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八島に捧ぐ鎮魂歌  作者: 倍金満
第一章 覚醒・始動編
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第五話 覚醒 後編

 米久は自分でも驚くほど冷静だった。目の前が急に真っ白になったかと思うと片手に軍刀が握られているにも関わらずだ。

 

 というのも自分がこれを出したのは「()()()」に分かったからであった。 

 

 なぜこんな物を出せているのかは分からない。男のうち一人が女性の死体を弄ぶように銃弾を放ったからなのか、そもそもそれ以前の蛮行に我慢がならなかったからなのか……。


 米久は目を腰元に左手で掴んでいる軍刀に移す。

  

 自分が普段、使っている支給品の皇國陸軍の「三十二年式軍刀 乙」である。

 

 洋風のサーベル型の柄と和風の刀身が(さや)には収まっている和洋折衷の刀だ。

 


 軍刀は通常、将校や士官、最低でも曹長以上でないと帯刀できない。

 しかし皇国陸軍では騎兵・憲兵といった特定の兵科に属する者なら曹長以下の階級でも帯刀を許される。


 それにレンミョン半島では憲兵は警察官も兼ねているためこの軍刀で目の前の男達を斬り殺しても何ら問題はない。


 米久はこれの刃先を地面に向け、鞘を片手で掴んでいる。

そしてそれをズボンのベルトに指す。


 男達はというと「混乱状態」に陥っていた。


「な!何だ今の光は!?それにあの刀……さっきまであんなの

 持ってたか?

 どこからあんなのをだしたんだ!?

 だから言ったんだ。『ズラかろうって』。」


 「うるせえ!お前……まさかビビってんのか?

 こっちは銃二丁であっちは刀一本。負けるはずがねえ。」


  何が起きたか分からず取り乱す拳銃男に歩兵銃男が目を見開き厳しく一喝する。 

 

 そんな時、 


 「……おい。」 

   

 米久が口を開き、重苦しい声を男達に向けて放つ。


  男達がバッ!と米久の方に顔を向ける。

  何を言い出すのか分からないので男達は一様に不安気な表情になる。


 「自首しろ。今ならまだ選択できるぞ……。」


 沈黙


 米久がそう言った直後、数秒間だけさっきまでの悲鳴や銃声が嘘のようにピタッと静かになった。


 ――そして。


 

 「……ップ。

  ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ。」

 

 爆発的な笑い声が辺りに響く。 


 歩兵銃男の口元が極端につり上がっており、余程おかしいのか構えている歩兵銃もブラブラと左右に揺れている。 

 

 一方、拳銃男はというと驚いたような顔をしていた。その驚愕を含んだ表情はもちろん、米久の「()()()()」の内容ではなく、歩兵銃男の異常なまでの高笑いに向けられたものである。 




 「お前、正気かよ。

 そんな刀相手に俺達が『はい、参りました。』と手を上げる

 とでも思ったのかよ。

 イカレたんじゃねえの?」


 歩兵銃男が米久を嗤う。


  


 この時、歩兵銃男は思っていた。

 

 この俺がこんなよく分からない奴に負ける筈がねえ。 


 それにこの三十八式歩兵銃は装弾数は五発。

さっき再装填(リロード)したから弾丸は銃内部にフルに入っている。


 対して相手は軍刀、距離は10メートルも離れ、おまけに興奮状態でまともに闘えないと見た。

それにこっちはいざというときには援護射撃をしてくれる仲間がいる。 

 

 絶対に負ける訳がねえ。

 

  



 「そうか……それがお前の選択なんだな。」

  


 米久はそう言うと歩兵銃男の方へ一歩また一歩と近づく。


 男との距離が少しずつジリジリと縮まる。


 歩兵銃男も次第に焦り始め、銃を構えて米久の脚に銃口を向ける。

 

 「脚を撃とう。そうすれば奴も動けなくなり、こっちの銃に

 怯えて命乞いするだろう。」


 男の額から冷や汗が吹き出し、銃を構える手もカタカタと震える。

 

 

 そして、左手で鞘を、右手で柄を掴んでその両方をゆっくりと引き抜いていく。


 ニッケルメッキの鞘をゆっくりヌウッと抜き、中から鋼色の刀身が姿を表す。


 その途端――


ズドゥン。


 歩兵銃男が銃弾を放った。刃を見て急に恐ろしくなったからだ。


 米久は銃弾を右脚にくらって、ひざまずく。

 しかし、ベルトに下げてある軍刀の鞘を杖代わりにすると何事も無かったかのように立ち上がり、右脚を引きずりながら男の方へ向かっていく。


 男との距離が4メートル程にまで縮まると、いよいよ男の顔が恐怖に染まる。


 急いで銃のボルトを操作し、次弾を装填しようとする。


 ボルトを持ち上げ引き抜こうとした瞬間――。


 


 米久が左脚で地面を蹴り出し、体を丸めて男の方へ突っ込む。


 

 歩兵銃男もこれには驚き、ボルトの操作を中断し、銃を盾代わりにして攻撃を防ごうとするが軍刀の柄で叩き落とされる。


 歩兵銃男はその衝撃で後ろ向きに倒れ、尻もちをつく。


 とっさに男が米久の方を見るが、目の前に映ったのは米久の顔ではなく軍刀の「刃の先」であった。


 歩兵銃男が両手を上げ、降参する。

 

 「頼む!命だけは!命だけは勘弁してください。

 首領様に命令されてやったんです。

 だから……。」

 

 米久は刀を突きつけたまま冷徹に言葉を返す。

 

「首領様が誰だか知らないがそんなことは関係ない。

 お前は明らかにあんな虐殺行為を楽しんでいた。

 お前も有罪だ!」


「そんな……。お願いします。命だけは!!」


 

 男はとうとう地面に頭をつけ、土下座をする。 


 それに対し、米久は不気味にフッと微笑んで……


 




 「の」の字を書くように刀を振り、男の首を()()()()()()


  

 先程まで男が地面につけていたモノが地面にゴロゴロと転がる。


 米久がもう一人の男……拳銃男の方を見ると遥か遠くに後ろ姿が見えた。


 拳銃男は歩兵銃男が負けそうになった時に逃げ出していたのだ。


 脚を負傷していた為、追うことはしなかった。


 米久は軍刀を落ち着いて鞘に収めて、ゆっくりと周りを見渡した。


 辺り一面に男の凶弾に倒れた死体が転がり、血が壁や道路に飛び散り、すぐ側の銀行からはモクモクと煙が出ている。


 米久の頬を冷たい何かが伝う。 

  

 そしてこの光景を赤くなった眼球に焼き付ける。


 


 それは「もう二度と自分の目の前でこんなことを起こさせない」という決意の表れだった。


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