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小野 豹悟
不安を抱くもの、復讐心を燃やすもの、この詰所に来る人間は様々だが、小野 豹悟はそのいずれとも違い今回の調査に希望を抱いていた。
彼自身心の傷がないわけでなく、父親を亡くし、母親も重傷を負い今なお入院している。
当初は例に漏れず悲しみ、毎日欠かさず母親を見舞っていた。
そして次第に今回の騒動の情報が入ってくるにつれ、状況が人知を超えた何者かの干渉があった可能性が出てきた。
そこに彼は希望を持った。
これほど常識はずれなことを出来るのならばこの壊された日常を元に戻すことも出来るのではないか。
人間には希望が必要であり、彼にも考える時間をなくす行動が必要だった。
母親にこの希望的観測を伝えると、母親は止めることはしなかった。
親子の希望を誰かに任せて気を揉むことも、知らない顔をして誰かの犠牲の上に日常を取り戻すこともするべきではないと思ったからだ。
母は隠しきれない親心を顔いっぱいににじませ豹悟の背中を押し、豹悟もまた調査隊詰所の前で芽生えた恐怖や不安により止まった歩をそれを思い出し再び進めるのだった。