プロローグ ことの始まりは凶弾から
感想、ご意見待ってます。
なお、「こんな能力があったらいいな」というのがあれば遠慮なくお申しください。
ギラギラと鋭い日光を太陽が放つ雲一つない青空の下は
地獄絵図
現在の帝都を表現するのにこれほど適した言葉はないだろう。
戦時下とはいえ数日前までは人通りが多く活気があった大通りも今や無数に点在するガレキの山と化した。
さらによく見るとそのガレキの山の隙間から黒く焼けただれた手が虚しく天に向かって伸びていた。
かつての大通りには当たり前のように焼死体がゴロゴロと転がっていた。
そこだけではない帝都中でこれと同じような光景を見ることができた。
炎から子供を守る為に子供を抱えたまま死んだ者、熱さのあまり川に飛びこんで溺れ死んだ者、機銃掃射を受けて身体がバラバラな者
それらはガレキの山と共にどれほど残虐な行為が行われたかを物語っていた。
もはや帝都中がガレキと死体の山と言っても過言ではないだろう。
そこには摩天楼もボロ小屋も金持ちも貧乏人もこれっぽっちの差もなかった。
皆、等しく破壊と虐殺の痕となっていった。
そんな常人なら気が狂うか卒倒するような地獄を一人の少年がトボトボと重くふらつきながら歩いていた。
その少年はその場には似つかわしくない艶感のあるダークスーツを身に纏っていた。
ああゝ、理想を追い求めただけなのに。
その為に何度この地獄を見ればいいのだろう。
そんなにいけないことなのか?
自分の故郷を救うことは不可能なのか?
少年は跪く。
やがてフッと眼鏡を外し、『自問自答』を終えた。
「次なら、次こそは。」
次の瞬間、少年の姿は消えていた。
央歴一九一二年(皇暦二五七二年)八島皇國ミョンレン半島
――あれ?
俺は確か税関の任務で国境を越えようとしたトラックの積荷を調べようと運転手に話しかけた直後の筈だ。
……なのに今は視界が九十度、傾いている。
最初に感じたのは胸部をバットで殴られたような衝撃と乾いた音。次に頬から右足のカカトにかけて地面とジャリの固い感触を味わっている。
同僚の憲兵達がやってくる……。一人は運転手を引きずり下ろし手錠をかける。もう一人は俺の意識を保たせようと必死に呼びかけている……しかしそれも無駄だろう……そいつの声が聞こえない。 せめて立ち上がろうとはするものの、手足がまるで壊れてしまったカラクリ人形のように「ビクン、ビクン」と痙攣して動かない。
どうやら俺は倒れてしまったらしい。軍服の胸元に小豆大の穴が空き、赤く染まっていっている。これを見て、ようやく俺は運転手にピストルで撃たれてしまったことを知った。胸が割れる。張り裂けそうでおかしくなる。
――いや、痛みでもう既に胸がおかしくなってしまった。
赤黒い血が太陽に反射して鈍く黒光りしており、ついさっきまで茶色だった道路をどす黒く染め上げる。
ありえない量の血で水たまりができ、俺の顔を覆い尽くそうとしている。口にも入ってきそうな勢いだ。
こんなことなら、本土にいる家族に親孝行すればよかった。母さんは温泉に入りたがってたな……。父さんは仕事が忙しそうだったけど何もしてやれなかった。今となってはどうしようもないが何故か考えずにはいられない。
この半島に赴任してから二ヶ月も経っていないのになぁ。こんなことならここ数週間仕事ばかりしてないで遊んだり、好きな本を読んだり、国内旅行をしたり、もっといろんなことをすればよかった。
あと結婚もしたかった。美人で気立てが良くて、優しい人。そんな人と一緒になりたかった。家庭を持ちたかった。
子供は三人くらいがちょうどいいという。俺もそのくらい欲しかったなぁ。
……って今更そんなこと考えたって仕方がないだろう。何やってんだ俺。
だんだん目を開けているのでさえ、疲れてきた。息すら重苦しくなり、自分でも呼吸しているのか、してないのか分からない。
ああ、世界が闇に包まれる。何も見えない。目は閉じているが、やっとのことで意識だけは保っている。頑張るのだ俺、こんなところで死ぬわけにはいかないんだよ。今、この瞬間一秒でも多く「生きて」さえいられれば残りの人生はどんなに不幸でも嘆かない。決して。
とうとう意識という最後の砦も陥落てきている。 もう俺、終わりかな?
どうかお願いします。誰でもいいです。
どうか僕をもう少しだけ長生きさせてください。
読んで下さりありがとうございました。 ぜひ次話も読んでください。