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八島に捧ぐ鎮魂歌  作者: 倍金満
第一章 覚醒・始動編
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第四話 覚醒 前編

遅くなり申し訳ございません。 

これではクリスマスプレゼントというよりお年玉ですよね。


 ――別寧市 市立公園


 休日の午後ということもあり、公園は多くの家族連れで賑わっていた。

 そんな中、米久は公園中央のベンチに腰掛けていた。この公園は病院からも近く街の中心地にあるということもあって戸城は外出の許可が降りるとここに散歩に来るのが入院中の日課だった。尚、入院中の為、普段の軍服ではなく白いシャツを着用している。

 ふと昨日大佐からもらった名刺取り出し、内容をもう一度見る。

 

 「ミョンレン総督府かぁ。一度も行ったことないな…という

 か何で呼ばれるんだろ?」


 目の前で子供が遊具で楽しそうに遊んでいるのと対象的に戸城はベンチの上で深く考え込む。総督府に呼び出される理由、思い当たることは一つしかない。


 「税関での事件について……だろうな。」

 警察によると自分を撃った犯人はレンミョン人の密輸業者の一人でトラックで違法薬物を隣国に密輸する予定だったらしい。

 そして積荷を見つかりそうになり俺を殺して逃げようとしたそうだ……。

 

 しかしその事件については大佐より数日前に病院にやって来た憲兵や警察の事情聴取で報告済みである。自分は犯人とは面識がないし、何者かも知らないと。

 「なら何が目的で総督府は自分……、ただの伍長を呼び出すのか―。

 いくら考えてもさっぱり分からないな。」


 心当たりのなさにイライラしていると。

  

 突然――

 

 ――パン、パン、パン。


 後ろの方から乾いた発砲音が響き渡り、独特な発泡時の小さな衝撃が体内を襲う。 

 静寂が空間を包み込む。時間が止まったかのように人々の動きが止まり、音がなった場所に注視する。


 

 米久は急いで転がるように地面に伏せ、ベンチを盾代わりにして後方の様子をうかがう。

兵士としての勘が危険信号を放つ。


 ――パン、パン。

どうやら音は俺から見てすぐ直進方向にあり、公園のすぐ側の銀行からなって

 

「ギャアアアアーー『パン』……………。」

 公園のすぐ側にある銀行の中から悲鳴があがるが発泡音がそれをかき消すかのように鳴り、静かになった。

 何が行われたのかは言うまでもない。 

 米久は発砲音が銀行からしていることを知り、同時に一人の命が奪われたことまで知ってしまった。

 

 ――パン、パン。

 すると銀行の扉に小さな穴が二つ空いた。そして激しく蹴破られ、顔を布で覆った二人組の男達が堂々と肩を揺らしながら出てきた。

 

 二人の内、一人は皇國軍の最新ボルトアクション銃「三十八式歩兵銃」を持ち、もう一人は皇國軍の拳銃「二十六年式拳銃」を片手に構え、もう片方には現金が入っているであろう重そうなバッグを持っていた。

 

 拳銃の方は銃砲店で比較的、安価に市販されている。しかし三十八式歩兵銃は「()()」の最新式である。民間人であろう男らが所持しているのは不自然であった。 


 


 三十八式を持っていた男が銃を構え、銃床を肩につける。そしてゆっくりとこちらに銃口を向け――。

 

 ………ズドゥン。

 

 米久の後ろの方にいた男性が膝をついて前に倒れ、地面に血が放射状に広がった。

  

 「キャァァァァァァーー!」

 その悲鳴を皮切りに一瞬で周辺がざわめきパニックになる。


 さっきまで楽しそうに遊んでいたある子供は親に抱きかかえられ、ある大人は一目散に別の場所に避難しようと走り出した。 


 

 そういった混沌と化した状況の人々を見ながら、撃った男は銃を構えたまま銃のボルトをコッキングをする。空薬莢を排出し、次弾を装填する。

 

 ガシャ、カリーン――。


空薬莢が地面に落ち、金属音が響き渡る。 

 

 更に

 ズドゥン、ガシャ、カリーン。ズドゥン、ガシャ、カリーン。


 男は立て続けに銃を市民に向けて乱射する。


 米久にとってそれは正に()()()()でも見ているかの光景だった。


 銃声が鳴る度に誰かが倒れるのだ。ましてや相手は戦場の兵士ではなく市街地にいる一般市民だ。それなのに男は市民に対して発砲をやめない。


 ズドゥン、ガシャ、カリーン。


 また市民が撃たれた。今度は逃げ惑う一人の女性だ。後頭部に穴が開き、前向きに倒れる。


  

 俺は伏せたままその蛮行を見ていた。

 ここでもし武器や手錠があれば男達を取り押さえていた。

 しかし、入院中の身の為に拳銃どころか軍刀すら待っていなかった。故に息をじっと殺し、歩兵銃を構えている男を見ることしかできなかった。 


 

 市民を助けることのできない悔しさが米久を鋭く包み込む。

 

 

 ふと犯人の方に目をやり、顔を見ると米久は驚愕した。


 顔こそ布で覆われていたが銃を撃ちながら口元が三日月のように曲がっているのが分かった。


 つまり、この男は無抵抗の市民を殺すことを楽しんでいるのだ。

 

 もう一方の拳銃男もさすがにこれには驚いた様子で仲間であるにも関わらず後ずさりして、男から距離を取っていた。


   

 「……許さない。」


米久はついに声を上げる。重く苦しい「()()」 のこもった声だった。

 

 「このクズ野郎が……。お前が殺した人達に何の罪があるっていうんだ。」


 米久はヌッと立ち上がった。これ以上目の前で人が殺されるのが我慢がならなかったのだ。


 

 

 歩兵銃を持った男が米久に気づいて顔を向ける。そしてニヤついた顔で米久に言った 


 「おい、誰だお前は?撃って欲しいのか?」


 拳銃男が歩兵銃男の肩を掴んで焦った様子で語りかける。


 「もう十分だろ、ズラかろうぜ。()()のご指示を忘れたのか?」


 「『皇國人共の金を奪え』だろ?指示通りにこなしてるんだ。

 その最中で俺が何しようと自由だ。」


 歩兵銃男は肩を揺らし、拳銃男が掴んでいる手を離させると自身の銃に弾丸を一発ずつ装填していく。

 

 そして、怒りで体がプルプルと震えている米久に見せ付けるようにさっき撃った血を流し倒れている女性の背中に向けて銃弾を放った。


  女性の背中に穴が開いた。


 撃った男はニヤニヤと笑いながらズボンのポケットから弾を取り出して銃に装填(リロード)する



 

 すると――。



 


 一瞬、米久の周囲が真白に光った。男達は余りの眩しさにたまらず目をそらし、肘で顔を隠す。


 やがて、光が静まり視覚を取り戻し、男達は目を開けて光の発した方を見る。 


 

 



 先程まで何も持っていなかった米久の右手にはズッシリと重そうなサーベル型の()()、「三十二年式軍刀」が握られていた。

 



 

 


 


 


次回の更新は2週間以内を予定しております。

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