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7話 信用できる仲間が出来ました

 翌朝、僕はいつも通りの時間に起きる。日が出る前、大体4時くらいだろうか。


「……ふぅ、良いベットだと疲れが取れるなぁ」


 僕はしみじみ思いつつ、身体を起こし、軽くストレッチをしてからフォーノとアーレイの寝ている合間を縫って部屋から出て、庭に出る。毎日の習慣である魔力操作と木刀で素振りをする為だ。


 木刀を持つ右腕を引き絞り、縦に振り下ろす。その動作を確認するようにゆっくり、そして振るのは素早く行う。


「……九十九、百、っと」


 近くに置いておいたタオルを手に取り、汗を拭う。ぞわっと背筋が凍るような感覚を覚える。僕は今まで立っていた所から飛び退く。次の瞬間、元いた場所に5本ほどの矢が突き刺さった。


「誰だッ!」

 僕は怒鳴り声をあげ、辺りを見回す。正面にある民家の屋根を見ると、弓を持ち、胸当てを装備した女性が僕を睨み付けている。腰に下げた矢筒からまた3本ほど矢をとり、弓に掛け引き絞り僕目掛けて再び放ってくる。

 僕は目にも止まらぬ速さで飛んでくる矢に向けて木刀を振る。縦に3連撃を入れると、矢は真っ二つに裂けていた。それを見た襲撃者は目を見開き、それでいてこちらに勝ち目はないとみたのか弓を下ろし、地面に降りてくると、敵意はないと両手を挙げて僕に向かって歩いてくる。


「……私の負けです」

「意味が分からない、何故僕に攻撃を仕掛けた?」

「私は強い人を求めてこの街に来ました。それであなたを見つけたらなんだか身体が疼いちゃって……攻撃しちゃいました」


 てへっ、と言わんばかりに自分の頭を小突き、舌を少し出して言う。しかし強い人を求めてこの街に来たのは本当のようで僕は力を入れていた身体を脱力させる。


「なんだ、暗殺者とかじゃないのね」

「そんな訳ないじゃないですか、それだったら顔を隠しますし」


 よくよく見ると、美しい女性だった。

 肩にかかる透き通った蒼い髪に、髪と同じ色をした綺麗な瞳。肌は白く透き通っていて、幻想的な雰囲気を醸し出している。身長は僕よりも頭1つ分小さい。


「君は冒険者か?」

「はい、Bランクに上がりたてです……」

「僕のジョブを分かっているのか?」


 一瞬だけ思い出すように首を捻ってから女性は話し出す。


「それは……もちろん【騎士】ですよね?」

「違う、僕のジョブは【魔物使い】だ」

「……ッ!」

 口元に両手を当て、驚きを隠そうとするが遅い。僕は今までもこんな風な眼で見られてきた。“可哀そう” 鬱陶しい。僕は冷徹な眼を彼女に向けて言う。


「とっとと失せろ、君のようなやつと仲間になるわけが――」

「かっこいい……」

「は?」


 僕の言葉に被せるように食い気味な様子で、朝早く、それも静かな空間で呟いたら誰にでも聞こえる。僕は今まで聞いた事も無い言葉を呟かれ困惑していた。彼女は俯いていた顔を上げると僕の顔に自分の顔を近づけながら興奮した様子で一方的に話しかけてくる。


「かっこいいです! 凄いですね! 【魔物使い】であの剣技! 木刀で私の特製の矢を撃ち落とす技術!」

「え、えぇ……」

「それに加えて、朝の鍛錬の様子を窺っていたんですけど、努力の証が見て取れます!」

「はぁ…………」


 彼女は言葉を切ると、一息ついてから、さっきよりも目を輝かせて言ってきた。

「私は貴方のような強い方を探していたのです! 私とパーティを組んでください!」

「丁重にお断りします」


 僕はしっかり腰から曲げ、頭を下げる。頭を上げると彼女はどうして、と言う表情をしているが僕はそれを無視して地面に落としたままの木刀を拾い、縁側に置いたままのタオルを取ると家の中に入ろうと玄関へと向かう。やはりと言うべきか、彼女は諦めずに話しかけてくる。


「私と組んでくださいっ! お願いしますっ!」

「断ると言った」


 僕は突き放すように極力冷たい声で言い、帰らせようとするが、その時玄関の扉が開いた。


『いいではないか、レイ』

『そうよ、レイ』


「ま、魔獣が……喋ったぁぁっ!?」

 まさかの魔獣の登場に彼女は一瞬固まるが、すぐさま腰に差してある2本の短剣を逆手に両手で持ち構える。そんな彼女に僕は声を掛けた。


「だから僕のジョブは【魔物使い】だって」

「で、でも……こんな強い魔獣が…………」

「おお、君は分かるか…………よし」

「……?」


 僕の呟いた言葉に眉を顰める彼女に僕は両手に腰を当て、胸を張り言い放った。


「君とパーティを組もうじゃないか」

「ええ! どうしたんですか、急に……」


 僕の突然の態度の変化に驚きを隠せない、それに後半声が萎んでいったのは僕に何か裏があると思ったからだろうか。僕はそんな彼女の訝し気な視線を受けながら言う。


「いやぁ、彼女たちが認めたんだ。僕は君を信用する」

「あ、あの……本当に…………?」


「僕とパーティを組んでくださいませんか?」

 紳士のようにそしてなんだがプロポーズのような感じになってしまったのは置いておいて、彼女は徐々に目尻に涙を浮かべ始める。


「ぐすっ……まさか、こんな言葉をくれる人がいたなんて…………」

 その後も少し泣いていたが、ごしごしと袖で涙を拭うと、輝いた笑顔で言ってきた。


「よろしくお願いしますっ!」


 ぎゅっと握手をする2人。僕ことレイはこの彼女から人に心を開いていくのをまだ知らない。



 僕はその後彼女を家の中へ招待し、朝食を振舞った。

 朝食は異世界から呼ばれた勇者様がこの世界に伝えた料理でパンに具材を挟んだ“サンドイッチ”。僕はそれをぱぱっと作り、彼女とそしてフォーノとアーレイを一緒に食べる。

 彼女はどうやらお気に召したようで既に2切れを食べ終わしている。そんな彼女に僕は質問した。


「僕はレイ、君の名を教えてくれないか?」

「ああ、すいません……私はシーナを言います」

「シーナね、宜しく。僕に敬語は使わなくていいから普通に話してくれると助かるよ」

「わ、分かったわ、レイさん……は、恥ずかしいぃぃ~」


 年相応と言うか男慣れしてなさそうな少女だったようで赤く染まった顔を両手で隠している。ほんの少しだけ可愛いと思ってしまう僕を殴ってやりたい。


『シーナとやら、我はアーレイ。レイを主人とする“地竜”だ』

『そんな威圧したら可哀そうよ私はフォーノと言うの。レイを主とする“グリズリー”よ』


「…………え?」

「あれ?フォーノってツキノワじゃないの?」

『違うわ、あんな下等生物と一緒にしないで』

「ああ、ごめんよ」


 ふん、とそっぽを向いてしまうフォーノを見て、レイは慌てふためく。その様子を見たシーナはくすっと笑みを浮かべる。


(この子たちはレイさんが好きだし、レイさんもこの子たちが好きなんだ……いいなぁ)


 羨ましさが顔に出ていたのかレイはシーナを見ると声を掛けてきた。

「フォーノとアーレイを撫でてやってくれ」

「いいんですか?」


『勿論だ、レイとパーティを組むと言う事は言わずもがな家族と同等だからな』

『そうよ、シーナ。私達は貴方を家族だと思っているわ』


「ぐすっ……うぅっ…………ありがとう……」


 先ほどよりも大粒の涙を流し始めるシーナを見て僕は狼狽してしまうが、フォーノが『抱き締めてあげなさい』と言ってきたので、僕も彼女には好意を抱いていたのでそっと近づいて彼女を優しく抱き締めた。シーナの頭が僕の胸辺りに収まり左手で頭を撫でる。


「ああっ! レイさんレイさんっ! ありがどう……うわぁぁぁん!」


 彼女、シーナにとって“家族”という言葉はどうやら安心感を抱かせてくれるらしい。

 僕は嫌悪感しか覚えないけど……でも彼女が妹だったら今頃――いやそれは無粋な考えかな。


 十数秒後にはシーナは完全にいつも通りに戻っていた。

「お恥ずかしい所をお見せしました……」

「気にすることはないさ、僕だってそういう時あったし」

 その後僕は彼女が宿で寝泊まりしている事を聞いて、この家へ来るように勧めた、やはりそれは嫌なのか少し顔を顰めたので僕は早々に話を変えようとしたが、彼女曰く「養ってもらう訳にはいきませんし……」と言っていたのでこの家は伯爵の持ち物だといったら今日一で驚いていた。僕と一緒が嫌なわけではないようで僕は少し安心した。シーナは考えた後にやはりこっちに住みたいと言ってきたので僕は快く承諾した。フォーノとアーレイもシーナの事を友人的な意味で好きらしいし。

 と言う事で僕は家具を買いに出かけようとシーナに声を掛け、玄関へ向かいながら言う。


「出かけるついでに冒険者ギルドへ行こう、パーティ申請と僕は昨日の依頼の報告をしなくちゃいけないから」

「はい、それでレイさんのランクっていくつなんですか?」


 完全に好奇心だけで聞いてきたようで僕は本来のランクを教えた。


「Aランクだよ」


 顎が外れそうなほどシーナは口を開けて呆けていた。僕はこの彼女の顔を見て不用意にも笑ってしまった。



 どうやら今日から新しい生活が始まる事に僕は高揚感を覚えた。



楽しみにして下さっている方には大変申し訳ないのですが次話から不定期になります。

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