ! そんなわけねーだろ!」

「今夜はピンク色の枕を用意しておきますので……!」

「何の話だよ!?」

「今夜のンナギ、楽しみですわね?」

「まて! 話が見えない!」


 なんて話をしながら、俺とシャルロッテは帰路につく。

 離れる前に飛龍の死体と巣は火炎の魔法で燃やしてきた。

 取り敢えず、今回のクエストはこれで終わりだ。

 こんな街道に飛龍が出るなんて、やっぱり魔王の影響なんだろうな。もう俺には関係ないけれども。

 ──大丈夫だろうか。






「ちなみに、なんで空を飛ぼうなんて? ていうか飛ぶだけなら自分で言ってたけど、騎乗用の飛龍に乗ればいいだけなんじゃ?」

「この世界のライト兄弟になりたかったから」

「ライト兄弟?」

「──というのは嘘ですが。生物に乗っては安定した飛行などとても望めなかったので、自分で飛行機を作ろうかと思いまして」

「飛行機って、前言ってた人を乗せて飛ぶ鉄の塊だっけ?」

「ええ。まあ、この世界であの飛行機を作るのは無理そうなので、飛龍の翼や魔力の使い方等を参考に、オリジナルの飛行機を作ろうかなーと」

「で、作れそうなの?」

「もちろん! ──カーが協力してくださるならば、ですが」

「協力するに決まってるだろ。そういう約束だ」

「流石カー! ありがとうございます! 二人乗り用の立派な飛行機を作ってみせますわ!」

「ほ、ほどほどにな……」






 視界が真っ赤に染っている。頭か、額か。裂けて血が流れて、それがどうやら目に入ったらしい。

 目の前には魔王軍の幹部が倒れている。やっとの思いで倒した相手だ。

 とても強力な相手だった。数々の魔法を駆使し、接近できたとしても鉱石のように硬い爪でこちらの剣が弾かれてしまう。

 勝てたのはまさに幸運だった。僕と剣聖と聖女でなんとか隙を作り、戦闘中にシャオの未来視を起動させることによって、未来での敵の弱点を得ることでそこを攻めたてた。

 シャオがいなければ負けていた。

 カーがいれば、もっと楽に勝てたのは明白だ。

 だが、それでは駄目なのだ。

 僕の成長は、もう限界に近い。

 カーを追い出して一年と半年程だろうか。戦闘は以前よりも格段に難しくなった。

 皆のフォローをしてくれていたカーがいなくなったのだから当然だ。だけれども、僕達は頑張るしかなかった。

 仲間を一人引き入れようかという話にもなったが、結局は引き入れていない。カー程の実力者などそうそう見つかるわけが無いし、その上僕達のフォローをしてくれるなど期待もできない。

 カーは、ちゃんと成長してくれているだろうか?

 君のそばに居る人は、常識を壊してくれる人だろう?

 大丈夫。カーなら、やってくれるはずだ。


「レオナルド、大丈夫?」

「大丈夫だ。こんなところで負けるわけにはいかないしね」


 シャオが話しかけてくる。シャオも疲労困憊で、人の心配をしている場合じゃないと思うのだが。

 あれ以来、シャオは極端に笑わなくなった。

 それはそうだろう。自らの恋人を裏切るような真似をしたのだから。

 あんなことをしておいてなんだが、シャオはどうにかしてやりたいと思っていた。僕はいい。だが、シャオはあまりに可哀想だ。

 剣を杖代わりにして立ち上がる。

 いつかまた、カーと会う日が来るだろう。

 その時、カーはどんな反応をするだろうか?

 出来ることなら、シャオの事を許して受け入れてやって欲しい────。

ふと思いたったので書きました。供養供養……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 無理やりな感じがかなり強いが、これもありなのかな。
[一言] 面白かったです。 主人公パーティーと勇者パーティーの再開シーンが四でみたくなりました。
[気になる点] 予言云々は流石に無理を感じたな 後話が中途半端 いい作品になるとおもったのに惜しいなぁ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ