今日の友は明日も友
「おっと、そろそろ時間だね。それじゃあ今日はこれでおしまい。まだもう少しは授業らしい授業はしないけど、明日からも頑張ろう! それじゃあ号令お願いします」
そう橘先生が声をかけると、暫定的に号令係になった人がお決まりの言葉を言い。ありがとうございましたというとクラスはすぐに騒がしくなる。
「いやー、終わった終わった」
「終わったといってもまだまだだけどな」
「それでもやっぱり新しいことってのは緊張するものだぜ? 色々」
何となく色々の部分に身の危険を覚えた俺は白木さんがいる後ろの席を見てみるが、既に白木さんの姿はなく、クラスを見渡してみると女子に話しかけられているが適当にあしらう……というかほぼ無視してさっさと出て行ってしまった。
「おやおや、どうやら鼓草君がご熱心な白木さんはさっさと帰ってしまったようですなあ」
「てめえ今すぐそのにやけてる顔をやめないとぶん殴るぞ」
「おーこわ」
「そういえば、お前自己紹介の時に何か変なこと言わなかっただろうな」
「いんや? 別に何も言ってないけど。ただ鼓草君とは小学生からの付き合いで家に泊まったり泊めたりの深い深い関係で将来を誓い合った仲で最近では同棲同然の日常を過ごしてるって」
「分かったお前殴るわ」
「ステイステイ親友! ほとんど嘘は言ってないだろ!?」
「ふざけんな! 嘘は言ってないというか真実を最大限まで捻じ曲げて伝えてるだけだしそもそも将来を誓い合った仲って嘘も入ってるじゃねえか!」
「いや、ずっと親友でいような的なね?」
「お前……」
流石にここまでくると怒りを通り越して呆れが出てくる……。ちなみに同棲というのはこいつが春休み中ほぼ毎日俺の家に朝から晩まで入り浸り、帰るの面倒だからと俺の家に泊まったりしていたのを言っているのだろう。
「あーごめんって、つい口から出ちまって」
「はぁ……今日のケーキ屋、お前のおごりだからな」
「うげ、まじかよ……」
「そんぐらいの被害を俺は受けたからな、ケーキ一個で済むだけありがたいと思え」
「俺の体を使うということでここは一つ――」
「――さてと、今日の晩御飯は何かなー」
「ああもうわかったよ! だけど一個だけな! お前の腹に合わせて買ってたら金がなくなっちまう!」
「ホールケーキも一個だよな……」
「お前どんだけ食うつもりなんだよ……」
くだらない会話をしながらクラスの外に出ると、廊下のちょっと先に人だかりができていた。
「お、副会長さんじゃーん」
「副会長? 誰が?」
「ほら、あそこのポニーテールの二年生の人、うちの生徒会副会長の時村桃先輩。すげえよなあ、二年生で副会長って。美人だし人望もある、いい人だって話だぜ」
「ほーん」
すると、あの人だかりは全員時村先輩に惹かれてできたものってことか……そう考えると結構すごい感もある。
何となく俺が時村先輩を見つめていると、不意に目が合う。その吸い込まれるような瞳に見つめられ、俺が動けないでいると時村先輩はにこっと笑いかけてくる。それは一瞬だったし、もしかすると俺に笑いかけたわけではないかもしれないけど、俺はそれだけでドキドキしてしまった。
「……ん、おーい京?」
「……え、あ、おう」
「……お前ってそんなに惚れやすかったっけ? まあ確かに白木さんや時村先輩は美人だけどさ」
「だからそういうんじゃないって言ってるだろ」
「じゃあどういうのだよ」
「……さあ」
「さあって……まあ、お前がそういうなら別にいいけど。あんまり他人をじろじろ見んなよ? 女の子ってのはそういう視線に敏感なんだから」
「その言葉は普通にありがたいんだけどお前から発せられるということについては全然納得がいかない……」
「何で? 俺って可愛いし、結構無防備だと思うからそこそこ視線は感じるんだぜ?」
「だろうな、だからこそむかつくんだよ……ほら、帰るぞ」
「へいへい」
まあ、多分気の所為だろうと思うことにした……初対面なのに、そんな態度を取る意味がわからないし。
「ただいまー」
「ただいまですおばさん!」
そのまま、帰り道に別のトラックに轢かれる何てことにはならず。無事に家に帰ることができた。まあそもそもあれは急いでて周りを見てなかっただけであって、普段の俺は結構交通ルールは守る方である
「あら、お帰りなさい二人とも」
「おばさん! 今日の晩ご飯はなんでしょうか!」
「今日はね、いいイカが入ったからたこ焼きよ〜、たこパよたこパ」
「すげえやイカとたこパの関連性がよくわかんねえ」
「どっから仕入れてくるんだよそういう情報……」
「今時の主婦ならちゃんと流行を把握してないとね」
「旬はとっくの昔に過ぎたと思うんだけど……」
「まあまあ、気にしない気にしない」
うちの母さんはとにかく何でもかんでも受け入れるタイプでどこで手に入れたんだよ的なアイテムも買ってくる。
なんかふわふわしてて一見頼りなさそうだが、怒ったりしたらマジで怖いので、俺もそんなやんちゃはせずにここまで育ってきた……いや、マジで怖いんだよ。
「そうだぜー京。細かいことは気にしないのが一番だ」
「俺の尻を撫で回すのは細かいことなんですかねえ?」
「いててて! 腕抓んなって悪かったから!」
ちなみにこいつは俺の親の前であろうが平常運転で母さんも父さんもただのスキンシップぐらいさと思ってるので別段止めはしない、止めはしないけどこれ俺が女だったら普通にセクハラだからね? ちょっとは気にして?
「あらあら、二人は相変わらず仲がいいのねえ。あ、そうだ葉月君、もし良かったら今日のたこパ参加しない? 宣二さん今日も遅いんでしょ?」
「マジすか、もちろん参加します! おばさんの料理は美味しいですから!」
「あらあら、この子ったらお世辞がうまいんだから」
「お世辞じゃないっすよー」
葉月の家は父の宣二さんと、葉月の二人家族である。別に離婚したとか、奥さんが死んだとかの話は聞かないが少なくとも小学生の頃からずっと二人暮らしだ。
宣二さんは仕事の関係で大分帰りが遅くなるので、昔から葉月を夕飯に招いたり、別に家族仲が悪いというわけでもなく、たまの休みは葉月と過ごすのを優先したりうちに来て一緒に夕飯を囲んだりと所謂家族ぐるみの付き合いというものをしている。
「でも、葉月君が来てくれて助かったわー。うちの家族だけじゃ食べきれるか怪しかったもの」
俺も親父も結構食う方なのにどんくらい焼く気なんだろうこの人……。
「あ、そうだ。ちょっとまってね葉月君」
「待ちますけど……」
そう言うと母さんは奥に引っ込む。
「何だろう……変な部族のお面とかだったらもううちに置き場ないんだけど……」
「確かお前の所リアリ族のお面二個で被ってるんだっけ?」
「おう」
「うちは三個だ」
「……なんか、どんまい?」
いや、別に買うことは構わないんだ。どっから金を出してるのかは知らんが家の金ではなく自分の金使ってるみたいだし。ただもうちょっと買ってくる物は選んでほしい。
「ただいまー……ってお兄ちゃんに葉月さん。どうしたのここ玄関だよ?」
「お、お帰り花火ちゃん」
「お帰り、花火」
帰ってきたのは俺の妹、花火である。名前の通り明るいいい子で、俺のことを慕ってくれているので、可愛い妹だ。
「いや、おばさんから待っててって言われちゃってね」
「まあ、玄関で立ちっぱなしってのもおかしな話だよな。一回うちに上がるか?」
「そうするかなあ……」
「お待たせ、葉月君」
そんな話をしていると、手に何か持って母さんが戻ってくる。
「はい、これ。葉月君に似合うと思って」
そう言うと母さんは葉月に赤い石がハマっているヘアピンを渡してきた。
「似合うって……母さん、こいつ男だからな?」
「あら、男でも可愛いものは可愛いでしょ?」
「そうそう。おばさん、ありがとうございます!」
「いいなあ葉月さん」
「花火にもちゃーんと買ってあるわよ、仮面」
「仮面はもういいって……」
「──よし、どうだ? 京、可愛いか?」
「ん?」
もうそろそろ仮面コレクションが100を超えそうな花火を哀れんでいると、葉月から声をかけられる。そちらを見ると、早速貰ったヘアピンをつけている葉月の姿があった。
「まあ、似合ってるんじゃねえの?」
「何だよもうちょっと言うことあるだろ?」
「男がヘアピン付けてる姿みて何を言えと……」
「……可愛いとか?」
「葉月さんすっごく可愛いですよ! お似合いです!」
「お、だろお? 花火ちゃんを見習えよー京」
「何を見習えと──」
「──たすけて」
俺が呆れながら葉月に悪態をついていると、不意に知らない女の子の声が聞こえてくる。
「……イベリス?」
「ん、どうかしたん?」
「お前今何か言ったか?」
「いや、別に。ただ妹ちゃんロリロリしくて大変よろしいと」
「わかったお前はもう金輪際口を開くな」
一応イベリスに、勿論声を出さずに聞くが、イベリスでもないらしい。
「? どうしたの、お兄ちゃん」
「え、いや何でもないよ」
「そう……気のせいかなあ」
「気のせいって……もしかして花火も──」
「すまん、京。俺帰るわ」
「え?」
「あら、別に遠慮しなくてもいいのよ?」
「いやあ、ちょっと今日中に片付けなきゃいけない用事を思い出しちゃって。また今度ってことで、本当にごめんなさい」
「別にいいのよ。それじゃあ、また今度ね」
「はい。それじゃあ、俺帰るわ、ケーキはまた後で奢るから」
「まあ、それは別にいいんだけど……何かあったか?」
「……いや、何もないよ」
「そうか」
絶対何かあるんだろうが、まあ大丈夫だろう。どっちも結構溜め込むタイプだからこそ相手が限界だと思ったら無理やりにでも聞き出すし、自分で限界だと思ったら話す。そう言う関係なのだ、昔から。
「それじゃ、帰るわ。お邪魔しましたー」
「また明日学校でな、奢りの件忘れんなよ」
「あいよー」
そして、葉月はいつもよりは少し真剣な顔をしながら家を出て行った。
「どうしたんだろう葉月さん…」
「まああいつだし大丈夫だろ」
「そっか、じゃあお兄ちゃん遊ぼうよ! トランプしよトランプ!」
「お前中三にもなってトランプかよ……まあ別にいいけど」
「やったあ! じゃあババ抜きね! 勿論私の席はお兄ちゃんの膝!」
「二人でババ抜きってクソつまんねえだろ、七並びしようぜ」
「お兄ちゃん絶対六とか八出さないから嫌なんだけど……」
「七並べはそれが醍醐味みたいなところあるし……」
「そんなのを醍醐味だと思ってるのはお兄ちゃんぐらいだよ。だから、ババ抜き決定ね!」
「はいはい、分かりましたよ」
「ちなみにお兄ちゃんにはお母さんが私にヘアピンくれなかった罰として勝負中ずっと私の手を握ること!」
「ねえそれに関しては俺関係なくない?」
「私たち家族でしょう? 連帯責任よ」
「いや、これ連帯責任って言わないから。ただ責任押し付けてるだけだから」
「──さてと、たこ焼き機の準備をしなきゃ」
俺のことなどガン無視してそのまま母さんはキッチンに行ってしまった。というかこの家は何で当たり前のようにたこ焼き機があるんだ。大阪じゃねえんだぞここは。
「じゃあお兄ちゃん。ババ抜きしよ!」
「逃げないからそんな腕引っ張るなって、今行くから」
その後、父さんが帰ってきて、たこ焼き(中身は全てイカ)パーティが始まるまで、俺はずっと花火を膝に乗せ、手を繋ぎながらババ抜きを続けた。
正直片手のババ抜きとかやりにくいことこの上なかったが、入ってくるかもと警戒していたイベリスの茶々入れも入ることはなく平和に過ごせたので、まあ良しとしよう……今日一日で色々変わってしまったけど。うん、まあ……今は思考を停止したほうがいいだろう。




